万癒先生

11月下旬、かねてより進んでいた話が実を結んだ。
エリちゃんを雄英で預かることができたのだ。


「エリちゃん、おはよう。具合はどうかな?」
「万癒先生、おはようございます。今日は……とっても元気です」
「それはよかった。今日は折り紙持ってきたんだ。終わったら一緒に遊ぼう」
「折り紙……ワクワクさん」
「ワクワクさんだね」

二人で笑いあって、日課となったエリちゃんの診察に入る。
エリちゃんの個性≠フ放出口となっている頭の角が僅かながらに伸び出していた。今日もちょっとだけ伸びているのを確認すると、他に異常がないことを判断し、折り紙をすることにした。


「折り紙の本も持ってきたんだ。好きなのを選んでいいよ」
「好きなの……あ、これ……」
「? うさぎ? それがいいの?」
「うん……デクさんみたい」
「デク? ……ああ、そういえば……そう、だね」

言われて初めて、緑谷のヒーローコスチュームを振り返った。オールマイトをリスペクトしている緑谷は、オールマイトの触覚をコスチュームに取り入れていて、そういえばそれがウサギの耳に見えないこともないことに気付いた。子どもの着眼点は素晴らしいものだ。


「じゃあ、折り紙は緑にしようか。デクウサギ、作ってみよう」
「うんっ」

そうして二人で作ることになったのだが、これが良い感じに噛み合っていた。


「えーっと、次は山折り……こう、だな」
「こう?」
「そう。エリちゃん上手だよ」
「そうかな……」
「うん。こんなに綺麗にぴっちり紙を折るのは意外と難しいんだ。エリちゃんは器用だね」
「きよう……?」
「とっても丁寧で、上手にできるってこと。エリちゃんは器用だ」
「……うれしいな」

表情を綻ばせるエリちゃんに本当によく笑うようになったなと万癒も嬉しくなった。
簡単に傷が癒えるわけではないけれど、せめてこれからは楽しい思い出が山ほどできればいいと願っていた。







そうやってエリちゃんを褒めながら折って、形が完成すると……次は顔を書こうとカラフルペンを出した。
手本を見せた方が良いだろうかと思ったが、エリちゃんは絵を描くといったことは好きなようで、手本など必要もなく実に可愛いデクウサギを描いていた。


「……いや、天才か?」
「え……?」

思わずマジトーンで呟いてしまった。上手すぎる。緑谷がモデルと分かっているのに、腹が立つどころかカワイイと思ってしまうくらいには素晴らしい出来だった。


「エリちゃんは……芸術の才能があるな」
「げいじゅつ……?」
「絵を描くのがとっても上手ってことだよ。私より確実に上手だ」
「万癒先生より……?」
「間違いない。いやぁ本当に上手だ……すごく可愛い」
「カワイイ……デクさん……かっこいいよ?」
「なんだって」

エリちゃんの曇りのない瞳に衝撃を受ける。緑谷がかっこいいとは……。万癒の中で緑谷といえば、クソナードの鉄砲玉である。かっこいいかと聞かれるとなわけ。と鼻で笑ってしまいそうだ。
けれどエリちゃんにとっては自分を救けてくれたヒーローなのだ。通形と並んでかっこいいフィルターがかかっていても不思議ではないと、万癒は気を取り直すのだった。


「あーうん、かっこいいところも……ある、かもな?」
「うん。それに……デクさんの手は……やさしい」
「……そっか」

轟戦で歪んでしまった緑谷の手。それを優しいと言って、撫でられたのだろう自分の頭に手を置くエリちゃんがとても微笑ましかった。







プッシ―キャッツから連絡があり、寮に来るとのことだった。
そうして出迎えると、お馴染みの挨拶と決めポーズをで登場した。


「洸汰くん!! 久し振り!! 手紙! ありがとうね! 宝物だよ」
「別に……うん」
「緑谷くん見てよ」
「え?」
「やっやめろよ」

マンダレイが指さした先には脱いだ靴が揃えて置いてあった。洸汰くんは焦った様子で隠そうと手を広げるが、それでも身長差があるため見えてしまった。


「自分で選んだんだよ。「絶対赤だ」って」
「べっ……違っ……」
「お揃いだ!」

洸汰くんの恥ずかしそうな様子に、それを見ていた万癒は、緑谷はキッズキラーか何かなんだろうかと一瞬思った。洸汰くんの手紙を渡したのは何を隠そう万癒であるし、エリちゃんといい……二人のヒーローは緑谷なんだろうなと認めざるを得ない。ついでに轟も。轟も人間初心者感あるなと思い、あれも子どもみたいなもんだろうと勝手に納得した。
――人間初心者〜人の心を理解する編〜にいた自分のことは棚上げである。意外と自分じゃ気づかないものだ――


「医刀さん、あの時はありがとうね。私の頭、すごかったんだって?」
「ああ……別に大したことはしてないですよ。当然のことをしただけなのでお気になさらず。ピクシーボブがご無事で何よりです」
「……えっ何このときめき……! 男だったら絶対今ので惚れてた……!!」
「(……マジか)」

お姉様の次はこれかぁと万癒はもう菩薩のような顔で悟りを開いた。
その後、ようやく本題に入る。今回の訪問は活動を見合わせていたプッシ―キャッツの復帰の報告だった。依然としてラグドールの個性は戻っていないが、全く活動できていなかったのに支持率が突出していたそうで、待ってくれる人たちがいるのなら立ち止まってはいられないとのことだった。
ビルボードチャート、下半期の結果がすぐそこに迫っていた。







『支持率だけであればNO.3の座でした……!』
『数字に頓着はない。結果として多くの支持を頂いた事は感謝しているが、名声の為に活動しているのではない。安寧をもたらす事が本質だと――』
「相変わらずだなぁ……」

部屋でビルボードチャートを見ていると、エッジショットの相変わらずのコメントに吹き出してしまった。そんなことを長々と話していると、いつか誰かに噛みつかれるぞと思っていると、本当にホークスが切りかかっていて、ますます笑った。

でも、いつかエッジショットに自分の答えを聞いてもらおうと思っている。
これが私の大正解だと、胸を張って……いつかエッジショットに伝えたい。

ほんの少しだけ長くなった後ろ髪を攫う。まだまだ髪紐なんて結べやしないけど。いつかそれが似合うレディ・パルフェヒーローになりたいとは……ちょっとだけ思ってる。


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