心配なんて、

林間合宿での襲撃を受けて、雄英は寮制度の導入に踏み切ることになった。
それに伴い、教師が各家庭への事情説明として家庭訪問をすることになる。万癒の家は、既に父は故人で、大人しい母がいるだけだった。一応、兄もいるにはいるが、ちゃらんぽらんな奴で今どこにいるのかも分からない。さぞ呑気に放浪の旅をしていることだろう。
母もまた、心配こそしていたが……万癒は父に医者らしくあるように育てられた医者だ。危険があったからこそ雄英を出るという選択肢がないのも理解していた。割とあっさり承諾されるのであった。







「医刀さん、ちょっといいかな?」
「緑谷? 何の用だ」
「ちゃんと話したいことがあって……君には、ちゃんと言わなくちゃと思って」

学校が再開されて登校すると、すぐに緑谷が万癒に話しかけた。大分朝早くから登校していたらしい。もしかしなくても、万癒を待っていたのだろう。
なんだか真剣な様子に、いったい何なんだと思いつつ、万癒は話を聞くことにした。


「今まで心配かけて……ごめんっ!!」
「……は?」

がばっと頭を下げられる。万癒は突然のことに呆気にとられた。


「ずっと、医刀さんの心配を無下にしてきた。君はいつも僕のことを叱ってくれて、言うことを聞かない僕をずっと治して、それどころか……僕がやりたいことをできるように救けてくれた。なのに僕は……一度だって君の心配に寄り添おうとしなかった……」
「……お、おい」

万癒の声が震えていた。意味の分からないことを言われている。なんだか緑谷は幸せな勘違いをしている。けれど緑谷の独白は続いていて、ついに――


「言うこと聞かなくてごめん。君にお医者さんらしくないことをさせてごめん。君をたくさん傷つけてごめ――」
「おめぇいい加減にしろよ!!!」
「痛っ!!」

スパーンと緑谷のデカい頭をすっ叩く。だがこんなことで万癒の溜飲は下がらない。好き勝手憶測であれそれ言われ、もうブチギレであった。


「大前提が違ぇ!! 私は一度たりともおまえなんぞ心配してねぇ!!」
「え、そうなの!!?」
「そうだわ!! 轟が勝手に言ってるだけで私はおまえみてぇなクソナードがどうなろうと知ったこっちゃねぇ!! まぁ、医者だからちゃんと診るけどな!!!」
「え、え……じゃあ僕の……勘違い!?」
「はちゃめちゃな勘違いだよばーか!!」
「ええっ……そうだったんだ……なんか恥ずかしいな……!」
「おめぇが勝手に勘違いしただけだわ! 勝手に羞恥心で死んでろ!!」
「す、すみません……」

どうして自分が心配なんてしなくちゃいけないのか、万癒はさっぱりわからなかった。クソナードがどこでどうなろうと、それ自体に興味はない。ただアホみたいにあちこちぶっ壊れるから、患者として目が離せないだけだ。それ以上でも以下でもなかった。それに、心配というより、万癒が向ける緑谷への気持ちは──。
なにはともかく、まったくもって腹立たしい。
でもそれでも、と緑谷は口を開く。


「心配なんてしなくていいように……これから頑張るよ。だから医刀さん、これからもどうぞよろしくお願いします……!!」
「……いやだから心配してねぇんだわ!!!」
「えっ、今のはほら! これから先も心配かけないようにっていう感じのあれで!」
「これから先もおめぇを心配することはねぇから安心しろ!! 杞憂でしかねぇ!!」
「そ、そっか!! じゃあこれからもよろしくお願いします!!」
「まず世話にならなくていいようにしろや!!!」
「ごもっとも!!」

ブチギレつつもとりあえずこの話は終わるのだった。いきなり心配だなんだと、今までの緑谷ならそんなに気にしていなかっただろう。なにやら緑谷も色々心境の変化があったらしい。
まぁ、そんなこと、自分には関係ないのだけど。







ホームルームでさっそく寮となるハイツアライアンスへと案内された。
そこで相澤が当面は仮免取得に向けて動いていく、と説明したところで大事な話を始めた。


「轟、切島、緑谷、医刀、八百万、飯田。この6人はあの晩あの場所・・・・・・・へ爆豪救出に赴いた」
「え……」
「その様子だと行く素振りは皆も把握していたワケだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ。オールマイトの引退がなきゃ俺は、爆豪・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる」

相澤は続ける。オールマイトの引退でしばらく混乱が続く。敵連合の出方が分からない以上、今雄英から追い出すわけにはいかないと。行った万癒たちはもちろん、把握していながら止められなかった12人も理由はどうあれ、自分たちの信頼を裏切ったことには変わらず、正規の手続きを踏み、正規の活躍をして信頼を取り戻してくれと言うのだった。そのノリで寮に入ろうというのだから、ついていけるはずもない。
万癒は少し考えて口を開いた。


「すまな――」
「来い」
「え? 何、やだ」

万癒が謝ろうとしたところ、爆豪が上鳴を連れてどこかへ行ってしまった。すると上鳴が放電して――


「うェ〜〜い……」
「!!」
「バフォッ」
「何? 爆豪何を……」

アホになった上鳴が出て来て、耳郎が吹いた。ヘロヘロになりながら、親指を立てて寄ってくるものだから、みんな自然と笑ってしまった。
爆豪がそのまま切島に万札をすっと出し、カツアゲを疑われるが、それは爆豪が自分で下ろした金だった。爆豪救出の際に切島がアマゾンで買った暗視鏡と同じ値段である。そして「いつもみてーに馬鹿晒せや」と言って金を押し付ける。爆豪なりに気を遣ったのだ。


「皆! すまねえ……!! 詫びにもなんねえけど……今夜はこの金で焼き肉だ!!」
「ウェーい!」
「マジか!」
「買い物とか行けるかな?」
「……許可下りるなら車出してやるよ」
「え!? 万癒ちゃん免許もってんの!? なんで!?」
「州にもよるが、アメリカじゃ早いとこで14歳から取れるんだよ。便利だから取っといた」
「ほんと医刀大人って感じだよね。同い年だけど」
「だから若白髪なんだろ」
「白髪じゃねぇって言ってんだろ」

そんなことを言いつつ、寮に入っていく。万癒も内心で爆豪に感謝していた。きっと謝るだけじゃこんな風にはならなかった。責任を取るというのは難しいものだ。爆豪がやや強引ながら、茶番を打ってくれたおかげで、笑えている者がいた。

だから万癒は気になってしまったんだろう。沈んだその顔に、どうしようもなく……胸が締め付けられた。


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