救命第一
次の日のヒーロー基礎学は戦闘訓練だった。
個性届と要望に沿って誂えてもらった戦闘服に身を包み、グラウンド・βへ。
「医刀のコスチューム、すごい医者っぽいね!」
「医者だからな」
「ほんとだ〜! 免許もある〜!」
「いつでも提示可能にしとかねぇと患者も安心して任せらんねぇだろ」
「疑ってたわけじゃないけどさ、この免許見るとほんとに医者なんだってちょっと驚いちゃった。すごいね、あんたって」
「……まぁ」
耳郎の素直に感心した様子に、万癒も言葉少ながらに肯定する。
個性柄創造のために露出は増やさねばならない上に、一番脂質を蓄えている胸からの創造を可能とするため、下乳部分が少し開けたコスチュームだった。しょうがないこととはいえ、少しげんなりしていると、八百万がそれはもうインパクトのあるコスチュームを堂々と着こなし、むしろ要望より布面積が多いとぼやいていたのを聞き、一気にどうでもよくなった。
「始めようか有精卵共!!! 戦闘訓練のお時間だ!!!」
ヒーロー基礎学、最初の授業は戦闘訓練だった。
屋内での対人戦闘訓練。ヒーローチームと
万癒はIチームに配属される。強靭な尻尾の個性を持った尾白と、透明人間の葉隠と同じチームだった。
そして記念すべき一戦目は緑谷と麗日のヒーローチームと、爆豪と飯田の敵チームという、なんとも不穏な組み合わせであった。
まだ二日目だが、その期間だけでも緑谷と爆豪の相性が悪いというのはよくわかっていたし、何やら因縁もあるようだった。万癒は大怪我しないといいけどなと思うが、やはりそれは現実になった。
『ヒーローチームウィーーーーン!!』
「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら……」
「勝負に負けて、試合に勝ったというところか」
「訓練だけど」
「オールマイト先生、私も行こう」
白衣を翻しオールマイトを追う。戦闘訓練は苛烈の一言だった。
爆豪は私怨丸出しであったし、緑谷もボロボロになりながら立ち向かい、最後は腕をぶっ壊しながら勝利への突破口を切り拓いた。戦闘訓練ではあるが、誰がここまでやれと。今回のMVPは間違いなく飯田だろう。
それはそれとして、ぶっ倒れている緑谷と麗日が気になった。
「おいクソもじゃ。生きてるかー」
「ぅ……ん」
「よし生きてんな。死んでたら殺してるところだった。命拾いしたな、おまえ」
「(言ってることめちゃくちゃだよ医刀さん……)」
物騒なことしか言わなくても正真正銘腕利きの医者である。
テキパキと処置をして搬送ロボに保健室まで連れて行かせた。続いて麗日だったが、ただのキャパオーバーによるリバースである。酷いようなら吐き気止めを処方しようと思うが、そこまでではなさそうなので背中を擦ってやるだけにした。
そしてモニタールームに戻って講評に移ったのだが、万癒が思っていたことを八百万がそのまま口にした。
推薦入学者2名のうちの1人だという。なるほど頭はキレるらしい。
創造系の個性で、頭のいい女生徒。少なからず意識するなにかはあった。
「万癒ちゃん、尾白くん、私ちょっと本気出すわ。手袋もブーツも脱ぐわ」
「(万癒ちゃん……?)」
「うん……(葉隠さん……透明人間としては正しい選択だけど、女の子としてはやばいぞ、倫理的に……)」
「あんま無理はすんなよ。身体に異常あればすぐいいな。女は冷えると色々よくないんだよ」
「わかった!」
下の名前でちゃん付けされるなんて慣れておらず、思わず反応したが葉隠は大分こう、フレンドリーな性格である。こういう年頃の女子でそういう呼び合いは珍しくないだろうと結論付けた。
そして始まった二戦目、それは一瞬だった。
「すげぇな。ビル丸ごと凍らせられるとは思わなかった」
そんなことを言いながらも万癒は胃液を創造し、慎重に凍った足元を溶かしていった。
そうして動けるようになると、万癒は轟たちを迎え撃つ――のではなく、葉隠のもとへと急いだ。
「遅くなった。葉隠、大丈夫か」
「!! 万癒ちゃーん! もう寒くて痛くて! やばいよ〜!」
「ちょっと大人しくしてろ。処置する」
ゴーグルのサーモグラフィー機能を頼りに葉隠の身体を捕捉し、自身のときと同様に溶かしていく。
葉隠が解放されたと同時に、ヒーローチームの勝利が知らされ、万癒たちの負けが確定した。
「さて、今回のMVPは誰かな!?」
「轟。仲間を巻き込まず、核にもダメージを与えず、そして私たちを一気に弱体化させた。そんで後始末もきちっとしてる。言うことなしだ」
「うん! 正解だ医刀少女」
「ええ!? でも万癒ちゃんだってすごかったよ! 自力で轟くんの氷から抜け出してるし、その後も私のこと救けにきてくれて、ヒーローみたいだったんだから!」
「……ヒーローみたいじゃだめなんだよ、葉隠。私らは今回
「あ……」
「その意味じゃ、一番よくねぇ動きしてたのは私だよ。役に入り込めなかった。医者であることを優先した。……今度から気をつけなきゃな」
「うん、誰かに言われずとも反省できて偉いぞ、医刀少女。けれど、君はヒーロー志望だ。その点で言えば君の行動は間違いなく正しかった。それもまた忘れないでくれ」
「……覚えておきます」
けれど、実際轟に立ち向かっていたとして、さすがに負けてただろうとは思う。個性無しのタイマンならまだ可能性はあるが、あの半冷半燃は厄介だ。ヒーローになるということは、そういった厄介な個性を持った敵とも対敵するということで、今のうちに対策を練らなければならないと万癒は思うのだった。