やっぱ似てねぇよ

仮免落ちした轟や爆豪も、補講を受けることで試験に合格すれば仮免を発行してもらえるという。少し遅くなるが、きっと二人は仮免を取るだろうと万癒は思っていた。

寮に戻って、お茶をして、口田が飼っているウサギのゆわいちゃんを連れてきたことで蛙吹や常闇と共に万癒もそちらに加わった。


「あらカワイイちゃん」
「結って名前もいいと思うけど、可愛いからついカワイイちゃんて呼んじまうよな」
「ええ、可愛いの権化だわ」

蛙吹と万癒が二人で結ちゃんを前にそんなことを言っていると、常闇のお腹から黒影が飛び出してきた。それに万癒は慣れたように対応する。


「万癒! 俺もカワイイ!」
黒影ダークシャドウ、何度も言っているが、急に飛び出すんじゃない。すまない、医刀」
「気にすんなって。黒影も可愛いぞ。でもおまえは黒影って名前で大正解だろ」
「うん! 俺も気に入ってる!」

ぽんぽんと黒影の頭を撫でてやる。体育祭以降黒影には懐かれたようで、近くにいるとこうして現れることが多々あった。暗闇の中では黒影は獰猛だが、普段は中々に愛嬌のあるカワイイ仲間だった。
それに口田は感心した様子で腕の中にいる結ちゃんを見た。


「医刀さん、すごく懐かれてるよね。結ちゃんも医刀さんのことお気に入りなんだよ」
「それは光栄だな。私は獣医師免許もちゃんと取ってるから、なんかあったらすぐいうんだぞ。健康診断とかでも全然やるから」
「ありがとう。今度是非お願いします!」
「万癒、俺もー!」
「いいぞ」
「ヤッター!」

そんなことを話していると、近くで爆豪が緑谷に声をかけるのが聞こえ、そちらに注意を向けた。「後で表出ろ」「てめェの個性≠フ話だ」その言葉から万癒はやはり緑谷がやらかしていたことを瞬時に悟った。
苛立ちが表に出てしまったのだろう、黒影と結ちゃんが心なしか怯える声を出したのを受け「すまない、なんでもない」誤魔化すように笑った。動物は敏感である。







万癒は就寝時間を過ぎた頃、一階に降りて寮を抜け出す爆豪を緑谷を気付かれないように見送っていた。やはり自分の読みは間違いではなかったらしい。それにため息を吐きつつも、まぁこれでよかったのだろうと思うことにした。


「……止めるべきなのかもしれねぇが……それが正解とは限らねぇからな……」

共有スペースのソファに座り込み、爆豪たちの帰りを待つ。
すっかり自分も変わってしまった。時にぶつかることが必要なときもあることをもう万癒は知っている。ならば、自分が出来る限りのことをしてやろうと思う。きっと二人ともボロボロになって帰って来るだろうから。


「似てるかなぁ……似てねぇと思うけどなぁ」

事あるごとに爆豪と似ているだとか、女版爆豪だとか言われているけれど、万癒は違うと思っている。爆豪にあって万癒にないものが明確にわかっているからだ。それは個性とか、体質とかではなくもっと根本的なものだった。


「あいつ強いんだよな。よく気付く上に……どうしたらいいか、ちゃんと分かってんだ」

誰もいない共有スペースでそんな独り言を呟いた。でも、緑谷に対しての気持ちだけは……少しだけ理解できるのかもしれない。だって、万癒はずっと緑谷のことが――。








「おー、おかえり。派手にやったな」
「え、医刀さん!?」
「ンでおまえが……」
「結ちゃんと黒影愛でてたら、おまえらの密会の話が聞こえたもんでな。どうせ派手にドンパチやるだろうから、手当くらいはしてやろうと思って」
「み、密会……」
「気色悪ィ言い方すンじゃねェ……!!」
「怒鳴る元気はあるようで何よりだ。まぁ、座れよ。ちゃんと処置してやるから」

申し訳程度に張られた湿布を突くと、やめろとばかりに爆豪が顔を背けた。それに万癒は思ったより元気そうだと安心した。やはり今回は止めなくて正解だったらしい。


「で、どっちが先に手ェ出した? まぁ、わかるけど」
「俺」
「素直でよろしい。じゃあ先に緑谷の処置だな。爆豪はちょっと待ってろ」
「……はよしろ」
「かっちゃん……ごめん医刀さん。お願いします」
「はいよ」

緑谷の処置をしながら思ったのは、もう中々に緑谷は身体を壊さなくても個性が使えるようになったんだな、という感想だった。万癒が知っている情報は、何らかの形でオールマイトの個性が緑谷に移植されたということだけだった。個性の譲渡。それは医学界でも今なお研究され続けている。でも実際その方法が確立されでもしたら、世の中は混乱するよなという思いから、深く知ろうとも思わなかった。


「ちったぁ成長してるみてぇだな」
「あ、うん……おかげさまで」
「でも、軽々しくぺらってんじゃねぇぞマジで。世の中良い奴らばっかじゃねぇからな」
「ハ、ハイ。スミマセン」
「ハッ、もっと怒られろクソデクが」

爆豪を一瞥して、万癒はちゃっちゃと処置を済ませると、緑谷を部屋に返そうとした。「かっちゃんがまだ」渋る緑谷に「爆豪がおまえと一緒にいて心休まると思うか?」真顔で聞くと緑谷は何も言えなくなり、大人しく戻った。
それを確認して、万癒は爆豪に向き直る。


「爆豪」
「……ンだよ」
「おまえは強いな」
「……は?」

よしよしと爆豪の頭を撫でた。それに爆豪はしばし面食らっていたが、何をされているのか理解すると爆速でその手を払った。


「ンだよ気色悪ぃな!!」
「よく頑張ったなって褒めてんだよ。おまえ、ずっと抱えてたんだろ」
「……何のことだよ」
「緑谷の個性≠フことも、最近知らされたわけじゃねぇな? そんで、オールマイトの引退からも……ずっとしんどいの一人で抱えてた。違うか?」
「……ンだよ、見透かしたつもりか? 余計なお世話だ、医刀……!!」
「いやまぁそうだわな。おまえは共感なんざ求めてねぇし……そんなのいらねぇもんな」

ため息をつきそうな万癒に、爆豪はこいつ何なんだと訝し気な視線を向けた。自分に対して万癒の対応が少し違うのは分かっていた。それが何故かはわからなかったけれど、万癒は自分に対して割と寛容で、許容を見せていた。変なヤツとは思っていたが、嫌なものでもなかったから今まではそのままにしていた。


「おまえの緑谷への気持ちはまぁ色々複雑だろうが……私も全く分からないわけじゃねぇつもりだ」
「……デク心配してるおめぇに俺の何が分かんだよ……適当なこと言うンじゃねェ」

爆豪にもそのように受け取られていたことに、万癒はまたため息を吐きたいのを我慢した。確かに爆豪とこのことについて腹を割って話したことなどなかったし、万癒と緑谷が関わるときも、爆豪は視界にも入れたくねぇとばかりに目を背けていた。おまけに轟のいらん通訳もあり、誤解されているのも仕方ないなと、万癒はこれだけはちゃんと爆豪に伝えようと口を開いた。


「はいそれ、その大前提が間違ってんだよ。私は緑谷を心配してるわけじゃねぇ」
「ンなわけ――」
「心配じゃなくて……私は緑谷が怖いんだよ」
「……は」

真剣な目で爆豪を見る。万癒が緑谷に抱いている感情は心配なんて生易しいものじゃない。恐怖だった。それに爆豪は目を見開いた。瞳が揺れている。信じられないものを見たかのような目だった。


「あいつは……頭のネジが完全に外れてやがる。救ける≠ニいう目的のためになら……自分の身をどこまでも犠牲にする奴だ。ヒーローってのは確かにそういうものかもしれねぇが……あいつのあれは異常だ」
「……」
「だから心配じゃねぇんだ。私は緑谷が怖い。いつか限界を超えて、治せない傷を負って……そのまま逝っちまいそうで……怖いんだ」

それは爆豪が抱えている緑谷への畏怖と似ていた。自分を勘定に入れていない不気味さ。けれどそれがヒーローの本質であるのもまた然りで。
オールマイトから「救けて勝つ」「勝って救ける」最高のヒーローになるには力と心がどちらも必要だと諭された今、爆豪は万癒の告白を受け取ることができた。手当のために差し出した右手を俯いたまま、眺めながら爆豪は口を開く。


「俺とおまえ……似とると思うか」

爆豪の問いに万癒はそれこそ笑った。


「似てねぇよ」
「……なンでだ」
「おまえは……私よりずっと強くて、賢いからだ」

じっと、爆豪の視線が上がり万癒を見る。万癒も手元から視線を上げて爆豪を見ると、優しい顔をした。


「爆豪、おまえは忍耐強いし、立ち方も誰に言われずとも理解してる。今だってもうどうしたらいいのか分かってるだろう」
「……」
「でもな、私はそうじゃなかった。すぐに爆発したし、場所も考えずに派手にやった。その後も立ち方を教えてもらってようやく……私は責任を取れた。それでも、周りが助けてくれたから……丸く収まれたんだ」
「……」
「おまえはすごいよ。よく周りを見てる。分かりにくいだけで……おまえはずっと、たった一人で足掻いてた。だから……私とおまえはやっぱ似てねぇよ」
「……そうかよ」

そのまま処置が終わり、もういいぞと声をかけると、爆豪は立ち上がって部屋に戻ろうとして……止まった。


「医刀」
「ん?」
「俺も似てねェと思う。おまえは……イマドキ流行ンねェツンデレだかンな」
「いやツンデレじゃあねぇんだわ」

爆豪はそれだけ言うとさっさと戻ってしまった。でも、今のは素直にありがとうと言えないことに対しての話だろうなと万癒は察して「本当に素直じゃねェヤツ」と困ったように笑うのだった。


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