足りないもの

喧嘩をしたことにより、謹慎処分を食らった爆豪と緑谷だったが、以前よりはいい関係を築けているようだった。
そして意外なことに、爆豪と万癒の関係も進展を見せていた。


「医刀」
「どうした? 爆豪」
「これ」

爆豪が見せたスマホの画面に激辛お取り寄せ特集が組まれていた。
万癒は瞬時に理解すると分かったと頷いた。


「楽しみにしてろ」
「ん」

仮免試験の時に施しはいらないと断られたが、腹を割って話したことで爆豪の中でも心境の変化……否、認識の変化が起きたのだろう。万癒がよしよしと頭を撫でても、振り払いはしなかった。嫌そうな顔はしているけれど。
それに最も衝撃を受けたのは上鳴と……緑谷だった。


「えっ、なんか仲良くなってね!!?」
「(かっちゃんが……大人しく撫でられてる……!!?)」

各々衝撃の先は違うけれど、この関係の変化は実に意外であった。


「なぁ万癒、あんな爆豪と仲良かった? なんかあった感じ!?」
「別に」
「絶対ウソ! なんかあったね!!」
「なんもねぇよ」
「万癒〜!」
「うるせぇ」

何々何があったのと追及してくる上鳴を躱しながら登校する。
始業式も終わり、ビッグ3によるインターンの説明会も開かれ、各々どうしようかと悩んでいる頃だった。万癒はエッジショットのところにインターンに行こうか迷っていたが、エッジショット自体が、シンリンカムイとMt.レディとのチームアップに向けて動いている事を加味し、今回は見送ることにした。
現場で経験を積むのも大事だが、自分には今もっと大事なことがあるような気がしたのだ。それは――。







「――で、この答えが導き出されるわけだが……わかったか?」
「わっかんねぇ……!!」
「もっと嚙み砕いて説明してくれ!!」
「噛み砕いて……ここを分解して……それを更に――」
「その分解の仕方みたいなのを教えてほしいんだけど!」
「ああ、なるほど……基礎からか。わかった」

万癒に今必要な事。それはクラスメイトとのコミュニケーションだと判断した。同年代とろくに接したことのない万癒は、自身のコミュニケーション能力に問題があると判断したのだった。
人の気持ちを理解し、汲み取り、円滑なコミュニケーションを築く。以前エッジショットが言っていた、最高の医者にはなれても、ヒーローにはなれないという意味について、万癒なりに答えを出していたのだ。

共有スペースで勉強をしていたため、TVから声が聞こえてきた。馴染みのあるウォッシュのCMにじっとそちらを見た。寮生活になるまでなら、TVなどろくに見ていなかった。精々ネットでニュースを把握するくらいで、こういったことはまるで興味がなかったが……仮免試験の二次試験といい、身近な存在であるヒーローが心を保つ大事な糸口になりえることを万癒は理解していた。

「だからこそ我々はヒーローらしく在らねばならない。かつての架空のままに、人々に安寧を齎す事こそ本質だと俺は考える」

エッジショットの言葉は分かり辛いものばかりだが、あの手紙以降クラスメイトと接する機会を増やそうと努力している万癒は、その意味に少しだけ近づけた気がした。
今まで見なかったテレビも、そこにみんなが集まっているから自然と見るようになり、どれだけヒーローがメディアに露出しているのかよくわかった。それに対しての人々の好意的な意見も。どういうヒーローなのかもわかりやすいのも確かだった。
すぐそばに頼れるかっこいいヒーローがいる。それがどれだけ人々の心に安寧を齎しているのか……万癒はじっと考えていたのだった。


「――と、いうわけだ。どうだ? 今のでわかったか……?」
「わかった!! なるほどそういう!!」
「万癒やればできんじゃん! その調子で他の教科も頼む!」
「そうか……それならよかった」

心なしかほっとした様子の万癒に、勉強を教わっていた上鳴たちは顔を見合わせた。


「なんか医刀……丸くなったよね」
「あ?」
「雰囲気結構柔らかいよな」
「は?」
「こうして見ると鉄パイプぶん回して暴言吐いてた人にはとてもとても――」
「……」
「いやそれな! 万癒黙ってたら美人なんだからすげぇもったいねぇんだよなぁ。意外と笑うと可愛い感じで――」
「バカ調子乗りすぎっ」
「あ……」

芦戸が止めるも、時すでに遅し。万癒はそれはそれはもういい笑顔だった。ただしバッグに暗雲が立ち込めているが。


「いい度胸だ。軽口を叩ける元気があるならまだまだ余裕だな。ついでだから今週の予習を済ませておこうか」
「すんませんしたっ!!」

秒で謝るも「何謝ってんだ? 謝ることなんてないだろう?」ニコニコニコニコ。暗雲を背負いながらページをめくる万癒に、上鳴は死を悟るのだった。

余談だが、予習し殺された上鳴の成績は一時的にものすごく上がった。言動もちょっとインテリっぽくなっており、誰おま状態が一週間続いたことで、万癒の魔改造が疑われたとかなんとか。それも予習した一週間が過ぎると元のアホな上鳴に戻ったのだった。上鳴はその一週間の言動を覚えておらず、完全に万癒による一時的なビフォーアフターであった。


「やっぱおまえはこうでなくっちゃな」
「ええっ……なにそれ。俺全く覚えてないんだけど……」
「脳天気で楽観的なおまえのがいいと思うぞ」
「それ褒めてる……?」
「褒めてる褒めてる」
「ほんとか!?」
「ほんとほんと」


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