私が認めた、
いよいよ冷え込んできた。多くの者がコスチュームを一新している。その中には万癒も含まれていた。
「なんか万癒……めっちゃヒーローっぽくね!?」
「ヒーロー志望だぞ」
「そうじゃなくて! 前はめっちゃ医者感強かったじゃん! でもなんか今のはすげぇヒーローって感じ!!」
「だから……ヒーローなんだよ」
「え」
「分かれ、バカミナリ」
ツンと、した万癒を見るのは初めてではないけれど、今回のそれは上鳴にも分かるくらい照れ隠しだった。
その姿に上鳴はインターンの時に「私も……ヒーローになれるか……?」と迷子のような顔で問うてきた万癒を思い出す。自分があの時出したアンサーを、万癒はしっかり受け止めてくれていたのだと分かると、飛び上がりたいほどに嬉しくなって本当に飛び上がってしまった。
「万癒〜!!」
「うわっ! 何だいきなり!! 抱き着いて来ようとすんな!!」
「万癒〜!!」
「聞いてねぇな!!? 聞けバカ!! 距離感バグか!!」
今にも抱き着かんとばかりにぐいぐい来る上鳴を押しのける万癒だったが、周囲の反応としては「アレどう思う?」「ん〜、上鳴くんの粘り勝ちに一票」「そもそも医刀が気づいていないに一票」「伏兵現るで掻っ攫われるに一票」と大変好き勝手言われていたのだった。
その後、B組や相澤らも現れ、今回の授業がA組とB組の対抗戦且つ、普通科にしてヒーロー科への編入を希望している心操を交えた演習だと発覚する。
4人〜5人のチームに分かれ、先に4人牢にぶち込んだ方が勝ち。状況設定は敵グループを包囲し、確保に動くヒーローで、お互いがお互いを敵と認識して動くものだった。
万癒が入ったチームは轟、飯田、障子に尾白がいる第三試合であった。
「上鳴」
「お? 何? 応援してくれる感じ!?」
「応援っつーか……おめぇは楽観的すぎるところがある」
「うぇ!? 何いきなりダメ出し!?」
「最後まで聞け。おめぇのそれは長所でもあるが、短所でもあるんだよ。最初からちゃんと気を引き締めろ。誰も欠けることなく勝てるように気合入れろ」
「うぇ、うぇい」
「じゃあさっさと勝ってこい。負けたら承知しねぇ」
「イ、イエッサー!」
第一試合は心操も入れた上鳴、蛙吹、切島、口田だった。常に冷静で頭のキレる蛙吹がいるなら作戦は問題ないとして、万癒は上鳴のムラッ気が気がかりであった。
実力はあるのだが、仲間のピンチにこそ光るというか……ピンチにならないと頑張れないというか……。とにかく不安要素があった。ただでさえ狙われやすい個性持ちである。しっかりしろよとエールを送りはしたが……やはりイマイチ信用がなかった。
「ほら言わんこっちゃない……! おめぇはいつもそうだ! 仲間がピンチにならねぇと本領発揮できないヒーローがいてたまるかよぉおお!!」
「くくく苦しい! 絞まってる! 絞まってるよ万癒さん……!!」
「ちゃんとやれっつっただろうがよおおおお!!」
「すんませんしたああああ!!」
胸倉を掴み上げてガクガク揺さぶる万癒に飯田が「医刀くん落ち着くんだ! 暴力はよくない!」と無理やり引きはがす。グルルと唸り声を上げそうな万癒に上鳴は平謝りをし、障子が「俺たちも作戦を煮詰めよう」と無理やり話題を変え、そのまま万癒をチームに連行するのだった。
「医刀、大丈夫か。カルシウムが足りてないんじゃ……」
「なんでだ!」
「イライラしてんだろ? そういうのにはカルシウムが――」
「別に不足してねぇよ!!」
「そうなのか。じゃあ悩みが――」
「それもねぇ!!」
「轟……触れない方がいいこともあるよ」
「そうなのか。わかった」
尾白の優しいアドバイスが効いた。けれど作戦会議の時間も少ない。ちゃんとしようと万癒も頭を切り替え、ブレーンらしく立案する。
「いいか。軸は轟……に見せかけて私だ!」
「俺に見せかけて……おまえ」
「そう! そんで開幕おまえは炎をぶっぱしろ。いいか、炎、左だぞ。左を使え」
「いや分かるが……なんでそんな念押すんだ?」
「おまえ……多分無自覚だろうが……右を使う癖がついてんだよ。ぼけっとしてたらぜってぇ間違うね」
「……そうなのか?」
不思議そうに問うてくる轟に、飯田たちもそういえばと今までの演習を振り返る。あまり意識していなかったが、確かに炎より氷の方が使用頻度が高いと合点がいった。
「やっぱ医刀って繊細なんだな」
「あ!?」
「……よく気が付くということだ。周りをよく見ているおまえの立案だ。疑う余地がない」
「……そうかよ。じゃあ続きだが……まず私はおまえらにマスクを配る。飯田、障子のも悪いが……更に上にするなり外すなりで私のを使ってくれ」
「マスク? 何をするんだい?」
「……眠らせる。これでうまく行けば一瞬で終わるが……まぁ、そう上手くはいかないだろうな」
対戦相手チームの個性を思い出し、どこか苦い顔する。相手は推薦枠の骨抜、切島と渡り合えるタフネスの鉄哲、小柄な身体に対し、意外とパワフルな角取、全身ドリルの回原だった。
その後も先を読んだ万癒のオペレーション説明は続き、誰も異論なく作戦は決まるのだった。
「八百万……」
第二試合は八百万率いる常闇、青山、葉隠だった。
なにやら相手チームのリーダーである拳藤は八百万を強く意識していたが、そんなものはどうでもいい。ブレーンである八百万を分断し、拳藤の得意である接近戦に持ち込まれた八百万は……アイテムをみんなに託す形で敗北、4−0という結果を残し、チームごと敗退した。
「耳郎」
「なに?」
「八百万、無理やりにでも起こして私の試合は見せろ」
「え!?」
「
「ちょっと!? またあんたバチってんの!?」
「頼んだぞ」
白衣を翻してスタスタ自分の試合に行ってしまった万癒に耳郎は頭を抱える。
八百万に万癒がぶち当たったときはハラハラしたものだが、期末からは文化祭に至るまで、何だかんだいい関係築けてるように見えていたのに、結局これだった。敵視とまではいかないが、それに近いものを感じてどうしよう、と思っていると、轟がひょこっと顔を出した。
「医刀、ショックだったんじゃねぇかな」
「え?」
「八百万のことはほんとにすげぇって思ってるやつだから」
「……まぁ、それは……そうだね」
「きっとあいつなりに……八百万にこういうやり方もあるって知らせてぇんじゃねぇかな……」
「……」
「だってあいつら、ライバルってやつだろ」
「……うん」
轟に言われて、少し考えるが……まぁ、そうかもね、と頷いた。
ライバル。確かにそうかもしれない。万癒の八百万へのライバル意識は皆の知るところだし、八百万はそんな万癒を慕っている。万癒を見習い、自分も頑張らねばと精進する八百万。お互いを高め合う姿はライバルというにはちょっとずれているかもしれないけれど、遠くはなかった。
「轟、なんか……ほんと二人のことになると、よくわかってるよね」
「……期末、一緒だったからな」
期末を思い出しているのか、轟の目線はどこか遠くを向いていた。轟だけが知っている、八百万と万癒の腹の内。万癒の挫折も、八百万の憧れも。きっとこの中の誰より、万癒が八百万をすごいと思っていることを知っていた。
だって八百万が創ったものを、オペレーションを伝える八百万を見る万癒の目は……すごいって気持ちで溢れていたから。轟が一番、誰より二人の関係を理解していた。
「轟! さっさと来い! 始まっちまう!!」
「お、わりぃ。今行くな」
急いで万癒たちのもとに駆け寄る。第三試合が始まろうとしていた。