変化

上鳴にとって、医刀万癒はちょっと気になる美人なクラスメイトだった。
美人な女医さんってなんかいいな、というミーハーな気持ちから始まり、たままた個性の関係で一緒にマックに行くことに成功してからその見方は少し変わることになる。
才能以上にストイック。努力を努力とも思わない、医者としての職務を全うするために一生懸命な人。そして意外と思っていたより取っつきやすくて、少し天然が入ってる。

本人は否定するけど、いつも身体のどこかしらを壊しがちな緑谷を心配していて、自分の身体を顧みない緑谷に対して怒っている。
体質にとても悩んでいて、それでも自分ができる限りの方法で最大限を救うために、ヒーローになるという選択することが出来る人。自分の容姿にはあまり頓着がないのか、美人だという自覚がない。そして意外と繊細で感じやすい。でもそれ以上にメンタルが強くて、自分がやるべきことを見失わない人。次の瞬間にはもう立ち上がって歩き始めていて、自分の言動にきちんと責任を取る人。
色んな苦労を抱えていて、それでも大したことと感じていない人。人付き合いに不器用で、口が悪くて、人を頼るのが苦手な……笑うと意外と可愛い女の子。それが上鳴の万癒の認識だった。

その万癒が……自分に託した。おまえなら出来ると笑ってくれた。万癒は冷静だ。どんなにキレてても、大局を見極める力を持っている。
強制的に眠らせる手段を取らなかったのも、切島と爆豪が時間までに起きれなくなって、合格できなくなる可能性を考えたからだと上鳴は理解していた。なら、万癒が身を挺して自分を守ったのなら、それは本当にこの状況を打破できると信じて、託してくれたからに他ならない。じゃあもう大丈夫だと上鳴は思う。だって、万癒のオペレーションはとっておきだから。医刀万癒の信頼。それに勝る自信はなかった。


「これに応えなきゃ……男が廃るってもんでしょ! なんてったって万癒先生のお墨付きだからね……!!」

上鳴電気は知っている。爆豪の分かりにくい気遣いも、切島の漢気も。万癒の内に秘めた熱い思いも。
今の上鳴は何だって出来る気がした。仲間のピンチにこそ立ち上がり、活きる男。好きな女の子からの激励を受けた上鳴は……その激励に見事応えてみせたのだった。







「いやもう俺、万癒があんな感じで肉に飲まれちまうからさァ! 俺さァ! もう軽くトラウマよ!? しばらく肉みたくねぇもん!!」
「はいはい。ワルカッタナー」
「棒読み!!」

万癒は最初から、肉に自分を呑ませるのは折込済みだったようで、肉が肉倉の肉体から出来ていることから、呑まれる直前に薬剤を皮下投与していた。それは見事に肉倉の動きを鈍らせ、爆豪が託した籠手と一緒に上鳴の道になってくれたのだった。


「しょうがねぇだろ、私の個性じゃ一人残ってもおめぇら起こすのに時間かかりすぎるし。合格すんならおまえを残すのが最適解だったんだよ」
「分かるけど! それは分かるけど!! だってなんかあの感じまるで死ぬ流れじゃん!?」
「んなわけ。勝手に殺すな」

万癒からデコピンをもろに食らい、上鳴は「いってぇ!」と額を押さえた。せっかく頑張った上鳴だったが、万癒たちが戻るや否や、いつものように騒がしい上鳴に戻ってしまい、色々台無しであった。


「でも医刀が俺らのことあんな風に思ってくれてたとは思わなかったな。意外とおまえ、熱い奴だな! 漢だ!!」
「あれは忘れろ……らしくねぇこと言った」
「えー! でも俺嬉しかったよ! 万癒めっちゃ俺らのこと大事に思ってくれてんだなーって! よく見てるし!」
「いいから忘れろ……」
「大正解、だったか? ハッ、ツンデレのつもりかよ。イマドキ流行んねぇぞ」
「おめぇもここぞとばかりに弄って来るじゃねぇか……」
「これが弄らずにいられっかよ。随分熱烈な告白だったなァ」
「もう頼むから忘れろ……!!」
「やーだね」

爆豪のことだからわざわざ周りに言いふらすようなことはしないだろうが、これは数年後も覚えていて酒の席で事あるごとに弄られるやつだなと万癒は遠い目をした。今からでも目に浮かぶ。大人になった爆豪が「医刀せんせーは昔から俺らのこと大好きだもんなァ?」とニヤニヤ笑っている姿が。マジで忘れろと思うが、爆豪はこういうことは死んでも覚えてそうだなと諦めるのだった。


「あら? オイねぇアレ瀬呂たちじゃん!? やったあスッゲオーイ!」
「上鳴くん! やったあスッゲオーイ!」
「(オウム返しかよ)」

会場に行く途中で瀬呂と麗日、緑谷の三人を発見した。三人も一次試験を通過したらしい。喜びの舞のように踊る上鳴たちを横目に、万癒は緑谷の状態を確認した。目立った傷もなく、無事であったことに密かに安堵した。
だが、爆豪が通ったという緑谷に「そんな力≠ェありゃ当然だ」「借り物=c…自分のモンになったかよ」というのを聞いて、万癒はまさかと思った。まさか、まさか……まさかとは思うが、緑谷おまえ……個性≠フ経緯話してねぇだろうなとじっと睨みつけた。


「ヒッ、医刀さん……僕何かしましたか!?」
「自分の胸に手を当ててよく考えろ……」
「ハイッ」
「あ、万癒また緑谷にキレてんの!? もう怪我してないんだからいいじゃんよー!」
「おめぇは黙ってろ!」
「辛辣!」

万癒に塩を食らった上鳴は、ちぇ……さっきまではいい感じだったんだけどなぁとそっぽを向いた。一方で、やっぱ緑谷か……とも思ってしまう。万癒が一番気にかけている相手。多分、八百万と同じくらい、万癒の中の特別な位置にいる奴。それがなんだか羨ましいと思った。まぁ、だからって……緑谷の真似をしようとは思わないけれど。だって普通に痛そうだし。







無事に1年A組全員が第一試験を通過したところ、次の試験はバイスタンダーとして救助活動を行うというものだった。フィールドは神野区を模しているようで、万癒は実際に医療に従事した者として、身が引き締まる思いだった。あの時すでに手遅れで、救けられなかった人たちも多くいた。
試験で、要救助者はその手のプロだとしても……今度こそ全部救けてやると万癒は意志を固くするのだった。


「もう大丈夫ですよ。私はヒーローで医者です。絶対救けます!」
「うっ……ううっ、ありがとう……」
「(会話は可能だが油断すると落ちるな。出血が派手。だがそれより……)すみません、少し触りますね。痛かったら痛いっておっしゃってください」
「う゛いだいいだいいだい……!!」
「すぐに処置しますね。大丈夫、すぐに良くなりますよ」

普段の口調の見る影もなく、実に愛想よくはきはきと喋る万癒に近くにいたクラスメイトは驚いた。おまえ、そんな感じだったかと我が目と耳を疑った。
万癒はおばあさんのバッグにつけてあるウォッシュのキーホルダーを見ると、それを会話の糸口にした。


「おばあさん、ウォッシュ好きなんですか?」
「ま、孫が好きでね……」
「じゃあ、お孫さんもキレイにツルツルCM見てらっしゃるんですね。……子どもってすごいですよね、新しいのすぐ覚えちゃうんですから」
「そうだねぇ……よく踊って見せてくれるんだよ。おかげ様で私もちょっとは踊れるんだよ」
「へー! じゃあお孫さん教えるのも上手なんですね! ……よしっと、もう終わりましたよ。しばらく安静にしてないとダメですけど、その間にCM新しくなってると思うので、練習してお孫さん驚かせちゃいましょう」
「ああ、一緒に踊るのが楽しみだ」

その後に力自慢である砂藤に救護室まで運ぶようにお願いする。その際に砂藤に「なるべく声かけろ。この症状だといつ意識落ちてもおかしくねぇから」と注意し、おばあさんにも明るく声をかける。「シュガーマンっていうんですけど、顔に似合わずお菓子作りとか得意なんですよ。私もシフォンケーキ食べましたが、これがかなり美味しいんです!」「まぁそうなの、レシピ教えてほしいわ」「俺のでよければ!」引継ぎも問題がないのを確認すると、万癒はさっそく次の救助者への処置に向かっていた。その姿には一切の迷いがなく、他校の先輩とも見事に連携していた。


「なんか……ああいうの見るとさ、やっぱ医刀ってすげぇんだなって思うよな」
「マジで医者だもんな。場数がちげぇよ」

頼もしいクラスメイトの姿に身が引き締まる思いだった。俺らも負けてらんねぇな。その後、大規模破壊テロが発生するも、各々適材適所で乗り切り試験は終わった。


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