思わぬ収穫

林間合宿は万癒の予想通り赤点組も参加することになった。
合宿に必要なものを買いに行った際――無理やり付き合わされた――、緑谷が死柄木と接触しショッピングモールは一時閉鎖となった。
そういったこともあり、合宿場は直前まで誰も知らされぬまま、バスで移動したはいいが……やはりそこは雄英。ご親切にバスで合宿場まで案内してくれるはずもなかった。
万癒たちは私有地であるだだっ広い森を彷徨うこととなる。おまけにピクシーボブの個性で創られた土魔獣つき。魔獣の森を突破するのはかなり骨が折れた。

唯一よかった点と言えば、その日の世話を全部焼いてもらったことだろう。
だがそれも今日だけと言っていたので、明日からは何もかもが地獄だった。







「クソが……やっぱこうなるよなぁ」
「しょうがねぇ……俺らは食ってなんぼだ。頑張ろうぜ!」
「ええ、医刀さんには大分辛いかもしれませんが頑張り――」
「誰が辛いって!? おめぇが余裕なんに私が根を上げるはずがねぇだろ!!」
「はっ、私また医刀さんの気に障る言い方を……!」
「別に障ってねぇ!! 通常運転だ!!」
「(十分障ってんだろ……)」

万癒は砂藤と八百万同様、ひたすら食べて創造する――砂藤は筋トレだが――という個性訓練をしていた。
今回はケーキやチョコレート、クッキーといったものだったが、糖分や脂質が多いものが集められていた。万癒の脂質が多いもの嫌いを知っている八百万は、苦手なものを食べ続けるなんて辛いでしょうけど、一緒に頑張りましょうといった意味で言ったのだが、しっかり万癒の逆鱗に触れていた。

期末試験で「おめぇに負けるのはこれっきり」「おめぇに出来ることが私に出来ねぇはずもねぇ」と宣言した通り、万癒はしっかり八百万をライバル意識していた。
けれどそのライバル意識が思わぬ方向に働くことになる。


「あ?」
「どうしました? 医刀さん」
「……分子構造レベルで理解した上で創造してみたんだが……」
「(分子構造レベル……?)」
「まぁ! もう物にされているのですね! さすが医刀さんですわ!」
「おめぇに褒められても嬉しかねぇよ!!」
「すっ、すみませんっ」
「謝んな! 別におまえは悪くねぇ!!」
「はいっ」
「(どんなテンションだよ……)」

砂藤は独特な万癒のテンションに心中でツッコミを入れた。同い年ながら、どこか大人のような落ち着きがあったはずの万癒だが、今ではすっかりこんな感じだった。特に八百万に対しては感情を剥き出しにしており、なんだか少し、医刀って意外と子どもっぽいんだなという印象さえ抱くようになっていた。

あと期末試験を通して万癒の人となりを多少なりとも理解した轟は、なるべく発言したり会話しようとしているといった通り、八百万や緑谷にブチギレている万癒に「八百万はすごいって褒めてるんだな」「また心配してるんだろ?」といらん通訳をするようになってしまった。「おめぇ轟! いい加減にしやがれ!」ブチギレられるのももはやセットである。
余談だが、上鳴が「ちょっと万癒って爆豪と似てるよな。女版爆豪!」とか言い出したせいで、万癒と爆豪両方から「「どこがだ!!」」ブチギレられていた。ブチギレてばかりである。

なにはともあれ、前よりずっと万癒という人間が身近に感じられるようになったので、クラスメイトは概ね大歓迎であった。


「……この方法で創造すっと……確かに創造速度は落ちるんだが、脂質の消費がかなり抑えられてんだよ」
「まぁ……! そのような効果が!?」
「へぇ、じゃあ前よりいっぱい創れんだな!」
「ああ。救命はスピード勝負だ。一分一秒が生死に関わる。でも、ブツがなくても救命はできねぇ……この個性訓練で、必ずや何も考えずとも・・・・・・・創造できるレベルに達してやる……!!」
「はわ……! 素晴らしい向上心ですわ……!」
「八百万〜戻ってこ〜い」

ギラついた万癒の瞳にさえ胸が高鳴った。やはり憧れは消えないらしい。
当の本人は「おまえのマトリョーシカレベルに達してやんよハッハッー!」と言ったところだった。打ちのめされはしたが、その後のこの向上心を見るにいい影響を受けているのだろう。切磋琢磨するライバルがいるというのはいいものであった。







己の食う飯は己で作らねばならない。飯田がいい感じに乗せられ、世界一美味いカレー作りなるものがはじまったが、やはりそううまくはいかなかった。


「いただきまーす!」
「店とかで出たら微妙かもしれねーけど、この状況も相まってうめーー!!」
「言うな言うなヤボだな!」
「ヤオモモがっつくねー!」
「おめぇあんだけ食ってよく食えんな……? 私は入る気がしねぇ……無理やりにでも食うけどな!!」
「ええ。その意気ですわ医刀さん! 私たちの個性は脂質を変換して創造していますもの。沢山蓄える程沢山出せる! つまりプルスウルトラですわ!」
「うんこみてぇ」
「瀬呂ぉ!! いい度胸だ! 次おめぇが怪我したらカラフルなトリアージつけて辱めてやんよ!!」
「地味にえげつねぇ」

距離的に制裁が難しかったが、耳郎が殴ってくれたのでよしとする。しっかり中指は立てたが。隣にいた上鳴が「万癒さん中指中指」無理やりしまった。
八百万がすっかり沈んでしまい、万癒はおまえなぁとまたもやブチギレつつ、声をかけた。


「八百万! おめぇもんなことで沈んでんな! もっと歯向かえ!! 言われっぱなしでいいんかこの野郎おおお!!」
「は、歯向かうだなんてそんなっ」
「おめぇさっきは「人の手を煩わせてばかりでは、火の起こし方も学べませんよ」とか言ってたじゃねぇかよぉ!! あの気概を!! こっちにも適用しろやこのクソお上品なお育ちしやがってよぉ!!」
「ハッ」
「待て待てヤオモモ! 万癒さんの言う事鵜呑みにしないで!! 教育に悪いから……!!」
「上鳴おめぇ! 私が教育に悪影響だってか!? つか八百万もんな年じゃねぇだろうよぉ!!」
「いやそういうわけ……んんっ、ヤオモモは最後の砦なんだよ!」
「上等だこら!! 八百万の意識改革してやんよぉ!!」
「医刀を止めろーー!! ヤオモモが魔王マオモモにされんぞーー!!」
「マオヨロズとかそんなのヤオモモじゃないよー!!」
「誰が魔王じゃゴラ!!!」

その様子を見ていた緑谷は「医刀さん……」若干怯えていた。隣にいた轟が「医刀は今日も絶好調だな」と微笑んでおり、緑谷はちょっと同意しかねた。
前よりずっと、クラスに溶け込んでいるとは思う。緑谷はこうして見ると医刀さんも年相応の……年相応の……と思おうとして、やっぱり違うなと悟りを開いた。でも、似てるなと思う。誰とは言わないけれど。


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