とっておきのオペレーション
第三セットが始まった。万癒はちゃっちゃと保護マスクを人数分創造し、着けるように指示をする。
第二試合のステージ被害がすごかったので、被害を最小限に抑えるようお達しがあった。
「医刀、炎を使うのはいいが……拓けてねぇとあんま意味ねぇぞ」
「平気だ。すぐに拓ける」
確信をもってそういう万癒に怪訝な顔をすると、言っているそばから建物が崩壊した。
鉄哲がチームの個性に、索敵や搦手ができるタイプがいないため、それならば真っ向勝負だと更地にしてしまったのだ。
「鉄哲だもんなぁ。あいつならそうするよ。手間が省けて何よりだ」
「これもおまえの想定内か……索敵完了。あちらは想定外のようだ。一塊になっている」
「だろうな。さぁ、轟。これで何の問題もねぇ……ぶっ放せ!!」
「ああ!!」
更地と化した鉄哲らのいる方へ向かい、轟が炎をぶっぱする。
万癒は防火対策をし、先に乗り込んでいった。
一方、B組サイドでは轟の炎を柔化で沈めて消化させようと骨抜がそれはもう頑張っていた。
「非情な火攻め……正直この時点で打つ手なしに近いけど……まぁ、柔軟に対応するよね」
「頑張れ柔造ー!!」
「ハッハー! 俺に火ぁ効かねェ……!! 先行ってっぞ……!!」
「またおまえはすぐそうやって突っ込む!」
B組の声が近くなって万癒はクスリと笑う。元気そうで何よりだ。元気があればあるほどいい。万癒のクスリはその方がよく効くから。
「ん? なんか……意識が……遠く……」
「ポニー!? っ、なんだ……!?」
「!! 回原旋回!! 医刀だ!!」
「!? なんだって!?」
さすが骨抜、察しが良いなと濃度を濃くする。気化した万癒特製の麻酔。角取はこの中で一番動物に近い。鼻が利いたのだろう、早々にダウンしてくれた。
回原が全身を旋回して霧払いを行うかのように万癒の麻酔を払おうとする。でももういい、準備は出来たから。
冬の匂いがする。――轟の氷が来る。
「ここで氷!?(せっかくの火を自分で消すのか!?)」
骨抜の判断が遅れた。非情な火攻めに眠りへと誘う麻酔。その後に来た氷の意味が分からず、混乱した。
一瞬だった。一瞬で目の前に迫って来たそれが……何なのか、骨抜は分からなかった。
「レシプロバースト!」
「っつぁあ!!」
「柔造ーーーー!!」
猛スピードで迫って来たのは飯田で、エンジンのチューニングを行い続けた飯田のレシプロバーストは、10分に時間が延びていた。
速すぎる飯田にがっちり掴まれ、柔化することも適わず、骨抜はそのまま激カワ据え置きプリズンへと放り込まれた。
「(何だこれ、瞬殺にもほどあんだろ! 開始早々柔造とポニーがやられた!)どこだパルフェっ!」
「ここだよ」
「!? っ、」
「残念、弾かれたか。やっぱすごいなその個性。私の天敵だ」
「……よく言うよ」
たらりと回原の頬に汗が流れ落ちた。どこだと言って素直に姿を現した万癒に、何か裏があるんじゃないかと勘繰る。間違いなくブレーンは万癒だと確信していた。
ならば軸は万癒なのだろうか、だがこのチームには総合能力に秀でた轟がいる。要がどちらなのかも判断付かず、それでも万癒を潰して戦況を覆さんと回原は果敢に挑んだ。
「……医刀の言った通りだ。おまえ、氷も炎も効いてねぇんだな」
「個性伸ばしの一環よ!! てめェ竈で暮らしたことあるか!? 半冷半燃、俺には効かねェ。これが限界を超えて手に入れた俺の最高峰!!」
轟は氷を放った後、すぐに鉄哲と交戦になった。
万癒のオペレーション通りに、滞りなく進む。
「いいか、私の天敵は回原だが……おまえらが一番厄介なのは鉄哲だ。だがヤツはとにかく突撃あるのみ、わかりやすく強いヤツと当たりに来る。つまり轟、おまえが狙われる」
「俺」
「そう、俺。そんで私は十中八九、来るのが遅れる。だからその間おまえが頑張って相手しろ。氷も炎も効かねェけどな」
「えっ、それ大丈夫なの!?」
「……スティールって個性はな、金属化するって個性だ。だから限界はある。金属疲労って、知ってるか?」
イタズラを思いついたような万癒の顔が脳裏に浮かぶ。
――あいつは……人に物を教える時、自分の言わんとしていることを理解された時、すげぇ楽しそうな顔をするんだ。
八百万に見せたいものがあるんだと、轟は理解している。万癒がこっそり教えてくれた秘密も、轟は知っている。
氷が、炎が効かないからなんだ。轟の目は死んでいない。火力を上げる。己を超えていく。
あいつの
あの日、あの時、あの試験で、自分たちは心の内を吐き出した仲間だから。悩みも、勇気も、全部一緒に。更に、向こうへ――。
「ってやっぱ馬鹿正直に相手してくんねぇか……!!」
「医刀はやらせない……!」
万癒が姿を現し、いよいよタイマンかと思われたがそんなことはなかった。
尾白と障子がすぐに現れ、障子は眠っている角取を激カワ据え置きプリズンへ運ぶついでに、飯田への状況報告をしに行ってもらった。あの状態の飯田に正確に情報を伝えられるのは、複製できる障子だけだった。
尾白は回原を相手取っていた。尾白は普通に押され気味だったが、尾白だって今までの尾白じゃないのだ。ちょっと尾白はなぜか胸が痛んだ。
「尾空旋舞!!」
「なんのぉ!! っ!!?」
尾白の必殺技が炸裂しようとしたとき、ドリルで弾こうとして空を切った。視界がぐらついている。方向感覚が保てない。この中で、こんなことができる奴は――。
「パルフェ……!!」
「ご名答。やっと撃ち込めた。ほんと、天敵だ」
「うそ……つけ……くそっ」
押され気味だったとはいえ、尾白もかなりの武闘家である。その猛攻の中で、万癒を警戒して旋回しすぎた。絶え間ない全身の旋回。それは疲労をもたらし、綻びが生まれた。
その綻びを見極め、撃ち抜いたそれは回原を戦闘不能に追い込んだのだった。
「よくやった尾白。おまえが普通に強くてよかった」
「その普通っている……?」
「おまえのアイデンティティだろ」
「そんなはっきり言わなくても……てか普通がアイデンティティってなんだよ……」
残るは鉄哲だけ。途中で障子に現時点での情報を受け取った飯田が帰ってきたところで、回原を尾白に任せ、万癒は飯田に自分を運ぶように指示した。
「やっぱ遅くなっちまった。轟のことだ、やられてはねぇだろうが……脱水してっかもな。早く行かねぇと」
「任せてくれ。そのためのインゲニウムだ!!」
「ああ、任せた」
レシプロバーストで轟のもとへ駆けていく。とっておきのオペレーションを完遂するために。
「……轟、おまえ……」
「医刀……」
着いたとき、そこで見た光景は万癒の想定外だった。
「更に向こうへ……だろ……?」
「おまえ……っ」
それだけ言うと轟はふらっと倒れようとして、万癒が慌てて駆け寄り抱きとめた。身体が熱い、熱が籠っている。
万癒のオペレーションはここで鉄哲の鉄を錆びさせる薬剤を放って、金属疲労を強制的に行わせるというものだった。そうしたら後はもう簡単だ。
でも、でも……轟が、轟は一人でやってしまった。やり遂げたのだ。
「急にあいつ……力入んなくなって……寝そうになってたんだ」
「……あいつ私の麻酔にも突っ込んでいってたからな……吸ってたんだろ」
「ああ、そんで……赫灼撃って……ダウンした」
「無茶しやがる……」
鉄哲の方を見ても、ダメージはあるがヤツは丈夫だ。今すぐ緊急な処置が必要なわけではないと判断し、飯田にそちらは任せて轟を見る。案の定脱水していた。
「
「っ、馬鹿言え! 最初から私のオペレーションはとっておきだ!!」
「そうか……そうだな……八百万も……きっとすげぇ感動してるぞ」
「……おめぇがボロボロすぎてこれじゃかっこつかねぇわ」
「……わりぃ」
「謝んな。怒ってねぇ……」
「……そうか」
轟の処置に当たる。飯田が鉄哲を激カワ据え置きプリズンに入れたらもう終わりだ。4−0。完全勝利だった。当初のオペレーションとは少しだけ変わった形で。文句なしの完全勝利。
万癒は少し考えて……轟の頭を撫でた。
「よくやった。頑張ったな」
「! ……おまえ、それ」
轟の目が大きく見開かれる。轟と万癒だけの秘密の話。万癒の宝物。
優しい顔、無邪気な顔、少女の万癒の顔。それにまた轟は不整脈を感じた。
「……不整脈が……やべぇ」
「間違いなく脱水だな」
「……そうか」
そして4−0、万癒たちの勝利を知らせるアナウンスが鳴り響く。
完全勝利、とっておきのオペレーションは大成功だった。