勘違い

万癒の欠席を知り、手紙を読んでしまった一同は気が気ではなく、お金を貸しにお兄さんに会いに行ったんじゃないだろうかと心配していた。
手紙の冒頭の、幼い万癒に何もかも押し付けたどうしようもないお兄ちゃんというのがひっかかったのだ。相澤に休みの理由を聞いても「あいつは用事があって休んでる」とだけ返って来たのも、色々想像を膨らませてしまう原因であった。おまけに明日まで休むというのだから、気が気でない。
ついに心配が天元突破したことにより、手紙を見てしまった一同は、意を決して手紙の全容を読むことにした。現状ヒントがこれしかないのだ。万癒がもし困っているのなら力になりたかった。


「俺らは更に罪を重ねるのか……」
「言うな言うな、今更だろ! 万癒さんの手掛かりは今これしかねぇんだから」
「ああ、そうだな。医刀が困ってるなら……力になりてぇ」
「私たちで力になれる問題かわかんないけど……相談に乗るくらいはできるだろうし! いや万癒ちゃん相談するタイプじゃないかな……」
「そういうときはうまいもん食べて元気出してもらおうぜ!」
「あ、万癒脂質多いもんは苦手。あっさりしたもんが好き。でも個性柄脂質摂らなきゃだから、なんかこううまい具合にできねぇかなぁ……」
「それなら焼き肉でしょ。サンチュ巻いて食べてもらおう!」
「それいいな!」

そうやって騒いでいたもので、手紙のことを知らない他のクラスメイトも集まってしまい、一同は非難されるのを承知で白状することにした。
案の定委員長組や蛙吹らには怒られたが、事情を説明すると心配しだし、いけないとわかっていても万癒を救う手がかりとして拝見することにしたのだった。


「すまない医刀くん……! プライベートなことを……!!」
「飯田さん……」
「だがしかし、現状これしか寄る辺がない。彼女には日頃から世話になっている。大事なクラスメイトだ。もしも困っているのなら、この飯田天哉……必ずや力になってみせよう……!!」
「ええ、私も……医刀さんの力になれるのであれば……惜しむものなどありませんわ……!!」
「うん……今度は医刀さんを救ける番だ……!」
「くぅっ、熱いやつらだぜ……!!」
「放せや切島……!! 何で俺まで巻き込まれなきゃなんねェンだよ!!」
「まぁまぁ、乗り掛かった舟じゃねぇか!」
「乗り掛かってねェンだわ!! おめぇが勝手に連れてきたんだろ!!」

爆豪は飲み物を取りに下に降りてきたところ、ちょうどよかったとばかりに切島に連行されたのだった。これで万癒以外の1年A組が手紙を囲むことになる。
欠席のタイミングがタイミングであるが、大前提万癒は医者である。出張している可能性もあるだろうと爆豪が言うものの、誰も聞いていなかった。悪い方に考えすぎである。度重なる連合の襲撃で用心深くなってしまっていた。


「――では、読むぞ」

代表してここは委員長である飯田が読むことにした。
そうして手紙の全容が今、晒される。







「じゃあお母さん、元気でな」
「ええ、万癒さんも身体に気をつけて」

一方万癒は普通に帰省していた。父親の命日……七回忌だったのだ。
実家自体が雄英から遠いため、万癒はそのために学校を欠席し、日をまたいで帰ることにしていた。つまり、皆が想像しているような悪いことには全くなっていない。


「あ、お母さん。兄さんから連絡はきたか?」
「いいえ、あの子ったら……今頃どこでどうしているのか……苦労してなければよいのですけど……」
「お母さんは兄さんを甘やかしすぎだ。父さんが怒るぞ」
「それは困りますわね」

口元に手を当ててフフッと笑う母親に、オジョウサマってのはどこもこんなかねぇ、と万癒はクラスメイトのお嬢様を思い出した。
どうしようもないぼんくら兄貴は相変わらず、母親だけは頼っていないらしい。そこら辺はちゃんとしてるなと万癒は密かに安堵する。父が生きていた頃は頼っていたようだが、その父はもうずっと前に殉職している。仕事人間であったため、随分稼いではいたが……現状母が頼れるのは実家くらいなものだ。おまけに母は兄に甘い。出来の悪い子ほどほっとけないという奴だろう。
あれで母親のことは大事にしているのだ、あの兄も。なので少しだけ……しょうがないから助けてやるかと思う。







「なにやってんだ……? おまえら……」
「医刀くん……! 無事だったか……!」
「無事?」

寮に戻ると、共有スペースで何やら皆忙しくしていた。珍しく爆豪もいる。なんか機嫌悪そうだが。
万癒が帰宅したことを知ると「万癒おかえり! よかった!」「おかえり〜!」「大丈夫だったか!?」とそれはもう口々に押し寄せてきた。なんだなんだ。


「あのっ、医刀さんごめんなさいっ! 私たち……医刀さんの手紙を読んでしまって……」
「手紙……? ……あれか。読んだのかよ……」
「わりぃ、医刀。処分しようとしたんだが……うっかり見ちまって……」
「……別にいい。処分押し付けたの私だしな。でもおもしれーもんじゃなかったろ」

大体何が書いてあるかは予想できる。あの兄のふざけた手紙は毎回同じ内容なのだ。もはや金貸してくれのための手紙でしかないのだから。だからこんな心配してたのかと合点が行き、しょうがないので万癒は事情を説明することにした。


「騒がせて悪いな。あの手紙は休みと関係ねぇよ。父の七回忌でな、それで帰省させてもらったんだ」
「え!? 医刀お父さん亡くなってたの……?」
「ああ。アメリカでな……まだ敵暴れてるってのに構わずあの人行っちまって……そのまま殉職した。でもあの人はしっかり人を救って逝った。本望だったと思うよ」
「……そっか」

万癒が穏やかな顔でそういうものだから、芦戸もちょっと考えてそっかと笑った。センシティブな話になってしまったが、まぁ他に知りたいことはあんだろうなと万癒はこの際だから答えることにした。
でもそれは、作業しながらでも構わないだろう。


「で、おまえらは何やってんだよ。私も手伝うか?」
「いやこれは……医刀を労う会みたいなもんで……焼き肉なんだけど……いい?」
「……肉はもちろんだけど、やけに野菜多くねぇか?」
「万癒野菜好きだろ〜!」
「いや好きだがそんないっぱいは……」
「? 医刀はいつもいっぱい食べてるだろ?」
「おめ轟……前も言ったがなぁ、私は別に大食いってわけじゃねぇんだよ。ただ創造に脂質がごっそりもってかれるから蓄えてるだけで……」
「つまりいっぱい蓄えるために食べてるんだろ?」
「そうだけど! そうじゃねぇんだよ! 脂質に関係ねぇなら私はそんなに――」
「まぁまぁ、腹が減っては戦は出来ぬって言うしよ。お腹いっぱいになりゃ大抵のことはどうでもよくなんだ」
「……まぁ、そうだな」

万癒を労う会というだけあって、万癒が好きと以前上鳴に言ったものが並んでいた。それが何だかむず痒い。こんな風に同年代の人間と接するのは……やはり初めてだ。心配されるのも、慰められるのも、元気づけられるのも。


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