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あれから万癒たち作戦に参加したインターン組はナイトアイの葬式に参列した。
万癒はナイトアイの亡骸を自分が救えなかった最後のヒーローとして、目に焼き付けたのだった。
次は必ず遂行するために。そのための一歩を、もう踏み出そうとしていた。
「先生、お願いがあるんだ」
「? 何だ」
「――」
相澤は万癒のお願いに面食らうと、少し考えて校長に掛け合ってみると言ってくれた。
最高の医者にして、最高の
「んだこれ? なんかやけにデカくね?」
「布被せてあると気になるよなぁ……」
寮の共有スペースの一角に、やけに大きな荷物が届いていた。横長のそれは布が被せてあり、周りも興味津々だった。そこに万癒と相澤が連れ立って現れて、「届いていたんだな」とその正体が何なのか分かっているようだった。
「先生、これなんですか?」
「……見たが早い。医刀、布を」
「ええ」
万癒が何のためらいもなく布を外す。現れたのは……医療ドラマでよく見る手術台と、そちらに横たわるマネキンに精密なモニターだった。
「え!? 何々!? 手術すんの!?」
「まぁそうだ。本物とは多少勝手は違うだろうが、疑似体験ができる。そちらのリモコンでマネキンの状態を切り替えられるようになってる」
「ええっすっごーい!」
「悪いな、おまえとしては出張という形が望ましいだろうが……連合が関わった以上、これがうちの限界だ」
「いえ、十分すぎるくらいです。ありがとうございます」
どんな状態でもどんな絶望的な傷でも、完全完璧に処置できるように。必ず救えるように。そのために導き出した答えは……「死ぬほど腕を磨く」だった。不可能を可能に、奇跡は起こすものだから。
「万癒……」
「上鳴、もう大丈夫だ。私は……ヒーローを救けるヒーローに必ずなる」
「……うん!」
上鳴と万癒の会話に、あれれ、と賑やかし組がにやにやしだす。
これはもしかして、もしかすると、ひょっとする……!?
そんなことを小声で話していると、爆豪が押しのけるようにずんずん進み出て、リモコンを弄っていた。
「医刀」
「なんだ」
「これやってみろ。見てェ」
爆豪がポチポチと設定したのは心臓破裂だった。開始まであと1分を切っており、万癒は早速かよと思いつつ、承諾した。
「ああ、執刀しよう」
それから次々万癒は執刀することになる。面白がったみんなと、爆豪の好奇心と対抗心によってこんな組み合わせありかよ、といった感じの合併症だのなんだの、万癒は須らく処置してみせた。
そしてそれはタイムアタック式になり、万癒は大いに意欲を高めていたのだった。必ず救う。それこそ、心停止していても、きっと救ってみせる。
レディ・パルフェは……どんな状況下でも完全完璧に遂行するヒーローだから。
文化祭が迫っていた。クラスの出し物決めが時間内に終わらず、明日の朝までに決まらなければ公開座学になってしまうことになった。
万癒たちインターン組は補習があるため、話し合いには参加できず、決定に従うことにした。
「医刀、エリちゃんのことなんだが――」
「エリちゃん?」
「ああ、今あの子の引き取り先をどうするか、話し合いが進んでいてな。候補の一つとして……いや、おそらく最有力候補だ。
「……身寄りが意識不明の組長だけでしたね。まぁ、妥当でしょう」
「そこで医刀、おまえに頼みがある。エリちゃんの主治医になってくれないか」
万癒はまぁ、そうなるよなと思った。エリちゃんは強大すぎる個性を制御出来ていない。抹消の個性を持つ相澤と、医者である万癒が常駐する雄英が最も理にかなっていた。
ナイトアイが最後に救ったエリちゃん。その個性故に辛い仕打ちを受けてきたエリちゃん。そのエリちゃんの主治医になれるというのなら、断る理由などどこにもなかった。
「私でよければ喜んで。あの子の心も体も、きっちりケアしてみせます」
「(いい顔するようになったな……)よろしく頼むよ」
万癒の心は、確実にヒーローのそれに近づいていた。
更に向こうへ、プルスウルトラ。最高のヒーラーヒーローになるために、前へ前へと進んでいく。
「あ? バンドぉ?」
「あれ、万癒不満な感じ? ベース弾けんのに?」
「いやそうじゃなくてだな……まさかと思うが……おまえら……他科の奴らをおもてなししようみたいな心積もりでいるんじゃないだろうな……?」
「うぐっ、それは――」
「やっぱりか!! ざけんな! んなの反感買うだけに決まってんだろうが!!」
バンドに決まったと教えられるや否や、万癒はぎゃんと吠えた。
忘れたとは言わせない、なにせ、万癒は――。
「忘れたか!? 私が八百万にぶち当たったときのこと!!」
「……ハッ」
「やべ、昔過ぎて忘れてた。そういえばそんなこともあったな!?」
昔というほど昔でもないが、色々濃い日々を送りすぎて忘れていた者も多かった。そういえば医刀、ヤオモモにぶち当たったときあったね〜、と記憶を手繰り寄せた。
「蟠り抱えてる相手に、おもてなしだなんだされたところで神経逆撫でされるだけだわ!!」
「さ、逆撫で……!!」
「八百万も今更ダメージ受けてんな! おめぇは私がブチのめす指針なんだよぉ……!」
「ブチのめ……!!」
「八百万はすごいから、超えていきたいってことだな?」
「ちがっ、んんっっ、そういうことだ……!!」
轟のいらん通訳がまたしても入ったが、反射的に否定したのを訂正して、認めた。これにはさすがに驚き「本当に医刀変わったよね」誰ともなく声に出すのだった。
「医刀さん……!! 私医刀さんのご期待に応えられるよう、一層励んで参りますわ!」
「……おう。それをブチのめしてやるから覚悟しろ……!!」
「はいっ」
「はいじゃねぇ! 望むところとかにしろや!!」
「の、望むところですわ……!!」
「それでよし!!」
相変わらずすごいテンションではあるけれど。
けれど、万癒のダメ出しはすでに爆豪がしてくれていたようで、おもてなしの感覚からA組全員音で殺る方向にシフトされており、これには万癒もそれならばと納得した。やはり爆豪はよく周りを見ている。
爆豪の方に視線をやると、相変わらずツンとした様子でプイっとそっぽを向いていた。本当に素直じゃないヤツ。
「医刀、ベースやってくれる?」
「いいぞ」
「やった! じゃああとギター!! 二本欲しい!」
「やりてー!! 楽器弾けるとかカッケー!!」
「やらせろ!!」
「俺弦切りそう」
キーボードは幼少の頃から嗜んでいたという八百万、ボーカルは耳郎、骨子であるドラムは爆豪と早々に決まり、万癒もあっさりとベースに任命された。そこでギターに名乗り出たのは初心者である上鳴と峰田だった。
「やりてェじゃねンだよ。殺る気あんのか」
「言っとくが……初心者で文化祭までに弾けるようになるのは大変だぞ」
「あるある超ある! やる!! ギターこそバンドの華だろィ!!」
確かにやる気だけはあるようだった。ギターなら万癒も教えられるだろうと、いざとなればいつかの予習地獄のように詰め込んでやろうと心に決めた。
峰田はキャラデザ的にもまず手が届かなかった。やる気以前の問題だった。峰田が手放したギターを常闇が拾い、切ないメロディーを奏でた。聞けばFコードで一度手放したらしい。峰田の分まで爪弾くと決めた常闇なら安心して任せられるだろう。
「つか、轟は演出隊なのか。もったいねぇな」
「? 何がだ?」
「おまえせっかくその顔に生まれたんだぞ? 前に出て女子供のハート撃ち抜いてこいや」
「!? 心臓を……撃ち抜く……!?」
「ハート違いなんだよな」
こりゃダメだと万癒は諦めた。轟にそのような芸当は狙って出来そうにない。
「演出隊で頑張れ」肩をポンと叩いて、部屋に戻ることにした。深夜一時にまで及んだ役割決めは、どうにかこうにか終わるのだった。