昔話

中庭で八百万が創造した器具を使って焼き肉をする。「かんぱーい」と音頭をとりつつ、会話に移った。


「で、何をどこまで知ったんだ?」
「うぐっ……それは……」
「聞きたいことあんだろ。今ならこの野菜に免じて、何でも答えてやるよ」
「じゃあ医刀おめぇの3サイ――ぎゃふっ!!」
「何でもとは言ったがそういうこっちゃねぇんだよな」
「最低だわ、峰田ちゃん」

万癒が制裁を下すまでもなく、蛙吹が舌でベシッと制裁してくれた。まったく懲りない奴である。
だが通常運転の峰田に感化されたのか、周囲も少しずつ踏み込んでいった。


「万癒ちゃん、お兄さんがいるのね」
「ああ、どうしようもねぇ兄貴がな」
「何才差?」
「12」
「結構離れてるんだ? え、まって……じゃあ今28……?」
「やばいよなぁ、28にもなって定職にもつかず、放浪の旅続けてんだぜ。いつかビックになってやるって言ってんだが……無理じゃね?」
「ハッ、そりゃ根無し草の常套句だろ」
「だよな」

予想と反し、わりと明るくけろっと話す万癒に周りも顔を見合わせる。意外と爆豪も会話に入っており、「その肉食わねぇならよこせ」「いいぞ」万癒から肉をもらっていたりした。


「兄さんはな……音楽の道に進みたかったんだよ。でもうちは医者一家でなぁ……父さんはそれを許せなかったんだ」
「よくある話だな。それもよこせ」
「おー食え食え。……兄さんもな、折れようとしたことはあったんだ。医者になろうって……でも私が生まれてしまった。父は私を最初から、医者にさせるために生み育てた。そして私はそれに応えた……兄さんは耐えられなくなったんだよ。自分と私があまりに違ったから。出来のいい妹が生まれちまって……医者になってもビッグになれねぇ、って限界を先に悟っちまったんだ」
「ハッ、向上心のねぇやつ。あっ! それは俺が狙ってたやつだわ!」
「マジか。悪かった。焼き直すよ」
「自分でやれるわ!!」
「そうか。余計なお世話だったな」

爆豪がどんどん肉を焼いていくのを見ながら、万癒も野菜に噛り付いた。ただ焼いただけでも十分美味い。


「そんで、私がアメリカに連れて行かれる前に出て行った兄さんだが……未だに芽が出ることなくシンガーソングライターをしている。生活に行き詰るといつもこうなんだ」
「親の脛をかじるならぬ……妹の脛をかじってんのか……」
「12も下の妹に……」
「まぁ、見ず知らずの他人を頼ったり、闇金に手を染めるよりはいいわな」
「おめぇがそうやって甘やかすからじゃねェの」
「闇雲に甘やかしてるわけじゃねぇぞ。ガチで死にそうなときにだけ最低限支援してるくらいだ」
「医刀さんのガチ判定……」
「マジで死ぬ一日前だわな」
「ほんとにガチだ!!」

やっぱり医刀さんしっかりしてるな、と血の気が引いた。
でも、と万癒は穏やかな顔をして話し出す。


「部屋にベースあったろ。あれ兄さんが家に置いていったもんなんだ」
「え、そうだったんだ」
「そ。あのベースな……一回修理しててさ。元々すげぇ使い込まれてたんだ。あの人なりに音楽には真剣に向き合ってんだと思うし、今は足掻いてる最中なんだろうなって。それにあの人、頼っちゃいけねぇ人には絶対頼んねぇから……もうちょっとだけは許してやろうと思う」
「万癒……」
「ま、それはそれとして、今まで貸した金はいつかきっちり返してもらうけどな。やるとはいってねぇ」
「やっぱりしっかりしてる……!!」

悪魔の笑みを浮かべる万癒に、白衣の天使とは、とみんなの脳裏に手紙の宛名が浮かんだ。
やはりどこをどう見ても天使には見えなかったが、しきりに可愛いだ天使だと書いてあったので、もしかしたら万癒の兄はシスコンなのかもしれないと思った。そうでなくても頭は上がらんだろうが。


「で、他には? なんか書いてあったか?」
「……医刀さんがアメリカで……その、いじめにあっていたと……」
「あーあれか。あれな。あー……なんつーか、私がアメリカの医学部出たのは子どもも子どもの頃なんだよ。5歳とかだったか?」
「ご、5歳……!!?」
「医刀ほんとにすごいやつなのね……」
「超常社会の恩恵ありきだけどな。まぁ、だから……私は周りから見ても明らかに浮いてんだよ。日本人だし、子どもだし、おまけに優秀だし。けど愛想はねぇし。そりゃまぁ、良い奴らばっかじゃねぇから、ダサいことしてくる奴らはいたよ」

世の中気持ちのいい人間ばかりではないし、才能に嫉妬することもあるだろう。けれどだからといっていじめるのは間違っている。それに声をあげるものは一人じゃなかった。


「でもそれって万癒が悪いわけじゃねぇじゃん!? すごいよ万癒は!! 医者になるためにずっと頑張ってたんだろ!? それが実っただけじゃん! 何も悪くねぇって!!」
「お、おい」
「そうだよ! 君はすごい人だ。部屋にあった本の山を見た時、僕すごく驚いたよ。お医者さんになってからも君はずっと努力してる。素敵なお医者さんだよ!」
「ちょっ、」
「医刀さん私っ、私の方が医刀さんより勝ってると仰られていましたが……とてもそのようには思えません! 幼い医刀さんが、遠い地でそのような仕打ちを受けて居たと思うと……私本当に、甘ったれておりましたわ。自分がとても……恥ずかしく思います……!」

八百万まで体育祭の一件で挫折していたことを恥だし、万癒は頭を抱えた。そりゃ「んなくだらねぇことで挫折してんじゃねぇ」とは言ったが、自分が強すぎるというのだって万癒は理解しているのだ。
その後も口々に心配だの激励だの、すごいだの言われて万癒もいよいよ爆発した。


「あっのなぁ!! 早合点すな!! 私は当時も今も、微塵も気にしちゃいねぇし、当時もしっかり倍返ししてやったから何の問題もねぇんだよ!! 勝手に深刻になんな!!」
「……え、そうなの?」
「そうだよ!」
「おまえ喧嘩慣れしてっからな。そんなことだろうと思ったぜ」
「ガチの喧嘩!? それ停学ならない!?」
「一回だけな。それからは学習してぜってぇ見つからねぇようにやってた」
「隠蔽に全力なとこが医刀らしいね。絶対やられっぱなしで終わんない」
「この世は弱肉強食だかんな。どっちが上かしっかりわからせてやんねぇと」
「ハッ、それは同感」
「やっぱ君たち似てるね」
「「どこが!!」」
「そーいうとこ」

瀬呂の言葉に爆豪と顔を見合わせるが、フンっと爆豪はそらしてしまった。万癒はそんなに似てるか、と思うが……まぁ、周りから見たら似ているのだろう。本人たちは案外わからなかったりするものだ。

そうしてワイワイ焼き肉を囲みながら、万癒はこういうのも悪くはないなと思った。


「……ありがとな」
「ん? なんか言った?」
「なんも」

――日本での学生生活は、意外と悪いものではない。でも、いつかちゃんと命日くらい顔出せよ、と何だかんだ心配性な兄に思いを馳せるのだった。


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