合理的で好ましい

今日は入学式だった。雄英高校の生徒として始まる一日。
万癒は雄英入学に合わせ、借りた家を早めに出てさっさと1年A組の教室に向かった。
教室に入ると、万癒は一番乗りだった。指定された席に座って鞄から医学書を出して時間を潰していると、ちらほらと他の生徒が入って来た。

万癒は書物を読んで話しかけるなアピールをしつつ、知識を蓄えていたが、何やら騒がしい。
ちらっと騒動の方に目線をやると、薄い金髪の男とメガネの男が何やら言い合いをしていた。
うるせぇなぁ、とイラっとしつつも、高校一年生なんて大体そういう生き物だろうと無理やり納得する。けれどそれから間もなくだった。1年A組の担任である相澤が来たのは。


「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」

何かいると大半の生徒が驚く中で、万癒は相澤が一瞬で飲んだウイダーインゼリーに目が行った。脂質を消費して創造する個性柄、食事には気を遣っているがいつもいつでもゆっくり食事ができるわけではない。その点で言えばあのゼリー飲料は理にかなっており、万癒もよくお世話になっていたのだ。


「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
「(先生!!?)てことは……この人もプロのヒーロー……?」
「担任の相澤消太だ。よろしくね。……早速だが体操服コレ着てグラウンドに出ろ」

そうして始まったのは……個性把握テストだった。
雄英のシステムは常軌を逸する。入学式を悠長な行事と一蹴する相澤に、万癒は好感を抱いた。非常に合理的で無駄がない。
そして、個性を使用した体力テストを「面白そう」などと称した腑抜けた声に対し、即座に「最下位は除籍処分」とし気を引き締めた。
自由な校風が売りのこの雄英で、担任に相澤を引き当てたということに対して万癒は大変満足していた。これなら、三年も・・・ここで費やす価値があるというもの。苦難上等。壁は高くなきゃ意味がない。







万癒は立ち幅跳びでトランポリン――落下した人間を受け止めると想定し創造したもの。サイズはなかなか大きくなってしまった――を使うくらいしか個性を応用するところはなかったが、それでも運動は得意だったので順調に進んでいた。

そんな中、目を引いたのは……ポニーテールの女生徒だった。
名前は確か八百万。彼女の個性は創造系のもので、色々創っては1位を独走していた。けれど、1位だから目を引いたわけではなく、万癒はその個性自体を評価していた。
大きなものを創るのは時間をかけていたが、それでも特に何か制限があるようには見えなかったし、あれだけ色々なものを創っていても、変わった様子が見られない。
万癒は脂質を激しく消耗する。体質に恵まれなかった万癒が創れる量には限りがある。ノーリスクでぽんぽん創っているわけではないだろうが、それでもその光景は印象的だった。







このままいけば、最下位は緑谷で、除籍処分を食らうのも緑谷だった。
一人目立った記録を残せておらず、個性もどんなものかはわからない。残り種目はソフトボール投げだけ。これで記録を残せなければそれで終わりだった。

一投目は相澤が個性でうち消した。制御不能の個性を使って行動不能になるヒーローなんて足手纏いでしかない。合理性に欠く緑谷に、見込み無しと判断していたが……二投目でそれは変わった。


「先生……まだ動けます」
「こいつ……!」
「……」
「やっとヒーローらしい記録出したよー」
「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい……おかしな個性だ……」
「スマートじゃないよね」
「…………!!!」

超パワーに耐えきれず、自損覚悟の個性。緑谷は指一本だけを犠牲にして記録を出した。
万癒は晴れ上がった指にすっと目を細める。緑谷が自分の患者になるのが理解できたからだ。
その後爆豪が訳を言えだなんだ暴れていたが、相澤の捕縛布に捕らえられ、大人しくさせられていた。







「ちなみに除籍はウソな」
「!?」
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「「「はーーーー!!?」」」
「あんなのウソに決まってるじゃない……ちょっと考えればわかりますわ……」

万癒は「ウソつきだなぁ」と鼻で笑った。
ウソなんかじゃなかった。相澤は本気で緑谷出久を除籍処分にしようとしていた。ただ、緑谷が行動不能にならずに個性を使ったから撤回しただけに過ぎない。
医者でも同じことをする。あのままもしヒーローになられてたら、すぐに死ぬのがわかってるから。いい先生なら早めに矯正するだろうと思う。やはり相澤はいい先生のようだ。非常に合理的で無駄がない。けれど、ちょっと嘘つきなんだなと思った。


「おい、クソもじゃ」
「クソもじゃ!? え、僕のこと!?」
「おまえしかいないだろ。指、診せてみろ」
「え……」
「私は医者だ」
「……えええええ!!? い、医者!!?」
「うるせぇ」

イラっとして睨んだら「すみません……」と大人しくなる。爆豪と相性が悪いのが今のだけでよくわかった。
それでも気になるようで「あの……お医者さんって……」と聞いてくるので、簡単に経緯を説明してやった。


「物心つく前から、父親に医者になるための英才教育を受けて育った。齢一桁の頃に医学部出て、免許取って、医者として医療に従事してる。んで、ヒーロー免許を取るために帰国。現在に至る」
「一桁の頃から!? ええええ! すごいよそれ!! 同い年なのに別世界の人っていうか……!!!」
「うるせぇって言ったのが聞こえなかったか?」
「ごめんなさいっ……でも、あの……ものすごく、かっこいいと思うよ!!」
「…………ハッ」
「(鼻で笑われた……!!)」

万癒の緑谷への印象はうるさいオタクくん≠セった。
それがまさか、万癒に大きな影響を与える人物になろうとは……この時は夢にも思わなかった。

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