授けた術
爆豪と轟が解決した仮免事件を受け、取材が三本も来たのだが……爆豪の口が大変悪く、三本とも爆豪は見切れ、轟のコメントだけが採用されて編集されていた。ある意味守ってくれたともいう。
そしてメディアの露出が徐々に増えてきたこともあり、特別講師であるMt.レディを招いてメディア演習を行うことになるのだった。
「あなたが噂の万癒ちゃん≠ヒ?」
「万癒ちゃん=c…?」
「エッジショットからあなたの話はよく聞いてるわ。やるわね、あなた!」
「は……?」
何を言われているのかよくわからなかった。エッジショットが自分の話をよくしていると言われても、職場体験と神野で会ったきりである。ヒーローニュースだなんだで情報を得ることができるエッジショットと、死穢八斎會の作戦でデビューした自分とは情報量に差がありすぎる。盛られてんなと判断した。
「そう照れないで。あなた、エッジショットのマイ・フェア・レディなんだから♡」
「(ぞわっ)気色悪いことを言わないでもらえますか」
「あらやだマジの顔だわ。ごめんなさいね」
マイ・フェア・レディ。私の美しい人。断じて自分たちはそんな関係ではない。Mt.レディが何を知っているのかなんてわからないけれど、とっとと自分の番を終わらそうと本題に入ってもらった。
『レディ・パルフェさん、素晴らしいご活躍でしたね!』
「ありがとうございます」
『ヒーローにして医者。これほど頼もしいヒーラーヒーローもいませんね! パルフェさん、画面に向かって一言お願いしてよろしいですか?』
「ええ。私はレディ・パルフェ。この名はどんな状況下でも完全完璧に遂行すると定めた名です。そこに患者がいる限り、どこへでも駆けつけ必ず治して御覧にいれましょう。だから何があろうと安心してください。必ず私が救けます」
安心させるようにふわっと笑った万癒にMt.レディのみならず、多くの者が度肝を抜いた。
八百万はとっくの昔に至近距離で見たことがあるため「やはり女神のようですわ……」とぽうっとしていた。
『!!? あなた……ほんと笑うとかわいいのね!? ギャップがあるわ!!』
「そうですか」
『一瞬で塩!!』
そうして自分の番は終わったとばかりに降壇する。すると一気に囲まれた。勢いがすごすぎて思わず後ずさった。怖ぇわ。
「な、なんだよ」
「医刀ほんと笑うと女神様だったんだ!!?」
「万癒ちゃんほんと可愛かった! ねぇねぇ! もう一回やって!」
「まさか今になって「白衣の天使」の伏線回収くると思わんじゃん!? おまえマジで天使だったんかよ!! 似合わね!!」
「いやぁ、万癒さん意外とかわいいとこあんだよ。でもあれはほんとに可愛すぎた。写真撮りたい!! ね、アンコール!!」
わいのわいのわいの。好き勝手言われてもちろん万癒は爆発した。
「もうおまえらにはしねぇ!! 散れ!!」
「え〜!!」
「そんな〜!」
「見たけりゃいつかのTVで見やがれ……そのための演習だろ」
「確かに。じゃあまたお楽しみってことで!」
「俺絶対パルフェの特集録画するわ!」
「勝手にしろ……」
安寧をもたらすためにしたことである。患者じゃないならお呼びじゃないし、患者でも知り合いならする必要ねぇだろ、私が処置すんだから。強制安寧ルートだわと内心で思っていると、轟が胸を抑えているのが目に入った。
「どうした轟。具合悪いのか?」
「医刀……また不整脈が……」
「……おまえちょっと心臓弱い方なのかもな。今度検査させろ。こういうのは早い内に分かった方がいい」
「わかった。頼む」
「ああ。まぁ、今回のは……おまえさっき氷ぶっ放したろ? 穿天氷壁の実演。あれでただでさえ寒いのをもっと寒くしたから、びっくりしたのかもな」
「そうか……」
ゆっくり炎出してあったかくしろという万癒に、轟は素直に頷いていた。
その二人を爆豪はそれはもういや、馬鹿かと顔を歪ませていた。まぁ、だからといって親切にそれが何なのか教えてなんかやらないけど。そんな義理はないので。
そうして、クリスマスを目前に控え、インターンの再開が知らされた。
ただ前回は希望者のみ、それも実績の多い事務所限定という……あまり推奨されていない方向で進んでいたにも関わらず、今回のインターンは強制かつ、インターン先がビルボードチャート上位者の事務所であった。
そのことに万癒は妙な胸騒ぎを覚える。天下の雄英といえど、一年のインターン先にしては豪華すぎないか。まるで、戦力を蓄えているかのような──。
杞憂であればいいがそうでなかった場合を危惧し、先に動くことにした。
「八百万、ちょっとこい」
「医刀さん」
「ちょっと呼び出し方」
「いいから。別に喧嘩売ろうってんじゃねぇ、おまえに用事があんだよ」
「ええ、かまいませんわ」
耳郎と一緒にいた八百万を呼び出し、部屋に行こうとする。すると途中でなぜか轟も加わり、それはそれは自然に万癒の部屋に一緒に入ってきたので思わず吠えた。
「いやなんでおまえがいんだよ!?」
「ダメだったか?」
「ダメっつーか、逆になんでいいと思ったんだ!?」
「? 医刀と八百万に関わることなら、俺にも関係あるだろ?」
「いつまで期末引っ張ってんだよ!?」
轟はまったく分かっていない様子でぽやっとした顔で見てくる。きょとんとしやがって。このぽやロキくんがよぉ。天然にもほどがあんだわ。
「でも俺がいた方がいいだろ。医刀は口下手だ」
「おまえに言われたかぁねぇんだわ」
「そうか? でも俺なら通訳できる」
「その翻訳間違ってる事の方が多いから出直しやがれ」
「えっ」
「と、轟さん……!」
「すげぇショック受けてんじゃねぇか。そこまでとは思わなかったわ。なんか悪かったな」
物凄くショックを受けた顔をしていた。よっぽど自信があったらしい。おめぇ結構外してるぞしっかりしろ。だがもう今更追い出すのもなと思うのも本当で、ため息をついて承諾することにした。
「邪魔だけはするなよ」
「しねぇ」
「ならよし」
「よかったですね、轟さん」
「ああ」
間違いなく轟は二人以上きょうだいがいる家の末っ子だろうなと感じる。どうあがいても弟で末っ子なんだよな。
気を取り直して八百万に本題に入った。
「いいか八百万、よく聞け」
「は、はいっ」
「私は以前、「おめぇに出来ることが私に出来ねぇはずもねぇ」と言ったが……これは逆もしかりだと私は思っている」
「え……」
「私に出来ることがおまえに出来ねぇはずもねぇ、ってことだ」
「医刀さん……!!」
思わぬ万癒の素直に八百万を認める発言に、八百万が思わずといった様子で感極まって涙目になる。轟も俺の通訳いらなかったなと目をぱちぱちしていた。
「だから、おまえに私特製の麻酔の調合を教えてやる。他に役立ちそうなものも。死ぬ気で覚えろ」
だが続く万癒の発言に八百万は目を剥いた。とんでもないことを言われた。いくら敬愛する万癒といえど、これは流石に大問題だと抗議する。
「はい!? 医刀さんそれは法律違反ですわ……! 私医師免許など持っておりません!!」
「確かに法律違反だが……それって人を救うこと以上に大事なことか?」
「っ……それはっ、」
そんなはず、ないじゃありませんか。と呟く八百万に万癒は一つ頷く。
「卑怯なこと言ったな。でも、私が言わんとしているのはそういうことだ。あのときあれがあれば、これがあればってなるよりは……術は持っておいて、やるかどうかを自分で決めた方がいいだろう。知ってて損はないってこった。だから覚えとけ。出番がないのが一番だが……そうも言ってられなくなるかもしれないだろ」
「医刀さん……それはどういう意味で……」
「……インターンが始まるからな。プロの現場はいつだって危険と隣り合わせだ。一瞬で無力化出来るヤツが一番強ぇ」
無力化、というのに八百万はハッと対抗戦のときのことを思い出した。
万癒は言った。何をおいても生き残れと。そしてタイマンに持ち込まれても、もっと妨害できるものを創れたはずだと。万癒の言わんとしていることを八百万はもうわかっていた。
ブレーンがいなくては、立て直しができない。とっておきのオペレーションを遂行するにはどうしたらいいのか──八百万はもう、分かっていた。
「ご教授、お願いいたしますわ……!!」
「……そうこなくっちゃな」
そこから万癒の鬼の扱きが始まった。スパルタすぎるそれに八百万がてんやわんやしていると、轟がまたしても横から「医刀は八百万ならやれるって信じてるぞ」「飲み込みが早くて八百万はすごいって言ってる」とかなんとか言い出し「轟マジで邪魔すんな黙ってろ!!」ブチギレられた。「俺は邪魔してねぇ」「してんだわ!!」そんな感じでどうにかこうにか終えるのだった。
「あと……これだけは言っとく」
「はいっ」
「おまえは……度胸が足りねぇ。思い切りに欠ける」
「は、はぁ」
「医刀は八百万が優しいって言ってるんだ」
「轟!!」
またしてもいらん通訳が入った。轟も万癒にブチギレられるのに慣れてケロッとしてる。まったくもって怯まない……いや、最初からこうだったな。
「これを使わねばならない状況下なら、最初から最悪を推し量れ。むしろそっちに思考を寄せろ」
「……配合を振り切れということですわね」
「そうだ。敵といえど抵抗があるのは分かる。私が教えたのは薬より毒といった方が正しいからな」
「……ええ」
「でもおまえに限ってその心配は無意味だ。何故なら……状況に応じて対応すること、それこそがおまえの得意分野だからだ」
「医刀さん……」
「おまえならちゃんと処置できる。自信もって挑め。オペレーションは決断の連続だ」
万癒が託した術を医師免許を持たない八百万は、本当にどうしようもない時にしかそれを使わない。ならばこれに全てを委ねてしまう状況ならば、最悪を推し量らなければならない。必ず効かせねばならない。
八百万と万癒に託された状況を好転させるために。そのために万癒がリスクを承知で授けた術だった。
「ええ、必ず。その時は私も遂行してみせましょう」