変なヤツ

「なぁ、医刀。飯とか行かね? 何好きなん?」
「……おまえ……たしか上鳴とかいったか」
「そそ。な、どう?」

戦闘訓練が終わって放課後になると、万癒に上鳴が話しかけてきた。
確か耳郎と組んで、八百万と当たっていた。アホ面になったのが印象的だったヤツ。


「人にものを尋ねる時は、まず自分からだろ」
「うっ……ごめんごめん。俺はハンバーガーが好き!」
「(ハンバーガー……か)……いいぞ。それなら一緒に行ってやる」
「え、マジ!? やった!」

まさかのOKに上鳴は驚きつつも喜んだ。さっさと鞄を担いで「早くしろ」という万癒を慌てて追う。
万癒は帰り際見えた、腕を痛めたままの緑谷に内心でため息を吐いた。

――あいつ、あんなんでヒーローになれんのか。

このクラスで誰よりもスタートが遅れているやつ。それが万癒の緑谷への認識だった。







マックに来たはいいものの、上鳴はあまり食の進んでいない万癒の様子に、あれこれチョイスしくったんじゃ、と冷や汗をかいていた。
てっきり万癒もハンバーガーが好きなのか、手軽に食べれるしちょっとくらいなら付き合ってもいいと思ってくれたのかと思っていたのだが、なんかそんな感じではなさそうだった。
じっとハンバーガーを無表情に見ながら小さく噛り付く姿は、ちょっとかなり気まずいものがあった。美味しいものを食べている表情ではない。


「医刀……もしかして無理してね?」
「何故」
「なぜって……その、あんま美味しそうじゃねぇなぁって……」
「……」

万癒からは肯定も否定も返ってこなかった。けれど上鳴は好きじゃないんだろうなと察した。
悪いことしたかな、と上鳴は内心で少し申し訳なさを感じていた。自分が女の子好きというのもあるが、万癒はとっつきがたい感じではあるものの、そこが逆に孤高で綺麗だなと思うものがあった。もちろん顔が整っているというのもあるけれど、万癒のそれは気高さを感じさせた。
自分たちと同い年なのに医者だし、今日の戦闘訓練だって迷わず葉隠を救けに行ったのを見た時、かっけぇなと思ったし、その後の講評でも冷静な分析と、自分の行動への反省、そのストイックな感じがなんだかいいな、と思ったのだ。
少しでも仲良くなりたくて誘ったご飯だったけれど、こんな顔をさせることになるとは思わなかった。


「えっとさ、医刀は本当は何が好きなん?」
「……あっさりしたもの」
「サラダ系?」
「野菜は好きだ」
「ほー。じゃあちょっと待ってて。すぐ戻ってくっから」
「? わかった」

万癒はあまりこういった場所に来たことはないようだった。何にするか選ぶのもめんどくさかったのか、上鳴が頼んだものに「じゃあ私もそれで」と注文しただけだった。それじゃ何があるかなんて把握していないはずである。

しばらくして上鳴が戻ってくると、その手にはサラダとヨーグルトがあった。


「はいお待たせ!」
「おまえ……わざわざこのために?」
「ろくにメニューみてなかったろ〜? マックってこういうのもあるんだぜ。知らなかったろ」
「……わざわざ悪かった。払う。これで足りるか」
「野口さんもいらないよ。いいって、俺が誘ったんだから。これくらいおごるし」
「…………もしかしなくても、私の方が稼いでると――」
「そりゃそうね!? お医者様だもん! でもそうじゃなくて、こういうときはかっこつけさせてもらっていいですか!?」
「……わかった」

今の結構スマートだった気がするんだけどなぁ、と内心で上鳴は泣いた。
でも上鳴は今ので大体を察した。多分万癒はずっと勉強とかに必死で遊んでこなかったんだと思う。クラスメイトたちにもどこか保護者のような目線で見ているところがあるし、そりゃ俺らがまだ子どもらしく遊んでる頃からずっと医療に従事してんだから、そうなるかとも思う。

でもサラダとヨーグルトを食べている万癒は、さっきみたいな無表情ではなかった。ちゃんと美味しいと万癒なりに感じているのが分かる。なんだかちょっと、こういうところは年相応なんだなと安心した。


「今日の戦闘訓練、すごかったよな。医刀かっこよかったよ」
「……講評でも言ったが、あれじゃ敵役失格だ。私がああ動いたせいで、ちゃんとした状況設定での訓練にならなくなった……轟と障子らヒーローチームにも、葉隠、尾白の同チームにも、悪いことをした」
「ス、ストイックすぎねぇ……!? いやでも、葉隠の状況考えるなら最善手だったと思うよ! オールマイトも言ってたけど、俺らヒーロー志望なんだし……十分、かっこいいと思う!」
「……能天気な奴め」
「ええっ、医刀手厳しっ」
「おまえは個性こそいいものを持っているが、使い勝手が悪そうだな。毎回アホになってりゃ世話ねぇぞ」
「うっ……返す言葉もございません」

アホ面になっている上鳴を思い出したのか、くすっと笑う万癒に笑うとこんな感じなんだなと上鳴はハンバーガー越しに盗み見た。じっと見てると怒られそうだし。


「そういえば医刀の個性ってなんなん? やけにデカいトランポリンとか、なんかで氷溶かしてたよな? 他にも緑谷とか診てるときに色々出してたけど……」
「私の個性は……手術オペレーション。頭に叩き込んだ術式を完全完璧に遂行する個性。そして、医療に必要だと私が判断したものを創造できる」
「すっげ! マジで医者向きじゃん!?」
「ああ、けど問題もある。創造するには何を∞救命に∞どう使う≠アれがイメージできなきゃなんねぇ。救命にまったく関係ないものは創れない上に、脂質を大量に消費するから、創造数には限りがある」
「な、なるほど……? え、まって!? じゃあ医刀が瘦せてんのってまさかそういう理由!?」
「…………まぁ」

万癒は身長こそ異形型を除く女子の平均身長を超えていたが、随分痩せ型であった。思わぬ理由に上鳴は衝撃を受ける。そういう理屈なら、子どもの頃から働いてる万癒の身体がこうなるわけである。
それに脂質というワードに、ハンバーガーなら一緒に来てもいいと言ってくれたわけも察してしまった。


「個性のために来てくれたんだな……」
「他になにがある」
「いや……ちょっとは俺と親交を深める気になってくれたのかと……」
「ねぇな」
「そんなバッサリ!!」

脈無しが過ぎた。思わず項垂れる上鳴だったが、万癒もサラダとヨーグルトを持ってきてくれたのもあり、少しだけ歩み寄る姿勢を見せてくれた。


「私は個性上、脂質を蓄えねぇとなんだが……困ったことに、脂質を蓄えにくい体質な上、脂質が多いものが苦手でな。それでも蓄えねぇと救えるもんも救えねぇから取り入れるんだけど……まぁ、結構苦行だよ」
「俺も……嫌いなもん毎日食わなきゃなら泣いてるよ。すげぇな医刀……」
「……だから、そういうのが好きなやつと食ったら……私も少しはそういう気分が味わえるんじゃないかと思ったんだよ。心理療法だ」
「うっ……めっちゃストイック……! 俺でよかったらいくらでも付き合うから……!!」
「いや、別にいい」
「ドライ!! そこは手伝わせて是非に!!」
「……気が向いたらな。ずっとハンバーガーだけ食べるのはごめんだ」
「待ってマックしか誘わない男にしないで!? 色々行こうよ!!」
「……それなら、まぁ……いい、か?」
「やったー!!」

一気にはしゃぎだす上鳴に、万癒は呆れた様子で「変なヤツ」と呟いた。
だがしかし、万癒は知らない。これを始まりに上鳴と絡む機会が爆発的に増えるなど……この時は夢にも思わなかった。

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