ライバル

「轟以外ほぼ無傷だな。相手の軸を見極め、早々に潰し、相手の志気をそぎ落とした。緻密に練られた良い策だった。適材適所、先を読むのはもちろん何より連携が上手かった。言うことなしだ」

相澤の太鼓判に万癒が得意げな顔をする。何せとっておきのオペレーションである。
機動力に優れた飯田、武闘派の尾白、索敵能力の高い障子、総合戦闘能力が突出している轟、そして弱体化に秀でた万癒。各々長所を遺憾なく発揮したのだ。言うことなしだった。


「医刀さん……」
「! 八百万……ちゃんと見たんだろうな」
「ええ、もちろんですわ」

まだふらついているが、八百万はしっかり立って万癒を見つめていた。


「しかと、この目で。とっておきのオペレーション・・・・・・・・・・・・・でしたわ!」

キラキラと八百万の目が輝いている。万癒への憧憬が込められた目。
八百万はいつだって、その目で万癒を見つめている。


「……当然だっつーの」

フイッとそっぽを向く。
その二人の間に割って入るのは、やはり轟だった。


「よかったな。八百万にすごいって思ってほしかったんだろ?」
「あ?」
「まぁ、私いつも医刀さんのことは尊敬しておりますわ」
「もっと思ってほしかったんだと思うぞ」
「あ゛?」
「もっとすごいと思いましたわ! だって本当にとっておきのオペレーションですもの!」
「いやちょっと待てや!!」

またしても好き勝手に通訳され、万癒がキレた。何だそのすごいと思ってほしかったって、子どもか。ツッコミどころしかなかった。


「私はなぁ!? 八百万があっさりタイマンに持ち込まれてさらっと負けてんのに腹立ったんだよぉ! おめぇなんのための万能個性だ! もっと妨害できるもんあんだろうが!!」
「はっ、はいっ!」
「おめぇはブレーンだろ! じゃあ託すなんてことせず生き残ってサポートし続けろや!! おめぇは見通しがいつも甘ぇ!」
「は、はい……」

万癒に痛いところをダメ出しされ、しゅん、と落ち込む八百万に轟がまたしても通訳をしようと口を挟んだ。


「八百万、今のは「おまえは窮地からの組み立てこそ得意分野だろ」って意味だぞ」
「え……?」
「……んんんっ、それはそう!!」

大変不服そうな顔をして万癒もそれは肯定する。轟はいらん通訳しかしないが、たまにファインプレーを叩き出すのだ。


「医刀さん……」
「今回ので分かったろ。ブレーンが倒れちゃイレギュラーに立て直しが出来ねぇんだ。おまえは何をおいても、生き残ることを考えろ。いつも言ってんぞ、おめぇはやることなすこと甘ぇんだって」
「……ええ」
「おめぇの創造は……あらゆる窮地を脱却しうる個性だ。それを持っている人間としての自覚、ちゃんと持てよ。万物ヒーロー、クリエティ」

万癒の真剣な瞳が八百万を真っ直ぐ見ていた。そこには期末試験と同じ「おまえは出来るヤツだろ」という確かな信頼があった。
万癒は出来ないことを言う人ではない。それをもう分かっている。


「ええ、必ずそのように」

――医刀さん。やっぱり私は……あなたより自分が優れているなどと思ったことは一瞬たりともありません。私にとって医刀さんは私のずっと先を行っている方。どう在るべきかを体現しているお方。けれど、そんなあなたがこんな私をライバルだと思ってくださっているのなら……そのご期待にこの八百万百、必ずや応えてみせましょう。いつか、私も……あなたのライバルだと胸を張れるように。







「で、おまえはなんかすげぇ顔してんな? 上鳴」
「万癒……」

八百万と話し終わったら、上鳴がすごく不細工な顔をしていた。私が試合している間に何があったんだよ、と万癒は不思議であった。


「ねぇ万癒……円場とどういう関係なん……?」
「あ? 円場ぁ? 特に接点ねぇぞ」
「うそ! あいつ筋金入りの万癒さんファンだった!! 「姐さん」って言ってたもん!」
「はぁ? 意味わかんねぇ……」

なんと万癒の試合中、上鳴はともかくとして、円場も中々に黄色い悲鳴を上げていたらしい。感極まったのか何なのか、上鳴が「万癒さーん!」と声を上げた時、円場も「姐さーん!」と歓声を上げたらしい。まったくもって意味が分からない。


「円場……円場ねぇ……林間合宿のときに轟が保護してたから、ちょっと診たくらいだぞ……」
「うそだね! もっとなんかあるっしょなんかすごいかっこいいことした感じのやつ!」
「ねぇよ……」
「うそだー!!」
「少なくとも思い当たることはねぇ!」

こういうときの上鳴はしつこくてうざい。これ以上は知らねぇと無視すると上鳴も不服そうにしながらもこれ以上の情報はでないと諦めた。
真相としては体育祭でしっかり救けていた。轟が不安定な状態で凍らせたロボ・インフェルノに、下敷きにされようとしたところを引っ張って救けた上に、それから気にした風もなく下敷きになった生徒のもとへ颯爽と駆けつけたのが「かっこいい……」となっていたのだった。だがそんなことはいちいち覚えていなかった。


「医刀」
「爆豪、どうした?」
「俺の方が早ェ」
「お」

たった一言それだけ言って爆豪は第四セットに挑んでいった。そしてその宣言通り、万癒たちより早い5分というタイムで4−0で勝ってみせたのだ。
爆豪を軸に動いたそれは、爆豪のワンマンに見えてその実、しっかりとコンビネーションが取れていた。爆豪もみんなを信頼しているのだ。みんなが危ない時は爆豪が救け、爆豪が危ない時はみんなが救けた。実にいい試合だった。


「ほんと……すごいよな、あいつ」

――どうしたらいいのか、ちゃんと分かってんだ。
誰も傷つけず、失わず、「勝って救ける」を体現している。そして……耳郎を救った「救けて勝つ」も。全部糧にして成長している。
見習わねぇとな、と万癒は眩しいものを見るかのように爆豪を見ていた。


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