Lady ready

新学期、学校が始まると万癒はそれはもう囲まれた。


「医刀ー! CM見た!」
「急に医刀出てほんとびっくりしたんだから!」
「万癒ちゃんの笑顔またみられて幸せ! 何回も見ちゃった!」
「……そうか」

インターン中も休憩時間に上鳴が暇さえあれば動画を再生して騒いでいたので、もうなんか慣れていた。
それに峰田と瀬呂が同じインターン先である。うるさいなんてものじゃなかった。


「でも医刀さん……少し髪が伸びたのでは?」
「やっぱそう思うか? 私もそんな気がしてたんだ」
「本当に効果がありますのね。この調子でいけば、伸びるのもすぐだと思いますわ」
「……まぁ、悪くないから、続けてみようとは思う」

まんざらでもなさそうに毛先を指先で撫でる万癒に、八百万が優しく微笑んだ。
そこで万癒はふと違和感に気づく。八百万と話していると、結構な頻度で轟がどこからともなくひょこっと現れるのだが、今回はいない。きょろっと辺りを見渡しているとテレビの前でぼーっとしている轟が目に入った。何か様子がおかしい。


「轟? どうしたんだおまえ……」
「医刀……」

するとちょうどテレビからMt.レディがイメージモデルを務め、万癒も一緒に撮影したシャンプーのCMが流れる。


『美しく、大らかなツヤに』
『今、革命が訪れる』
『『Lady Hair』』
『早く伸ばして、新しい私へ』

奇しくも、Mt.レディ、レディ・パルフェというレディ繋がりもあり、Lady Hairと題したこの商品の宣伝は大成功だった。髪の長いレディと短いレディから始まったこのCMは、髪が伸びたレディ・パルフェの姿を楽しみにする声も多く、途中経過も含めCM契約が決まったのだった。
さすがににこっと笑った自分の顔を何度目かもわからぬドアップで見ることになり、げんなりしていると轟が胸を押さえていて慌てた。


「おまえ、また脈がおかしいのか?」
「ああ……」
「……前の検査では異常なかったんだけどな。もう一回してみるか、今度はもっと詳しく……精密検査しよう」
「わりぃな」
「謝るな。他に症状が出たらすぐいうんだぞ。エンデヴァーんとこはNO.1とだけあって大変だったろ……疲労がたまってるのかもな」
「……そうか」

轟も冬休みにあったエンデヴァー事務所での出来事を思い出していた。エンデヴァーより早く事件を解決するためにフルスロットルで駆け抜け、ミスター・スマイリーとかいう手強い落書き犯を追い、新しい技法を習得し、家に友達を招いて昔話をして……夏雄が襲われて、救けてと確かに濃かったな、疲れてたかと納得するのだった。

それを爆豪がいや、いい加減気付けやとイラっとしていた。インターン中もこのCMが流れてくると胸を押さえていたのだ。逆になんでわからないんだと不思議でならなかった。でも、轟の様子を見る限り、ありゃ医刀が好きというより、医刀の笑った顔が好きなんだろうと爆豪は思う。こっちも舐めプかよとやはり知らぬ存ぜぬを貫くのであった。







エリちゃんの様子がおかしく、そちらについていたため緑谷と爆豪と、オールマイトとの話し合いは見送ることにした。だがそのあと緑谷から聞いた話を聞き、ついでにオールマイトが調べた歴代継承者の経歴をまとめたノートも見せてもらった。


「……なるほどな。近現代史で知るのとはまた違うな……誰かに託され、そして託して希望を繋いだのか……」
「うん……」

そろって継承者たちは早死にだった。悪が世界を支配していた時代。暗黒の時を必死に生きた人々。よくワン・フォー・オールが奪われなかったと敬服する思いだった。
けれど、一人……四代目の記述が半端に終わっている。終わっているというか……消されていた。


「なぁ、この四代目は……」
「それ、オールマイトも調べたけどよくわからなかったんだって。二・三代目に関しては手がかりも見つからなかったそうだし……」
「……そうか」

妙だな、と思った。途中まで書いてあるのに、まるで知られたくないことが書かれてあるとばかりに消されている。消されているのはまとめ方からしておそらく死因。知られたくない死因がある、オールマイトが緑谷に知ってほしくない死因とは。
そこまで考えるが情報が少なすぎた。


「とりあえず、黒鞭はモノにしたんだろ」
「う、うん。お陰様で……次はオールマイトのお師匠さんだった志村菜奈さんの「浮遊」を習得するんだ」
「そうか。それなら麗日を頼るといいだろう。頑張れよ」
「うん!」

緑谷も頑張っている。浮遊まで解禁してしまえば、もうクラスメイトにも誤魔化しは段々きかなくなるだろう。「私の魔改造だ」と言って納得するのは上鳴くらいだろうなと今から頭が痛かった。
受け継がれてきたその個性は……希望でもあり、呪いにも似ていると万癒は複雑な思いだった。







エリちゃんの異変から、万癒はこれが角が伸びすぎてしまったことによる影響だと診断を下した。解決するにはやはり個性を放出するしかない。
そこで、主治医である万癒と緊急時に止める手段を持つ相澤、エリちゃんの精神面を考えて通形に同席してもらい、怪我をした虫やトカゲ、植物を対象に個性を試し打ちしてみることにしたのだった。


「大丈夫、エリちゃん。私も相澤先生も、ルミリオンもいる。怖いことにはならない」
「うん。危ないと思ったらすぐに止めるから、とりあえずやってみよう」
「頑張れエリちゃん。エリちゃんならきっとできる!」
「う、うん!」

緊張した面持ちで、エリちゃんが個性を使う。
それはうまくいき、見事に巻き戻すことに成功していた。


「すごいやエリちゃん! ちゃんとできたね!」
「うん。何の問題もなかった」
「しばらく個性を使っていなかったのに、使おうって思って使えたのは本当にすごい。頑張ったね」

よしよしとエリちゃんの頭を撫でる。エリちゃんも嬉しそうに表情を綻ばせていた。
この調子でいけば、通形の失われた個性を取り戻すのも近いかもしれない。自分を救けてくれたルミリオンさんを救けたいという気持ちが、エリちゃんの原動力になっていたのだった。

成長しているのは万癒たちだけじゃない。こんなに小さな女の子も頑張っているのだと思うと、万癒ももっと頑張らなくてはという思った。







「爆豪、ちょっと付き合え」
「あ?」
「これ、やってくれないか」

これと顔の横で掲げたのはリモコンだった。相澤が校長やパワーローダーたちに掛け合って、限りなくリアルに近づけた手術シミュレーション。
爆豪が選択する機能はえげつなかった。そのえげつなさがいいのだ。どんな状況下でも必ず救うと決めたレディ・パルフェに、一番ふさわしい挑戦状を投げつけてくれるのは、爆豪しか考えられなかった。


「……ラーメン」
「いいぞ。他には?」
「蟹」
「またカニ鍋するか?」
「この間あたったばっかだろうが……刺身にする」
「それもそうだな。わかった」

始業一発鍋パ会なるものを開いたはいいが、罰ゲームで闇鍋になったときにアクシデントが起きた。万癒も昏倒してしまっていたのだが、あの感じから闇鍋にあたったというより、毒物を疑った。あと説明する上鳴の様子がうそを吐くときのそれだったので、何らかの不手際で入れてはならないものが入ったのだろうと思う。
けれど、鍋が始まりには変わらない。A組B組双方で鍋はしばらくやめにしようという雰囲気になっていたのだった。


「――ほらよ。何にしたかは言わねェ。自分で探せや」
「それがいい。本番じゃ自分で探すしかないからな」

そうしていざ、オペレーション。
全てを救うために、もうこの手に預かった命が零れ落ちないように。奇跡は起こすものだから。
「死ぬほど腕を磨く」そうやって出した答えは、努力は、結実するだろう。


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