通りがかりの医者
巨悪はオールマイトを易々と吹っ飛ばせるほどの力を持っていた。
オールマイトが爆豪を救けようとするが、オール・フォー・ワンが邪魔をして爆豪に近づけない。その隙に連合が爆豪もろとも逃走しようとしている。爆豪も脱出を試みるが、連合6人に囲まれて逃げられる状況ではなくなった。
仮免を持っていない自分たちは戦うことを許されていない。
合宿で襲撃された折に戦闘許可を出した相澤は非難を受けた。指導者による許可も出ていない自分たちがもし戦闘を行えば……それは立派な法律違反だった。
万癒は考える。当初の予定ではプロヒーローと警察がちゃっちゃと解決して、ほら
死柄木はまるで子供のような癇癪持ちであったし、少数精鋭による襲撃なんて真似、入れ知恵した奴がいるとは思っていたが、まさかこんなにヤバい奴だとは思っていなかった。
自身の詰めの甘さを痛感しつつ、それでもこうなった以上爆豪を救うためその知恵を振り絞った。
「戦闘……しなきゃいいんだろ」
「医刀さん、そうですが……あの、何を――」
「私らが禁じられてんのは個性を使役した戦闘行為≠セ。逆に言えば戦闘にならなきゃ問題はねぇ」
「そんな都合のいいことがあるっていうのか!?」
「あるっつーか、それを考えんだよ。ここにある手札で爆豪を救出するための
正直万癒がこんなことを言い出すのは意外だった。完全なお目付け役が爆豪を救出する提案を打ち出した。
万癒だって自分で何言ってんだ私、正気かと思わなくもなかった。けれど、でも……緑谷は止まらないことを知っているから。万癒は緑谷が死なない道を示す。それに、爆豪を救けたいという気持ちは万癒とてあるのだ。そのためにも、最もリスクが低い策を導かなくてはならなかった。
けれど、この場合最も重要なのはいかに爆豪に意図を汲み取らせるかだ。瞬時に状況を理解させ、救出するには爆豪の性格をよく理解してなければならない。その点に置いて、万癒は最善手といえる策を打ち出すことができなかった。
でもここには爆豪をよく知る人間がいた。幼い頃からの付き合いである緑谷が、ここにはいた。
「(道を……オールマイト……隙)ある。あるよ、一つだけ!」
「言ってみてくれ」
「でもこれは……かっちゃん次第でもあって――この策だと多分……僕じゃ成功しない。だから切島くん、君が成功率を上げる鍵だ。かっちゃんは相手を警戒して、距離を取って戦ってる。タイミングはかっちゃんと敵たちが二歩以上離れた瞬間」
「(爆豪の性格よくわかってやがる……)いいんじゃねぇか」
「医刀さん。飯田さん……」
「……バクチではあるが……状況を考えれば俺たちへのリスクは少ない……何より成功すれば全てが好転する……やろう」
緑谷発案の、決して戦闘行為にならず、自分たちもこの場から去れて、爆豪を救い出せる策に乗ることにした。
緑谷のフルカウルと飯田のレシプロで推進力を。切島の硬化で壁をブチ抜き、轟の氷結で道を形成。手の届かない高さから戦場を横断し、
それは上手く行き、見事爆豪を救出した上で脱出に成功するのだった。
「おまえらは先帰ってろ」
「医刀?」
「医刀さん、どちらに……」
轟と八百万と一緒に脱出していた万癒は、オールマイトの戦いを見届けると、踵を返した。
オールマイトはオール・フォー・ワンと戦い、辛くも勝利するもボロボロだった。平和の象徴の最後の戦いと言っていいだろう。オールマイトの身体の事情をよく知っている万癒は、よく頑張りましたねと言わざるを得ない。
「患者がそこら中にいる。私は医者だからな。行かねぇ理由がねぇわな」
「……そうか」
「あ、安心しろよ。おまえらのことは話さねぇし、知らぬ存ぜぬを貫いてやる。私はただの通りがかりの医者だ」
「そんな心配はしてねぇ。おまえ、繊細だよな」
「誰が繊細だ!! ったく、んじゃな! 気をつけて帰れよ!!」
「ああ」
「医刀さんもお気をつけて!」
別れ際に八百万の手に袋から出したおにぎりを二つ握らせた。切島経由で爆豪に渡すように伝えると、八百万は心得たとばかりに頷いた。やけにキラキラした目が鬱陶しかった。轟も轟で「やっぱおまえ繊細……」とか言い出すので「気が利くと言え!!」キレてさっさと移動した。
危険表示バリケードテープ越しに、医師免許を見せて警察の人に通してもらえるよう、万癒は頼んだ。
「すみません、医者です。みなさんの処置に当たらせてください」
「君は……雄英の……」
「雄英の生徒ではありますが、ここには通りがかりの医師として参上した次第。どうか、一人の医者として扱っていただけませんか」
「……」
雄英の合宿で襲撃があったばかりで、近所でもないのに
日本の警察はいい大人らしい。それは良いことだと思うが、この時ばかりは融通効かねぇなと内心イラっとした。それに待ったをかけたのは、万癒も面識のある警察官だった。
「通してあげなさい。
「はっ、失礼しました! さ、どうぞ」
「……塚内さん、ありがとうございます」
「いや……オールマイトを頼みます」
「ええ」
規制線の向こうはやはり酷い有様だった。建物は倒壊し、そこら中に瓦礫が散乱し、ヒーローや市民が倒れていた。多くの死傷者が出ている。万癒は動けるヒーローにトリアージを頼み、最も傷が深い……オールマイトの下へ向かった。
「驚いた。医刀少女も来ていたのか……」
「
「医刀少女……すまない、私の身体はもう……」
「ちょっと、今大丈夫だって言いましたよね? 話聞いてないんですか? オールマイト先生っていつもそうですよね、私の話をちゃんと聞いてない」
「え!? 今のはあれじゃない!? 「もう大丈夫! 私が来た!!」ってほら、平和の象徴おつかれ! みたいな!!」
「そんなあほら――幸せな勘違いができるんだったら大丈夫そうですね。わりとぴんぴんしてますよ、あなた」
「今あほらしいって言おうとした!?」
「なんのことだか」
そんな軽口を叩きつつ、処置をする。思っていたより元気そうで何よりだ。
命に別状はないと判断すると、万癒はより危険度の高い患者の方へ向かうことにした。救命はスピード勝負。一分一秒が生死を分かつものだから。