それは願い

HLB、ヒーローリーグベースボール。それは野球好きのプロヒーローたちによって設立された、草野球連盟の総称である。今年の年間順位はギャングオルカ率いるチームオルカーズと、ライオンヒーローシシド率いるチームライオネルズが同率一位で並んでいた。

HLB最終戦、オルカーズとライオネルズの直接対決が今、始まろうとしていた。


「せんぱーい、なんで助っ人を引き受けたんですか?」
「エッジショットに聞いてくれ」
「そのエッジショットがいないのはどういう了見だよ、あの髭面がァ……!!」

ギャングオルカとシシドはそれぞれ助っ人を頼んでいた。
ギャングオルカの要請に何を思ったのか、エッジショットは了承し、ラーカーズとそのインターン生を派遣した。だがその了承した当の本人であるエッジショットは不参加だった。そのことに万癒は大変立腹していた。


「パルフェちゃんお怒りね。無理もないわ、あんなに片時もパルフェちゃんを離さなかったのにいきなりこれだもの」
「!? 気色悪い言い方しないでもらえます!?」
「でも事実じゃない。別行動したのなんて、私とCMに出たときくらいでしょ?」
「それはそうだけどそういうんじゃないんで!!」
「まぁ、エッジショットにも考えがあってのことだろう。頑張ろう」

万癒は今にも青筋がブチギレそうだった。確かにインターンが始まってからというものの、エッジショットの指揮下に入り活動を行っていた。だがそれは一番効率がいいからで、不純なものではない。
どうにもMt.レディは自分とエッジショットの間に何かあると疑っているが、自分たちは断じてそのような関係ではない。インターン中なのになぜかベースボールをすることになるし、勘違いされるしで最悪の気分であった。







実況にプレゼント・マイク、解説にイレイザーヘッドが招かれていた。イレイザーヘッドもなんで俺がといった様子だったが、聞いてもらえなかった。
HLBルールとして、出場選手はそれぞれ9人で選手の途中交代はなし。ポジションチェンジは何度でも自由にできる。代走も可能。途中で退場者が出ても試合はそのまま続行され、打者が負傷退場した場合は自動的にアウトとなる。
勝敗は九回終了時の点数差か、どちらかのチーム全員退場による試合放棄のいずれかで決まる。だいぶ無茶苦茶なルールだった。

一回の表、オルカーズの攻撃から始まったそれは、砂藤のシュガードープで威力を増した剛速球をギャングオルカがこともなげに場外ホームランで決めたところから始まった。
ちなみに砂藤はあっさりホームランを打たれたことからシシドの怒りを買い、絞められた後ピッチャーがマインズ――庄田に代わるのだった。


「……あいつの個性って確か……チャージズマ、油断すんなよ!」
「へーい!」

万癒が忠告したにもかかわらず、へなちょこ投球に騙され、上鳴はあっさり三振を決めた。ツインインパクト、打撃を与え、任意のタイミングでもう一度打撃を与えることができる個性。二度目の打撃の威力は各段に跳ね上がる。あまりの剛速にバッドを振ることさえできなかった。


「指導……」
「あ、あんなの打てるわけねぇって……」
「指導ー!!」
「うぇええええいいいっ」
「だから言ったろ……バカミナリ」

容赦なくギャングオルカに指導と飛ばされた上鳴に万癒は頭を抱えた。
続いて障子が打者を務め、複製腕を活かしバッドを増やしてストライクゾーンを塞ぐ狙いであったが、変化球までマスターされており、障子もそれに続いた瀬呂も完敗だった。当然ギャングオルカに指導と打ち飛ばされた。







三者三振で攻守代わり、打者は尾白。投手はシンリンカムイだった。
開始早々、シンリンカムイは先制必縛ウルシ鎖牢を炸裂させ、尾白を捕縛してキャッチャーの障子とキャッチボールを繰り返し、三振にした。
二人目の打者、宍田も同じ目に遭い、これで三者三振なるかと思われたその時、三人目のシシドでそれは変わる。ちなみに尾白も宍田もしばかれた。ベースボール熱が強い。


「……さぁ来い」
「ん。ウルシ鎖牢」
「舐めるなァアア!! 新人風情がァ!!」
『シシドー! ウルシ鎖牢を打ち砕ぁく!!』
「まだだ!!」

ウルシ鎖牢を炸裂させたまま、ボールを放つシンリンカムイ。
だがシシドはウルシ鎖牢を絶え間なく砕き続けついにボールを打った。それはシンリンカムイの頬に直撃し、シンリンカムイはボールごと打ち上げられる。


「センター! 身体で止めろ!!」
「タイタンクリフ……うほぁ!!」
『アァー! Mt.レディ白目をむいている!! セロファンナイスフォロー! シシドの出塁を阻止……っとぅわああああ!! セロファン! 気絶したMt.レディに潰されたぁ!!』
「マジかよ」
『シンリンカムイー! ピクリともしなーい!』
「怪我人ばっかか!!」

万癒がざけんな、とばかりに吠える。もしかしなくても自分が診るパターンである。ヒーローを救うヒーローになるとは言ったが、まさかその怪我の原因がベースボールとは想定外であった。本当になんでおまえ引き受けたんだよ、とここにはいないエッジショットに恨みが募った。








シシドがアウトになったことで再び攻守交代である。万癒は負傷退場したMt.レディ、シンリンカムイと瀬呂を診ているとエッジショットから連絡がきているのを確認し「あいつっ」と苛つきながらメッセージを見るとそこに書いてあったことに対し、何とも言えなくなってしまった。


「レディ・パルフェ!! 頼みの綱はおまえだ! 目に物を見せてやれ……!!」
「いやあれ流石の万癒さんでも――」
「任せろ」
「え」
「私はいつだってなんだって完全完璧パーフェクトだ!」
「ええっ、さっきまでめんどくせぇって感じだったのに! なにがあったの!?」

先ほどまでの万癒の変わりように上鳴も、耳郎たちもぎょっとする。なんかかなりやる気になってる。
お馴染みの鉄パイプを創造し、ホームラン予告までする万癒に本当に今の今で何があったんだと思わずにはいられない。


「レディ・パルフェ。おまえを打ち破るヒーローの名だ。覚えておけ」
「……マインズ。それを阻止する者の名だ」
『なんかいい感じにバチってんな!?』
「ツインインパクト……」
「来いっ」
「ファイアッ」

ギラついた目で万癒は庄田のへなちょこ豪速変化球を見極める。見るのは得意だ。だって万癒はずっとあらゆるものを診てきたから。


──おまえの経歴を見るに、このように遊んだ経験はないだろう。おまえはまだ子供であり、子供でいていい人間だ。そこでまた得るものもあるだろう。よく遊び、よく学んでくるといい。


「(ほんとにムカツクヤツ……私を子ども扱いするヤツなんて……あんたくらいだよ、エッジショット!!)だらァアアア!!!」
『す、すげえええええ!! 見て打ったああああ!!』
「万癒さーんっ!!!」

庄田の変化球を見て打った万癒にオルカーズが沸き立った。
しかし、予告通りばっちりホームランになるはずだったそれは、シシドが死ぬ物狂いで食いつき、阻止したのだった。


『宣言通りのホームラ――ったあああああ! しかしそれをシシドが阻むー!!』
「チッ!!」
「レディ・パルフェ、よくやった!」
「ギャングオルカ……」
「絶対に勝つぞ」
「……当然」

ギャングオルカの闘志に呼応して、チームの面々も燃えてきた。この試合、なんとしてでも勝ってみせる。








攻守交代し、峰田が投手を務め、ロージンバッグでもぎもぎを着色しバッドにくっつく魔球を生み出した。最初の打者、砂藤をノックアウトしたはいいものの、鉄哲による頭脳プレイ……バッドごと打ち返す危険行為により、負傷した峰田は鉄哲もろとも退場することになったのだった。鉄哲は反省しろとシシドにめちゃくちゃ怒られ埋められた。

再び攻守交代。打順が回り、再びギャングオルカに打者が回ってくる。ライオネルズのピッチャーも変わり、ファットガムになっていた。シシドはファットガムのお腹をひたすら殴り続け、脂肪吸着を試みていた。
だがそれでもギャングオルカは打ってみせ、ひたすらこちらにボールが来ないようにと祈っていた天喰目掛けて飛んで行った。そしてその衝撃に天喰も一緒に飛んだ。それを切島がカバーし、庄田に繋ぐがギャングオルカの超音波で庄田は撃沈。尾白がこぼれ球を三塁のシシドに繋ぎ、ギャングオルカの超音波とシシドの咆哮がぶつかった末、ギャングオルカをタッチアウトした。
結果的に天喰と庄田を撃沈させ、脂肪の燃やしすぎでファットガムも退場。だがこの状況に耐え切れず、塩崎が気絶したのだった。混沌である。


「チャージズマ! ブチかませ!! 負けんな!!」
「おうっ」

打者は上鳴、投手はシシドだった。今までのプレーを見るに最も手強い相手である。
万癒はすっかり熱が入っており、上鳴も万癒がこう言ってんだから頑張んねぇと、と気合を入れた。
しかし、シシドの剛速球はキャッチャーどころか審判も巻き込むほどの威力だった。上鳴もキャッチャーの宍田もダウンした。とどまることを知らない状況に、障子が耳郎に倒れるふりをしろと耳打ちして、耳郎を棄権させる。医刀は……とそちらに視線をやったところ、変わらず燃えていたので放っておくことにした。むしろ絶対勝つと意気込んでいる。

だが打順が障子に回ったところ、障子も上鳴と同じく衝撃破で逝った。ちなみにキャッチャーに指名された砂藤もだった。
そんなこんなでなんとか続いた試合は、途中で銀行強盗を働いた敵が県道を北上しているとのことで、そこからのルートを瞬時に叩き出したギャングオルカとシシドは、敵退治のために猛スピードで行ってしまった。さっさと解決して、事後処理をインターン生で行っていたところ……ギャングオルカとシシドの戦いは両者気絶という形で終了した。ベースボール対決は引き分けで終わったのだった。







「万癒、楽しんできたか」
「……それなりには、まぁ」

帰ってくるとエッジショットが待っていた。ツン、とした様子でそっぽを向く万癒に楽しめたようだと解釈し、エッジショットも小さく笑った。


「髪が乱れている。座りなさい、整えよう」
「それくらい自分でできる」
「いいから座りなさい。たまにはいいだろう」
「あんた……そういうことすっから誤解されんだぞ……」

げんなりしつつも、今はMt.レディたちはいない。それならまぁ、しょうがないからエッジショットの気まぐれに付き合ってやるかと、座った。


「以前より伸びたな」
「……あのシャンプーのおかげじゃないか。結構効果ある」
「そうか。本当に伸ばしてくれるとは予想外だった。もっと先の……おまえが大人になってからだと予想していた」
「……あんたが髪紐なんてよこすからだろ……貰ったもん使わねぇままなのも……なんか悪いし」

伸ばしている理由なんて、それ以上でも以下でもない。
この髪紐は善意でもらったものから巡り巡ってきたものだ。しまったまま、日の目を見ないのは悪い気がした。


「そういうところは素直だ」
「なんだよそれ……てか、なんで髪紐なんだよ。私どう見ても使える長さじゃなかったろ」
「願掛けだ」
「は……?」

思わず振り返ろうとして、前を向くように頭を優しく固定される。
エッジショットは光を受けてキラキラと反射する万癒の銀髪を、見つめていた。


「おまえが素晴らしいヒーローになれるように。そのための願掛けだ」
「…………そうかよ」

もらってから伸ばすようになった。その間に色んなことが起きて、万癒も本当の意味でヒーローになろうと覚悟を決めた。エッジショットの願いに多少は添えているのかもしれない。まだ自分は素晴らしいヒーローではないけれど、必ずそうなると決めている。ならそれまでは……髪を伸ばそうと思うのだった。


「次はあんたも参加しろよ。引き分けなんて……納得いかねぇ」
「気に入ったのか?」
「気に入ったとかじゃなくて……負けんのはいやだろ」
「引き分けだったんだろう」
「引き分けもでも悔しいもんは悔しいだろ……次は勝つ。だからあんたもやんだよ」

エッジショットはその様子にほう、と隠れた口元を綻ばせた。本当にいい経験をしてきたらしい。大人になるしかなかった万癒が、子供らしいことを言っている。それが何より、エッジショットにとっては喜ばしかった。

――おまえもまた、安寧を享受するべき立場にいる。俺はおまえに……紡ぎたいものが山ほどあるのだ。


「了解した。おまえに勝利を捧げよう」
「(ぞわっ)あんたほんとそういうところだって! 誤解を招く発言はやめろ!!」
「善処する」
「ほんとか!?」
「ほんとだ」

言ったな、言質とったからな、と唸る万癒を宥めるように撫でた。
善処はする。善処は。それが万癒が望んでいる形とは限らないけれど。







「あ……」
「どうした」
「いや、なんか忘れてるような……けど思い出せねぇ」
「おまえが忘れるとは珍しいな。だが、そんなときもあるだろう。おまえも人間だ」
「……うん」

なんだったかなぁと考えるが、結局思い出せなかった。
それが何だったか分かったのは……後に切島が「鉄哲埋まったまんまだった」と話した時だった。無事だった。


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