負けんのはこれっきりだ

「とっておきのオペレーション?」
「おい、そのオペレーション・・・・・・・ってワードチョイスはまさか……」
「ええ! 医刀さんリスペクトですわ!! 私ほんとは考えてましたの! はじめから!」
「ざけんな!!」
「いいから早く教えろ」

八百万に降ろしてもらった轟が、簀巻きにされてあった万癒を解放してくれた。
閃光弾の光で目が眩んだ先生と距離を取り、移動する中で話をする。


「轟さん、隠れるんです!! 三人で! 先生の目、少し不安定になっているようです。そうでしょう? 医刀さん」
「ご名答。先生の個性の発動時間は短くなっているし、インターバルも長くなってる」
「USJの怪我か……で!? それを利用すんのか」
「いえ! ともかく一旦視界から外れませんと! 時間さえあれば私たちの勝ちですわ!」
「時間……先生の視界から外れるって……!? 出来るか? 個性使えねぇんだぞ」
「おまえ、なんのためのぶっぱ個性だよ。おまえなら出来るはずだぞ」
「俺が?」
「「個性が使えない」は悪い思い込みですわ! 一瞬……必ず隙が生じます! 瞬きし……再び視られるまでの一瞬! 轟さんはその一瞬で出せるでしょう!? 体育祭で見せたあの大氷壁を!!」

そして見事に轟はやってくれた。これだけ大きな氷壁であれば時間が稼げる。時間が稼げるということはつまり、八百万の個性が遺憾なく発揮されるということだった。


「復活した瞬間に遮った。これで個性使える。今のうちに全容を……」
「轟、こっち向いとけ」
「お」
「それ、相澤先生の捕縛布だな。おまえver.っていったところか」
「ええ。素材や詳しい製造工程が分からないので。その代わり、ある素材・・・・を練り込んでおきました。住宅街である以上、被害はなるべく抑えなければなりません。そして、あの捕縛武器による素早く捉え辛い動き……私の考えはこうです――」

まだ八百万はこの作戦が相澤に通用するのか自信がないのだろう。
自信の喪失は、成功することで取り戻すものだ。万癒は少し考えて、口に出すことにした。


「その素材……ニチノール合金だろ?」
「さすが医刀さん。ご存じでしたか」
「轟がいるからな。……私もおまえと同じことを考えていた。気休めにしかならねぇかもしれねぇが……おまえが私をすげぇやつって思ってんなら……大丈夫なんじゃねぇの」
「医刀さん……。……――勝負は一瞬、お二方……よろしいですか?」
「当然」
「――ああ、文句なしだ」

とっておきのオペレーション。才媛二人がこれが最善策だと打ち出した策に、文句などあるはずもなかった。







脱出ゲートは大氷壁のその向こう。相澤がいる方向だった。
脱出ではなく、捕縛が勝ち筋。轟と八百万が布を被って相澤を引き寄せ準備している間に、万癒は別ルートから回り込んで射程圏内に入る。


「やっぱあいつすげぇわ。おかげで射程距離が伸びた・・・
「っ、医刀……!」

八百万がカタパルトの発射でミスをしたのをカバーする。八百万が創造した麻酔銃に万癒特製の麻酔を装填して撃ったそれは、相澤を大いに警戒させた。
麻酔銃で撃ち抜ければいいが、必ず相澤は万癒のこれと轟の氷結を警戒する。故にこれを決定打にするプランは初めからない。これらはすべて、相澤の注意を引き付けるものでしかない。格上の相手に打ち勝つには、伏兵というものが潜んでいた方が勝率が上がる。
その点で言えば、一番警戒されていない・・・・・・・・・・のは八百万だった。だからこそ、八百万に委ねた・・・


「轟さん!! 地を這う炎熱を!!」
「(当てに来ない……医刀も違う……一体何を……)」
「先生相手に個性での攻撃を決め手にするのは極めて不安……ですから、ニチノール合金ご存知ですか? 加熱によって瞬時に元の形状を復元する……形状記憶合金ですわ!」
「……大したもんじゃないか」

オペレーションは大成功。
見事、轟・医刀・八百万のチームは条件達成し、一番で課題をクリアするのであった。







「こんなすんなりいくか……」
「だから言ったろ。創造しちまったもんは先生の抹消対象外、予め準備もできるって。準備さえできちまえばあとはどうとでもなんだよ」
「すごいんだな、おまえらって」
「そうだろうそうだろう。ま、ここまで上手くいったのはおまえがバカ強い氷結と炎熱持ってたからだけどな」
「そうか。役に立ったなら何よりだ」

そんなことを轟と万癒が話していると、八百万が何かを考えるような浮かない顔をして、相澤に尋ねた。


「しかし……カタパルトの発射で私……ミスを犯しました。医刀さんがカバーしてくださいましたが、先生はミスに気付いた上で距離を取った……あの隙に防げたハズなのに……先生は、故意に策にのったよう見受けられました」
「隣の轟と居場所の分からなかった医刀を警戒しただけだ。おまえは見≠ヲたが、轟は布を被っていたからな。凍らされると考えた。俺が最善手だと思い退いて、それがおまえの策略通りだったわけだ」
「ああ……本当時間さえありゃ……だ。ありがとな」

八百万の自信はこれで取り戻されたらしい。
万癒は内心で先生も甘いなと思う。仮にあれで八百万を封じられても次の手がなかったわけではないが、八百万はさらに落ち込んでいたことだろう。期末試験というだけあって、生徒に勝ち筋を残したのを鑑みると、まぁそうなるよなと思う。ミスをどうカバーするかもちゃんと見られているわけだ。


「あの……そういえば、医刀さん」
「なんだよ。あ、これもらっていいか? 私じゃここまで射程距離伸ばせねぇんだわ」
「それはかまいませんが……あの、私の体質と頭脳に……打ちのめされたというのは……」
「……それ聞いてくんのかよ……」
「そりゃ気になるんじゃねぇか? 俺も正直気になった。「初めての挫折おめでとう」って、何の話だ?」
「おめぇも乗るのかよ!! ほんとお喋りになったなおまえ!!」

ちらっと相澤の方を見てみると、相澤も話せばいいんじゃないか、と言わんばかりの顔をしていて、万癒の味方はどこにもいなかった。
八百万と轟の期待の眼差しに、万癒は耐えきれなくなり……逃げようとしたところ、「俺らと対等になるんじゃなかったのか。逃げるのか」と轟の無意識の煽りを受け「上等じゃこら話してやんよ!!」と承諾してしまった。


「……私も脂質を創造源にしてるんだが……私は脂質を蓄えにくい体質なんだよ。だから創造できるもんに限りがある」
「え、ええ……確かに医刀さんは苦労されていらっしゃいますね」
「おまえは……わりとぽんぽん創造するだろ。私にとっては意味わかんねぇやつなんだよ」
「えっ」
「八百万がすごいってことだな」
「……まぁ、そうだ。んでまぁ……私はおまえらのことを下に見てたわけだ。子どもだって思ってた。けどおまえ……中間試験私と全く同じ点数だったろ。その上、おまえの個性意味わかんなすぎんだよ……なんだ、分子構造レベルで理解して創るってバケモンか」
「ばけっ!? えっ!?」
「ものすごくすごいって言いてぇんだな、きっと」
「私はそこまで物事理解してねぇよ……その上で色々創ってるおまえが意味わかんなくて、見下してたヤツに自分の得意分野で敵わないんじゃ・・・・・・・・・・・って思ったら、すげぇショックだったんだよ。その上おまえは私の方がすごいって言うし……ざけんなそういうオメェはバケモンだろって思ったんだよクソが!!」
「ひゃいっ! すみませんっ!!」

八百万はまだ全然ピンときていないようであった。自分の頭脳の規格外さを理解していない。いや、おそらく八百万の中で医刀万癒という人間が偉大過ぎるのだ。
今まで同年代で並ぶものがいなかった人生が、ここに来て響くとは思いもしなかった。


「要はだな……おまえの方が私より頭がいいってことだ。私は生まれて初めて、同年代のヤツに敗北し、打ちのめされたわけだ。その結果が上鳴に「初めての挫折おめでとう」なんざふざけた祝われ方されてんだよクソにもほどがあんだろうが!!」
「はっ! あの時上鳴さんが追いかけて行ったあとですわね!」
「そうだ!! でもな八百万ぅ……勘違いすんなよ!! おめぇに負けんのはこれっきりだ!! いいかっ、おめぇに出来ることが私に出来ねぇはずもねぇ!! それを必ず証明してみせっから覚悟しやがれ!!」
「はいっ! もちろんですわ!!」
「いや喜ぶな!! もっとバチバチしろや!!」
「無理だろ。八百万は……医刀のこと大好きだ」
「私は好きじゃねぇけどな!!」
「えっ……」
「……医刀」
「ぐぬぬぬぬぬ、まぁ? 興味はあるぞ興味はな!!!」
「まぁ……!!」
「よかったな」

振り回され気味の万癒の様子に、相澤は密かに笑みを浮かべた。いい方に転がったらしい。ここにいる三人共が一皮むけた。
己の弱さと向き合い、受け入れ、乗り越える。それが出来ればもっと強くなれる。プルスウルトラ、更に向こうへ。

林間合宿が始まろうとしていた。


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