いつか、はいつか、
「ま、当然の結果だな」
仮免試験の合格発表。万癒の名前は当然のように並んでいた。これで万癒はヒーローの卵から羽化し、セミプロになったのだ。これで万癒は緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる。正規の活躍が出来る権利を貰ったのだ。相澤たちの失った信頼を取り戻すチャンスが与えられたことになる。
ここから、ここからだった。ヒーローとしてのスタートラインにようやく立ったのだ。
けれど1年A組全員で合格するのは叶わなかった。
轟と爆豪が仮免落ちしたのだ。クラスのツートップが落ちたというのはなかなかの衝撃だった。
「轟……」
「……」
士傑の夜嵐が、轟が落ちたのは自分のせいだと言って頭を地面に打ち付けていた。轟も轟で元々自分が撒いた種で、夜嵐が直球でぶつけてくれたおかげで気づけたこともあると言って、何かを考えていた。
万癒は事情は分からなかったが、轟とはそれなりに喋る方であるし、何より自分のとっておきの秘密を打ち明けた仲である。多少なりとも気にかかったが……何と言っていいのかわからなかった。分からなかった、けれど……どうしたらいいかは経験則からなんとなくわかった。
「そば……奢ってやる。好きだろおまえ……」
「医刀……」
「寮生活でも、ほら、お取り寄せとかあんだろ……美味いやつ」
「……ありがとう」
「……別……いや、うん」
別に、と言おうとして素直にうんと言い直す。それに轟が少し驚いたような顔をしてくるので居心地が悪かった。少しだけ、轟を見習っている。轟はみんなに追いつくためになるべく発言するように頑張っている。万癒にとって聞き捨てならない通訳ばっかりするけれど、轟の努力も、素直さも……それは見習うべきものだから。
轟が素直だったから、期末試験でも万癒は少しだけ素直になるきっかけを与えてもらった。だからプライドはなるべくおいて、素直になりたいとは思う。まだ照れくさくて完全には無理だけれど。
「爆豪も、おまえ何が好きだ?」
「あ゛!? おまえの施しなんざいらねェよ!!」
「施しじゃねぇよ。ただ――」
「いらねェ!」
「そうか、わかった。余計なお世話だったな」
「ケッ」
万癒は爆豪には世話になったと認識していた。寮生活がスタートした日、爆豪が空気を換えてくれたのも。今回の試験で咄嗟に判断してくれたのも。そもそも、爆豪は上鳴と万癒を庇うように前に出たように見受けられた。今までだったらきっと爆豪は前に出たがる性格だもんな、で終わっていたそれも……意外と気遣いができるタイプで周りをよく見ていると分かってからは、違う受け取り方ができていた。
だからこそ思う……もし、爆豪が緑谷とオールマイトの関係を知ってしまっているのなら、そうでなくてもオールマイトの引退に責任のようなものを感じているのではないかと、今の万癒は懸念していた。
周囲は爆豪と万癒を似ているという。本当に似ているのなら、それなら――。
しばらくして、採点内容が詳しく記載されたプリントが配布された。減点方式での採用。どの行動が何点引かれたのか記載してあった……が。
「待ってヤオモモ94点!!」
「ハッハッー!! 勝った!! 勝ったぞ八百万!! 私の完全勝利だ!!!」
「まぁ……!!」
「ひゃっ100点ーー!!?」
「満点じゃん!!」
「万癒すげええええ!!」
渾身のドヤ顔だった。引きべき点など一切なし。状況把握、処置、救助者への声掛け、現場指揮、全てにおいてパーフェクトだった。これにはみんなもすげぇえええと大騒ぎし、軽くお祭り状態だった。
だがしかし、肝心な八百万も「さすが医刀さんですわ……!!」キラキラと尊敬の目で見てきたので「いやもっと悔しがれ!!!」爆発した。おまえは私が認めたライバルだろうが。分かってはいたが万癒への憧れが強い。
でもすごいと持て囃されるのは案外満更でもなかった。
「当然。私は医者だぞ! 立ち居振る舞いも完全完璧に決まってんだろ!!」
「いやそれ、試験中おまえ誰? って感じだったよ」
「え、そうなん?」
「ウォッシュのキレイにツルツルCMとか知ってるのが意外だったわ」
「いい感じに盛り上がってたよな」
「なにそれめっちゃ見たかった! 万癒ちょっと実演してくれよ!」
「やんねーよ」
「え〜! マジもったいねぇことした。万癒についてけばよかったな」
上鳴の心底残念そうな様子に、万癒は何言ってんだと事も無げに言う。
「いや、おまえは爆豪で合ってんだろ。バランスとれてるよ」
「え……?」
上鳴はよく気付くタイプだなと万癒は思っている。乱暴な言動に惑わされず、その意図を汲み取る力がある。楽観的だと自身を称するだけのことはある。良くも悪くも、物事の受け取り方がフランクなのだ。
こういうことは言いたかないけれど、自分がクラスに馴染めるようになったのも、上鳴がきっかけをくれたおかげだと思っている。あのクソふざけた「万癒初めての挫折おめでとう」の会も。あれがなかったら……きっと素直に八百万に謝れなかった。まぁ、要するに……感謝してるってことで。
「なぁ、万癒。それってどういう――」
「……さぁな」
「えええっ、なんだよそれ」
素直になろうとはしてる。でもまだ、まだ……この気持ちは言えそうにない。だってあまりにも恥ずかしいから。
でも、いつか言えたら……ううん、いつか言おうと思う。きっとすげぇ驚くんだろうけど。今からそのアホ面が目に浮かぶようだった。