秘密の個性

結局対抗戦はA組の勝利で終わった。だが、第五試合で緑谷の個性が暴走を見せた。黒い鞭のようなものが発動していて、あんなものはオールマイトのときには現れなかった。
もしかしたら、緑谷がオールマイトから継いだ個性というのは……ただの超パワーではないのかもしれない。ならば、自分も医者として踏み込むときに来たのかもしれないと万癒は考えた。


「オールマイト先生」
「医刀少女……そうだね、君にも秘密を打ち明けよう。お医者さんの視点も欲しいところだ」

そうして明かされた秘密。オールマイトも元は無個性で、個性を受け継いだということ。ワン・フォー・オールと冠されたその個性は、聖火のごとく代々繋がれてきた希望の力で、元々の継承者は……神野に現れたあの巨悪、オール・フォー・ワンの実の弟だという。概要としては「力をストックし、別の人間に譲渡することで更に力をストックする」というもの。つまり、オールマイトが持っていたときより、今のワン・フォー・オールは成長しているということだった。







「そりゃ、ぶっ壊れるわけだよなぁ……オールマイト先生のときより強くなってんだもんよ。そんなもん、おめぇみてぇなクソナードが自由自在に操れるワケ」
「それな」
「うっ……その通りだけど胸が痛い」

思わず鼻で笑った万癒に爆豪が同意し、緑谷が悲しみに胸を抑えた。
万癒も秘密を共有したことで、緑谷が新しく発現した個性を診ようとしたのだが、自分の意思で出すことができないようだった。


「オールマイトは知ってたんか、今回の事。黒い個性ん事」
「私も初めて目にした。スキンヘッドの継承者――お師匠の前の継承者は黒髪の青年と聞いている。歴代継承者の個性が備わっていた事、おそらくお師匠も知らなかったハズ」
「それ……オールマイト先生がべらぼうにワン・フォー・オールを強化したからでは?」
「え……!?」

驚くオールマイトと、どういうことだとこちらを見てくる爆豪たちに、万癒はこともなげに話し出す。


「推測の域はでないが……これは力をストックする個性≠ェ基になってんだろ。なら、この個性は代を追うごとに強化されていくってことだ。オールマイト先生は40年もの間ワン・フォー・オールにストックし続けてる。他の継承者は何年かしらねぇが……少なくとも、あの超パワーが世間で認知されてないってことは、派手な強化はされてなかったんじゃないか?」

言うだけ言って、お茶を飲む万癒を唖然とした顔でオールマイトと緑谷は見ていた。ついさっき概要を知ったはずなのにもう理解しているどころか、なるほどと思ってしまった。
爆豪もそうだろうな、と同意して続ける。


「現状てめーが初ってことには間違いねぇわけだゴミ。オイ、何かキッカケらしーキッカケあったんか」
「ううん、全く……ただ時は満ちたとだけ言ってた……何か外的な因果関係があるのかも……」
「オール・フォー・ワンが関係してんじゃねえのか? ワン・フォー・オール、元々あいつから派生して出来上がったんだろ? 複数個性の所持――なるほど、あいつとおんなじじゃねえか」
「まぁ、そう考えるのが妥当だな。兄弟ならなおさらだ」

その後緑谷の新しい力を出そうと爆豪が相手をしたのだが、一向に顕現しなかった。その日はこれ以上、ワン・フォー・オールについては収穫がなかった。








「B組来てたのか。随分にぎやかだな」
「あ、万癒おけーり! こっちこっち!」
「? なんだよ」
「万癒と話したいんだって!」

自分と話したいというのに誰だ、と顔をのぞかせると、そこには角取が大きな目をキラキラさせていた。


「おまえ、たしか角取……」
「Yes the game was great! It's so cool, it's my dream!」
「……Really. thank you」
「待ってなんつった!?」
「何でもいいだろ」

角取は帰国子女らしい。興奮して英語でしゃべりだしたが、万癒もアメリカに長いこといたため問題なかった。角取は試合すごかった、かっこよくて憧れたといった旨を話してくれた。
鼻が利いたために真っ先に脱落することになって、落ち込んでいないといいと思っていただけに万癒もほっとした。これを憧れにして目標にできるなら腐ることはないだろう。


「I want to talk to you more!(もっとお話したいデース!)」
「I do not care. yeah... what's your favorite thing?(かまわん。そうだな……おまえの好きなものは何だ?)」
「I like apples!」
「……りんごって言ったのだけわかったけど……発音良すぎてわっかんねぇ……!」
「姐さん……かっけぇ」

上鳴と一緒にいたのは円場と回原もだった。流暢な英語で和やかに会話する万癒に円場が目をキラキラさせた。両手を口に当てて呟くと、回原も話に加わった。


「彼女、飄々としてるよな……ミステリアスな感じだ」
「え、万癒が? いやぁ……ミステリアスっつーか、ツンギレって感じ?」
「誰がツンギレだって?」
「そりゃ万癒さんに決まって――あっ、万癒! これは……!」
「おまえ次の勉強会は覚悟しろよ。そろそろ試験だからな」
「うっ……! 嫌な事思い出させる……!!」

上鳴の背を無理やり背もたれにし、万癒は角取との会話に戻る。随分素直な性格のようで、可愛かった。








次の日、万癒は緑谷と通形と一緒に相澤に呼ばれた。エリちゃんの個性を物間にコピーしてもらい、使い方を覚えるためだった。
物間は大変情緒に不安があるので、こうしてエリちゃんと仲のいい緑谷と通形、主治医である万癒が何かあったときのためにすぐ処置できるよう呼ばれたのだった。
だがそう上手くはいかなかった。物間がコピーしても、エリちゃんの個性はスカだったのだ。溜めこむ系の個性を物間は使えないのだ。けれどそれが余計にエリちゃんに自分のせいで皆を困らせているという責任を感じさせてしまった。


「……ごめんなさい。私のせいで困らせちゃって。私の力……皆を困らせちゃう……こんな力無ければよかったなぁ……」
「エリちゃん……」

落ち込むエリちゃんにしゃがみ、背を優しく撫でる。子どもは本当に敏感だ。
緑谷もしゃがんでエリちゃんと向き合い、話し出す。


「困らせてばかりじゃないよ。忘れないで。僕を救けてくれた。使い方だと思うんだ。ホラ……例えば包丁だってさ、危ないけどよく切れるもの程おいしい料理がつくれるんだ。だから君の力は素晴らしい力だよ!」
「……そうだぞ、エリちゃん。ほら、ルミリオンを救けられるのも君の力だけだ。大好きな人を救けられるその力が……悪いもののはずがない」

エリちゃんは緑谷を見て、万癒を見て、最後に通形を見ると、覚悟を決めたように頷いた。


「私、やっぱりがんばる」

よく頑張っていると万癒は思う。「その意気だ」とエリちゃんを抱きしめた。


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