面影は遠く、
いよいよ作戦決行日、万癒は
傷ついたヒーローたちを治し、クスリを受けた者の治療を試み、クスリ自体を解明すること。よって万癒はリューキュウとその相棒、インターン生である波動や麗日、蛙吹が戦っているのを邪魔にならない位置で見ていた。
何かあればすぐに処置できるように、目を光らせる。それからしばらくした後だった、イレイザーヘッドから指示が出たのは。
「サンイーター! こちらにいらっしゃいますか!? サンイーター!!」
数名の警察と一緒に連絡があったサンイーターのいる場所へと駆けつけた。
すると倒れている天喰の姿が見つかり、急いで処置に当たる。少し離れた場所には、敵三人が一塊となって拘束されており、これを一人で制圧したのかと万癒は驚いた。ビッグ3というのは伊達ではないらしい。そこら辺のプロより実力がある。
「これでよし。顔面にヒビが入っていましたが、後遺症が残るほどではありません。後はよろしくお願いします」
「あ、きみっどこに!」
「イレイザーヘッドが突入指示を出したんです。ということはここから先は……怪我人しかいません。私は治すために呼ばれたインターン生です。使命を全うします」
万癒の強い意志を湛えた瞳に、警察の一人が僅かにたじろいだ。ベテランの警官が若手に指示を出し、天喰を連れ出すようにいう。そして残りの警官と共に万癒と同行することにした。
「嬢ちゃん、大したもんだね。あんたはいいヒーローになる」
「……恐縮です」
ヒーローと言われて、万癒は一瞬言葉に詰まったが素直に頷いた。
そうして次に出会った患者は万癒もよく知る人物であった。
「烈怒頼雄斗! ファットガム!」
「おっ、レディ・パルフェ!! 来てくれたんか!!」
「っと……(なんかいやがる。一人は拘束されて、一人は普通にしてやがる……)」
「こいつらはええから、はよ切島くん診たって!!」
「ええ……」
何だこの状況、と思いつつ警官と一緒に入る。拘束されている敵を警官が連れ出そうとしていた。
切島を見た時、万癒も動揺しなかったわけじゃない。全身……全身、
そしてそれをしたのは……間違いなくこの場にいる二人の男だった。いや、なんか仲良くねぇかどうなってんだ。
「そいつ、治せんのか。だったら早くしろ。殺す!」
「あ゛?」
「誰が殺させるかい!!」
「再死合をさせろ……その男ともう一度殺らせろ……!」
切島はどうもこの戦闘狂の敵に気に入られてしまったらしい。再死合だなんてとんでもない。そんなことを万癒は決して許さない。切島の処置をしながら、薬剤を創造する。そしてそれを、「栄養ドリンクだ。フェアに行こう」とにっこり笑って敵に差し出した。
「え、ちょ……パルフェちゃん!?」
「……いただこう」
「馬鹿が! 罠に決まっている!! おい乱破! 聞いているのか! 飲むんじゃない……!!」
随分素直な敵だと万癒は目を細める。乱破と呼ばれた戦闘狂の敵は何の疑いもなく万癒の薬を飲み、そして……気絶した。
「えっ!?」
「馬鹿者が!! この小娘っ、謀ったな……!!」
「殺させるわけねぇだろ。殺していいのは私だけだ」
「それもどうなん!!?」
血気盛んなヤツほど万癒の薬は効く。ヒーローになると決めた日から、そのように改良してきた。こうも上手くいったのは間違いなくあの敵が素直な質だったからだけれど。何の疑いもなく、全部飲んでくれるとは万癒も思わなかった。
こうして煩い口を塞ぎ、万癒は切島とファットガムの処置を終えると、警官に眠った敵と切島たちを任せ、次の患者の下へと急いだ。
途中でロックロックを見つけ、処置にあたった。そこから連合が現れたことや、ルミリオンが先行していること、イレイザーヘッド、ナイトアイ、デクが先に進んだことを知らされた。
そうして先を急ぐ。治崎が、エリちゃんが近くなっているのも分かっていた。護衛についてくれていた警官ももういない。患者と敵を捕らえるために置いて来たから。
それでも万癒は進んだ。心臓が早鐘を打っていた。どうか無事で、そうでなくても……間に合え。そうして進んだ先で、万癒は決断を迫られた。
「ルミリオン、ナイトアイ、デク……」
ルミリオンはボロボロで、ナイトアイの腹に大穴が開いていた。デクは……緑谷はエリちゃんを抱えて治崎と戦っていた。一番重傷なのは間違いなくナイトアイで、万癒はまずそちらに駆け寄り、その場で
「レディ・パルフェ……私は、もう……それに、緑谷も……死ぬ」
「そんなわけないでしょう。私がいる。そのために私が来たんです。必ずあなたも、緑谷も救けます!」
「……」
「だからあなたも諦めないでください。それがあなたの見た未来なら、私が変えます」
麻酔をかけて処置に挑んだ。腹部には太い血管がたくさん詰まっている。大体がこうなれば即死であった。それでもナイトアイは生きていた。生きているなら救けなくては。必ず、自分が救けなくては。
そのとき、麗日の声が聞こえた。
「万癒ちゃん!! デクくんが……!!」
「っ、何だ!!」
「様子がおかしい! 急に苦しみだして……!!」
緑谷が苦しんでいる。それに万癒は咄嗟に視線をよこした。異常な苦しみようで、エリちゃんの個性が暴走しているようだった。エリちゃんを止めないと、麻酔を撃ち込んで眠らせて、創造を、ダメだ射程圏外だった。いや、射程圏内だったところで自分は手が離せない。手を止めた瞬間、ナイトアイが死ぬ。でも緑谷も、緑谷も――。
「だから心配じゃねぇんだ。私は緑谷が怖い。いつか限界を超えて、治せない傷を負って……そのまま逝っちまいそうで……怖いんだ」
ずっと感じていた恐怖が
脳裏に在りし日の父の姿と、何故か髭面と黒髪のポニーテールが一瞬浮かんだ。ここにいないヤツに縋ってんのか。そんなの何の意味もないのに。
決断しなくては、すぐに、今すぐに。優先順位を、救けなければならない。それなら、そうなら、何かを諦めるしかないのか。でも、誰も何も諦めてない。誰も、緑谷なら……緑谷なら、こんなとき、絶対に――。
「っ! ウラビティ!! デクに伝えろ!! 今死んだら末代まで呪うって!!」
「万癒ちゃっ……」
「お茶子ちゃん、」
「……わかった!!」
結局、緑谷の方は相澤が抹消でエリちゃんの個性を止めてくれて、助けてくれた。万癒はずっと、ナイトアイの処置に当たり……そしてそれは救急車が到着して、乗り込んでからもずっと、ずっと……万癒は――。
「――ぁ……」
命の灯が……消えかかろうとしていた。臓器を創造して、血液を創造して、器具を創造して、繋いで、繋いで、繋いで、そうして手繰り寄せていた命が、命が――。
「ダメだ。それはダメだ……逝っちゃだめだ……」
万癒は、レディ・パルフェは必死に命を繋ぐ。血まみれの手で、必死に、命を――。
「私が変えるんだ……私が、あなたの未来を……私がっ……」
だって、レディ・パルフェは……そのために生まれたから。多くを救う
「万癒」
浮かぶのは、縋るのは……記憶の中の父だった。万癒の
「――父さん……っ」
ああ、こんなに遠い。父の背中が……父の笑顔が……。
「……クソがっ!!!」
――父さん、私……