協力要請

仮免の補講は大分苛烈なようで、週明け、爆豪と轟の身体にはたくさんの傷ができていた。


「大分大変みたいだな。他にどっか痛むところはねぇか?」
「別に……大変じゃねェよ」
「そうか。轟は?」
「俺ももう大丈夫だ。ありがとな、医刀」
「どういたしまして」

最後に二人そろって頭をわしゃわしゃと撫でると、爆豪は相変わらずツーンとしていたが、轟はきょとんとしていた。それが対比されているようでちょっと面白かった。


「そういえば医刀、そばありがとな。早速食べた。うまかった」
「それは何よりだ。そばパワーで補講頑張れよ」
「ああ、頑張るよ」

轟はいつも素直だなと万癒は笑った。それじゃと戻っていく轟とは逆に、爆豪はまだツンとした様子でそこにいた。万癒もそれが何故か分かっているから、その場に留まった。


「……ラーメン」
「ん」
「……美味かった」
「それはよかった。カレーの方はどうだった?」
「辛さが足ンねェ……もっと辛ェのがいい」
「そうか。じゃあ今度はもっと辛いのにしよう」
「……ん」

相変わらずツンとしているが、いつもの機嫌悪そうな顔と比べるとずっと穏やかだった。爆豪は一人だと静かな方なのだろう。おまえも生きにくそうだなと思いつつ、それは心の中で留めた。
言いたいことを言い終えた爆豪はそのまま戻っていった。素直じゃないけれど、結構可愛いやつ。これも口に出したら怒るから言わないけれど。







「医刀さん、あの……ちょっといい?」
「緑谷……? なんか用か」
「ここじゃそのあれだから……場所変えたいんだけど……」
「……付いて来い」
「あ、うん!」

緑谷が場所を変えたいというのなら、個性だとか……そっち系の話だろうと当たりをつけた万癒は、会議室が近かったこともあり、そちらを使用することにした。
鞄から鍵を出して、躊躇いなく入る万癒に驚きつつ、緑谷も中に入る。


「医刀さん、鍵持ってたの!?」
「……私は一応、生徒でもあるが……雄英に雇われてる医者でもあるんだよ。カウンセリングとかのためにこういうとこの鍵は貰ってる」
「へ、へぇ……(やっぱ医刀さんすごい人だな……)」

突っ立っている緑谷を座るように促して、それで本題はなんだと切り出した。
緑谷は緊張した様子で、ぽつりぽつりと話し出す。


「その……オールマイトの身体って……医刀さんでも、治せないものなのかな……?」
「オールマイト?」
「……詳しくは言えないんだけど……オールマイトの傷を治せたら……未来が変わる気がして……」
「未来……」

その単語こそ不可解であったが、最近の緑谷といえば、インターンを希望していたことを思い出し、ビッグ3の通形と一緒にいたことを思い出す。彼のインターン先のヒーローは確か……未来を見る個性だったはずだ。そしてオールマイトの昔の相棒でもある。なんかよからぬことを聞いたなと万癒は察した。


「……結論から言うぞ」
「は、はい」
「私でもオールマイトを完治させることは難しい」
「っ……やっぱり……」

膝を握りしめ、俯く緑谷に万癒は少し迷う。完治はできないが、マシにすることができると言うべきか否か。きっとこれを話せば緑谷はオールマイトを説得して、治療に当たらせるかもしれない。けれど……今、緑谷からオールマイトを引き離すべきではないとも万癒は考えていた。
だから迷って……言わないことにした。


「だが、引き続きオールマイトは私が診ている。悪いようにはしない」
「……うん、オールマイトを……お願いします……!」
「……ああ」

そしてその数日後、それどころじゃない話になっていく。
指定敵団体、死穢八斎會を相手取る大規模な作戦が決行されようとしていたのだった。







「――なるほど、それで私に白羽の矢が立ったと」
「無理にとは言わない。おまえはそもそもインターン希望してないからな。大人こちらの事情だ」

緑谷がここ数日様子がおかしかった。いきなり泣きそうになりながら昼飯を食べているし、心ここにあらずの様子だった。オールマイトのことでそんなに思いつめたのかと、柄にもなく心配していたが……なんてことはなかった。
他にインターンを受けている麗日や蛙吹、切島といったビッグ3と同じインターン先の面々もどこか緊張していたのは、この作戦が関係していたらしい。

万癒は相澤に一時的なインターンの協力を申し出されていた。なかなか大掛かりな事案であるのと、個性を壊すクスリが開発されていることから、仮免と言えどヒーロー活動が許された医者に協力を仰ぎたいとのことだった。


「……断る理由なんてないですよ。私でお役に立てるなら、是非協力させてください。必ず、先生の信頼も取り戻して見せましょう」
「……そうか、なら頼んだぞ。レディ・パルフェ」
「お任せを」

相澤は万癒の瞳の中に静かに燃える何かを見た。熱が伝播している。医者からヒーローになろうとしているのを感じた。成長しているのだ。日々与えられる受難の中で、確実に一歩ずつ進んでいた。

その後に詳しい概要を教えてもらい、個性を壊すクスリにエリちゃんという女の子が関わっていると聞き、万癒は必ず救けると意志を固めたのだった。


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