白衣の天使へ

仮免取得に向けてそれぞれ必殺技を生み出す中で、万癒は自身の在り方に悩んでいた。


「あっれ? 万癒さん、何かお悩み?」
「上鳴……」

上鳴は切島、緑谷と揃ってコスチュームも改良していた。他にもアイテムを弄ったりしている生徒はいるが、万癒は別段変わったところはなかった。


「……必殺技に行き詰ってな」
「え、珍し。なんでもそつなくこなすんに。何に迷ってんの?」
「……私は医者だ。救う術ならいくらでも持ってるが……害することを前提としたもんだと……毒を使うことになる」
「毒!?」
「薬と毒は紙一重だ。使い方次第でどちらにも転ぶ。だが私は医者だ……本当にこの使い方でいいのか……」

万癒は掌から創造した薬瓶を眺める。その瞳には迷いがあった。万癒は蛙吹の話を聞いて、自分の変化に気付いてから言い知れぬもやもやを感じていた。本当にこれでいいのか、何か見落としてないか、何かを……蔑ろにしていないか。気になってしまった。自分の選択に前ほど自信がもてないのだ。
一方で、上鳴はなんだそんなこと、と極めて楽観的に口を開いた。


「俺の個性もさ、ちょっと痺れるくらいだったり、それこそ感電死させちまうくらい出力出せたりするわけだけどさ……やっぱそれ使い方次第だって。USJで13号先生も言ってたじゃん! 一人一人が過ぎる力をなんちゃら〜ってやつ」
「「行きすぎた個性を個々が持っていることを忘れずに、人命のためにどう活用するのか」だろう」
「そうそれ! それと同じだって! そりゃ万癒はお医者さんだから、人を救けるための力で誰かを害すなんて嫌だろうけどさ……そうじゃなくて、悪いことする人を止めるために使うって考えたらいんじゃね!?」
「……」
「あれだほら、根絶治療的な!! 未然に被害を防げば被害者0! これってパーフェクトじゃね!?」

必死に身振り手振りで大袈裟に伝えてくる上鳴に、フッと笑う。


「おまえは楽観的だな」
「うっ……そりゃまぁ、万癒みてぇに頭よくねぇし」
「おかしなことを言う。雄英に入れた時点で悪くはねぇだろ」
「ま、まぁそうだけど!?」
「……ありがとな」
「え……」
「何だかんだ、おまえにはいつも救けられている気がする。その楽観も、ヒーローの素養なのかもな」

いつもと違い、柔らかく口元を綻ばせた万癒に、上鳴は衝撃が走るのを感じだ。ビビッと来た。ビビッどころがドギャーンって感じだった。雷に打たれた気さえした。


「前向きに考えるよ。たまにはおまえを見習わないとな」

そう言って去っていく万癒の後姿が見えなくなっても、上鳴は動けなかった。
ああ、これは……ダメだ。マジで――。







朝になると轟が手紙を万癒に差し出してきた。

「医刀。おまえ宛に郵便物が届いてたぞ」
「あ? マジか。ありがとな」
「それとこの手紙……おまえ宛か? 郵便物の中に入ってたんだが、宛名が――」
「「白衣の天使」へ……知らね。悪戯だろ、捨てときゃいいんじゃねぇか」
「? そうか?」
「そうだよ。ちゃんと宛名が書かれてねぇもんなんて、ろくなもんじゃねぇ。さっさと捨てるが吉だな」
「……まぁ、それもそうか……悪かった。処分しとく」
「頼んだ」

そういって手紙を処分しようと持っていった轟に、万癒は心の中で「悪いな」と呟いた。
白衣の天使へとふざけた宛名は自分だとちゃんと理解していたし、差出人が誰かもわかっていた。けれどろくなことにならないので体よく処分を押し付けたのだ。持ってきたのが素直な轟で助かった。
敵連合の動きを懸念して寮制度に踏み切ったこともあり、処分を勧めても警戒してるんだなと疑われることもなかった。この手紙は人知れず処分されるはず――だった。







「轟、それ何? ラブレター!?」
「いや、これは……」
「なにいいい!? このクソイケメンがああああ!! 見せろ!! どんな熱い告白受けてんだよ気になるじゃねぇええかあああ!!」
「いや、違くて……あっ、おい」
「どれどれ――」

轟が手紙を処分しようとしたはいいものの、それを目聡く上鳴と峰田に見つかってしまい、峰田の執念によるもぎもぎと小柄な体格もあり、ややぼんやりしていた轟は手紙を奪取されてしまった。
運がいいのか悪いのか、ここは共有スペースでそれなりの人が集まっていた。ラブレターと騒いだことで峰田を非難するも、聞いちゃいなかった。娯楽に飢えているのだ。


「何々……前略、俺の白衣の天使へ……って男かよ!! 白衣の天使って誰だ!!」
「え、轟……白衣着たことあった?」
「いや、俺宛てじゃねぇんだ……よくわかんねぇ人から届いたもんだから、処分しようとしてて……」
「宛名が白衣の天使だもんな……ちょっと怪しい」
「白衣っていったら医刀だろうけど……天使って柄じゃないしな」
「医刀には聞いた。違うってさ」

医刀、と万癒の名前が出たことで上鳴は少し反応してしまった。宛先が万癒ではなかったことに密かに安堵する。だが出だしをから気になってしまい、悪いと思いつつも読み進めた。好奇心には勝てなかった。


「君が生まれた日のことを今でもよく覚えています。本当に天使かと思いました」
「生まれた日……?」
「古い知り合いってこと……?」
「何もかも生まれたばかりのおまえに押し付けて、逃げてしまった俺は悪いお兄ちゃんでした」
「お、お兄ちゃん……!!?」
「家族なのか……」

ここで明かされる新事実に、一同は先ほどとは違い、家族に宛てた手紙ならちゃんと届けてあげようと、悪いとは思いつつ情報を得るために、読み進めることにした。
寮生活になって、家族が心配したり、少しでも交流を持とうと手紙を届けたりするのも珍しくないからだ。大切な手紙なんだと、捨てなくてよかったと思った矢先のことだった。


「親父に連れられて幼いおまえがアメリカに渡ったと聞いたときは、胸が締め付けられるような思いでした」
「アメリカ……なぁ、これ……やっぱ医刀じゃ……」
「いやでも本人が違うって言ってるんだろ? じゃあ違うくね?」
「まぁ、それもそうか……続きは……?」
「アメリカでは大変な思いをしただろう。今もまた学生をしていると聞いて……お兄ちゃんは、またおまえが虐めにあっていないかしんぱ――いじめ!!?」
「え!!?」

いじめというワードに一同は困惑する。かなり繊細な内容だ。プライバシーの侵害になるんじゃないかと思い、読み進めるのを躊躇した。


「なんか、悪いことした気分……」
「まさか白衣の天使へとかいう宛名からこうなるとは想像つかんて」
「それな……でもこれじゃ誰宛かわかんねぇしなぁ……なぁなぁ、後ろの方読むとかど? 最後だとさすがに誰に宛ててるかヒントでてきそうじゃね?」
「まぁ……でもこれ読んでいいと思うか? 大分プライベートなことだぞ……」
「でもまずさ、ほんとにうちの奴に宛てたとかはわかんなくね? 他のクラスと間違ったかもだし……」
「そりゃそうだけどよ……」
「あと単純に……やっぱ気になる……!!」
「それはそう!!」

内容はさておき、白衣の天使自体が誰なのかが気になった。
ここには委員長組はおらず、ストッパーになりそうな者がいなかったのも効いた。好奇心に負け……最後の方をちょっとだけ読むことにしたのだ。


「――というわけで、どうしようもないお兄ちゃんにお金貸してほしいです。何卒ひとつよろしく……万癒ちゃん……え」
「結局医刀かよ!!?」
「てか、え待って……お金貸して!!?」
「……医刀は違うって……」
「……それ、内容も差出人もわかってたから……受け取らなかったんじゃ……」
「! ……あいつそういや、こういうとき捨てろっていうより……相澤先生に届けろっていうヤツだよな……」

轟も妙に納得してしまった。
だがこの白衣の天使が誰かわかったところで、一同は気まずいなんてものじゃなかった。とにもかくにも、まずは万癒に手紙を読んでしまったことを謝ろうと向かったところ――万癒はいなかった。

それどころか、次の日万癒は欠席だった。


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