そうでしか生きれない

万癒は走っていた。患者緑谷がどこにいるかはわからなかったけれど、爆豪が狙われているのならば、緑谷は間違いなく爆豪のところへ移動しているはずだった。爆豪は轟と二番目に肝試しに出発した。まだ森の中にいるとみて間違いなかった。


「んだこれ……毒ガスか?」

しばらく歩いていると、霧のようなものが漂っていた。ガスマスクを創造し、装着するが……万癒は大分事態は悪いと察した。毒ガスが撒かれておそらくかなりの時間が経っている。これも敵の個性とみていいだろう。それならば濃度に差が出るかもしれない。濃度の高い場所に襲撃からずっといるのであれば……生存率が低い。一刻も早く解毒しなければならない。


「マジでどこだ……ラグドールがいれば……クッソッ」

ラグドールのサーチがあればどこに誰がいるのか把握できる。けれどそのラグドールもどこにいるのか分からない。分からないものを頼りに探すより、危険と思われる場所に片っ端から当たる他ない。
そして万癒は見つける。B組の生徒がガスマスクをつけて横たわっているのを。


「これ……そうか、八百万が」

八百万はたしか四番目に青山と出発した。襲撃されたのは5番目の麗日と蛙吹が出発した後。それならば、八百万ならガスマスクを配っているはずだ。
フィルターに限界はあるが、八百万の創造なら処置は可能だろう。毒ガスに対する生存率はこれで上がった。

その時、木々をなぎ倒す大きな衝撃があった。誰かが戦っている。
最善は……万癒が取るべき行動は……。


そっち・・・は任せたぞ……八百万……!!」

毒ガスの対処はおそらく八百万が完遂する。そう万癒は信じることにした・・・・・・・・







万癒が見たのは、歯が刃のように武器になる個性を持った黒ずくめの男だった。だがそれを黒い化け物が一瞬で制圧し、どういうわけか、その化け物もまた、一瞬で消えた光景だった。
何が起こったのかよくわからなかったが、合流して問題なさそうだったため顔を出すことにした。


「驚いた。それ黒影ダークシャドウかよ。危うく麻酔銃ぶっ放すところだった」
「医刀さん!? なんで……飯田くんたちと施設に行ったはずじゃ」

急に出てきた万癒に、一同は驚いた表情を見せていた。
爆豪に轟、障子、常闇……そして緑谷。轟が誰かを背負っていたのも見えた。特に緑谷の問いに答えることなく、ちゃっちゃと轟に背負われた円場を診ている万癒に、察しの良い面々はありゃ相当怒ってんなと身構えた。


「……見つけたのが早かったのが功を奏したな。こいつはこのまま合宿場に運ぼう。それと、そこの茂みにB組のやつらがいる。何とか引っ張ってきたが……さすがに私じゃ2人も担いでいけねぇ。おまえらが運べ」
「俺が運ぼう」
「頼んだ。どっちも女子だ。緊急事態だしとやかく言う気はねぇが、少しは気遣ってやってくれ」
「ああ、そうしよう」

緑谷を背負ってなお、障子は二人も抱えてくれるらしかった。複製腕とはすごい力持ちだ。
恐る恐る緑谷が万癒に「あ、あの……医刀さん」と声をかけたところで万癒も口を開いた。


「おまえはほんと……学習しねぇな」
「うっ……本当に、返す言葉も……」
「今回はいつにも増してひでぇもんだな。腕だけじゃねぇ、足もぐちゃぐちゃだ。今はエルドルフィンでどうにかなってるだろうが、それ切れたらおまえ動けないなんてもんじゃねぇぞ」
「……うん、そうだと思う。でも――」
「止まれないんだろ。分かってる。おまえはそういうヤツ・・・・・・だ」

緑谷はてっきり、いつのものように「このクソもじゃおめぇいい加減にしろよマジでクソがああああ!!!」とブチギレられると思っていた。けれど予想に反し、万癒は酷く落ち着いていた。表情も凪いでいて、緑谷は何だかそれに……逆に突き放されたように感じてしまった。


「あの、医刀さん……僕」
「だから私がいる。医者は患者を見捨てない。おまえが遂行できるように・・・・・・・・最善を尽くしてやる」
「……え」
「緑谷以外は先行け。爆豪狙われてんだろ。手間はとらせねぇが、待つ時間は無意味だ」
「俺を守らせるンじゃねェ……!!」
「目的は不明だが、狙われてるのは確かだろ。我慢しろ」
「その上から目線やめろや!!」
「……悪い。今のは無意識だった。おまえが攫われでもしたらそれこそ大事だ。ここは折れてくれ。頼むよ、爆豪」
「……それはそれで気持ち悪ぃな!!」
「わかった。もう喋らねぇ」
「大人かよ……!! クソが!!」

それでも一応言うことは聞いてくれるようで、緑谷を置いて先に合宿場まで移動するのだった。
轟や常闇は、爆豪と万癒が話すとあんな感じなのかと驚いていた。今でこそ女版爆豪だの、爆豪と似ているだの言いたい放題されているが、対爆豪の万癒は酷く大人だった。馬鹿にしている感じでもなく、不思議な会話であった。






「――よし、もういいぞ」
「あ、ありがとう」
「言っとくが治ったわけじゃねぇからな。私がやったのは……軽い手当と、おまえを活動させるためのドーピングだ。本来なら褒められる行為じゃねぇ」
「……どうしてそこまでしてくれるの?」
「……おまえが言葉ではもちろん、物理的に止めても止まらないヤツだって理解したからだよ。本当に、厄介な患者だ」
「あの……それってつまり、僕は止めても無駄なヤツだって、諦められたってことでしょうか……?」
「そーだよ。諦めた」

万癒に諦められたというのは、自分が招いた結果なのに酷く堪えた。
でもそりゃそうだとも思う。入学してからずっと万癒に世話になっていて、万癒を怒らせて、煩わせて。でも一度だって万癒に心配をかけないように、怒られないように動けたためしがなかった。
体育祭の時、自分のことを心配してくれているんだって、リカバリーガールに言われてわかっていたはずなのに。万癒の心配も後回しにしてしまっていた。


「あの、ごめ――」
「だから、やり方変えようと思ったんだよ」
「え……」
「おまえがそう・・でしか生きれないなら、私が支えてやる」
「医刀さん……」

緑谷出久は止まらない。救うためなら何だってしてしまう。そんな緑谷が万癒はずっと……。
それでも、止まれないならば……緑谷が果たせるように力を貸すと決めた。止まらないなら、せめてその怪我も意味あるものであるように。轟を救ったように。また、救えるように。


「最後まで遂行しろ。緑谷出久。負けんな、折れんな。ちゃんと勝ってこい」
「…………はいっ!!」

そうして緑谷は爆豪たちを追っていった。
万癒は踵を返して森の中に入っていった。仕事が一つ終わっただけだ。まだ患者は他にいる。
患者がいる限り医者万癒は動く。そうでしか生きれないのは……万癒だって同じだった。


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