疑念と仮説

あれから万癒は緑谷とオールマイトの関係を疑っていた。
トゥルーフォームのオールマイトの先にいた、緑のもじゃもじゃ。あのもじゃもじゃは緑谷で間違いない。あの時保健室のベッドにいたのはあの二人で、万癒はその処置に当たろうとしたところ、リカバリーガールに追い出された。

緑谷が個性で怪我をするのは今に始まったことではないが、足の骨折は敵の前に飛び出していったものだという。緑谷は滅茶苦茶だが、無意味に出しゃばる性格ではない。オールマイトの活動限界を知っていたと考えるのが妥当だろう。そこまで考えて、万癒はやはり何かあると疑った。

ただ偶然オールマイトの秘密を知っただけなら、リカバリーガールに追い出される意味はないはずだ。
「おまえも知ってるんだな」というだけで済む話だ。
オールマイトと緑谷の共通点をあえて挙げるのならば、その個性の類似点。パワーはオールマイトのそれに迫る。けれど緑谷は個性を扱いきれていない。まるで発現したての子どものような……。


(……まさか、な)


万癒は爆豪が緑谷は無個性だと吐き捨てていたのを思い出す。
粗暴な面が目立つが、あの手のタイプがそういった嘘を吐くとも思えない上に、仮にオールマイトの個性をコピーできるような個性を緑谷が持っていたとしよう、それにしてはあのクソナードぶりに説明がつかない。もし演技だというのなら大したものだった。

となれば、何らかの形でオールマイトの個性を移したと考えるのが妥当だろう。
推測の域を出ないが、もしそうだとしたら……厄介なことになったなと万癒は頭を乱暴に掻いた。


(あいつ……一番渡しちゃなんねぇ奴だろ……)


無個性からのスタート。自損を厭わないその姿勢。力量差よりも救けることに天秤が傾く。一番厄介な患者でしかない。入学してもうすぐ体育祭が開かれようとしているが、その間も緑谷が怪我をしない日などなかった。つまり万癒が診ない日もなかった。
もしこの仮説が合っているのならば……本当に厄介でしかなかった。こんな日は無性に煙草が吸いたくなる。けれど天下の雄英生、それもヒーロー科がそんな素行不良を起こすわけにもいかず、せめてもの煙草気分を味わう為にシガレットを口にするのだった。


「……甘ぇ」







雄英体育祭、それは轟の緑谷への宣戦布告で始まった。
緑谷がオールマイトに目をかけられているのを、轟も察していたらしい。
もっと潜めよと万癒は内心で舌打ちをした。今はトゥルーフォームの存在を知られていないから、個性が似ていることもあって親近感がわいているのだろうくらいで済むかもしれないが、オールマイトの活動時間はあの襲撃で更に縮まってしまっている。正直いつバレてもおかしくはなかった。

そんな幕開けでだったが、雄英体育祭は多くのプロヒーローに見てもらえる絶好の機会である。
ここでの活躍が指名に大きく関わる。就職活動のようなものだった。
例年本格的にデビューを控える3年に注目が偏るが、敵の襲撃を耐え抜いた1年A組という話題性もあり、今年に限り1年に注目が集まっていたのだった。




―第一種目は障害物競争。
開幕轟が氷で妨害してきたが、それも想定の範囲内だった。一見した限りでは極端に冷えが命取りになるような者もいなかったため、そのまま進むことにした。ちょっと冷たいくらいは体育祭であるし、我慢していただこうと思う。棄権扱いになるであろうし、問題はないはずだ。
すると、目前で轟に妨害を仕掛けようとした峰田がロボに吹っ飛ばされた。


「峰田くん!!」
「(峰田……は)まぁ、大丈夫だろ」

頬は腫れているだろうが、峰田はわりと執念深い。わざわざ今診てやる必要もないだろうと、万癒は無視して先を行くことにした。
ヒーロー科の入試で使ったという0P敵。自分たちの何倍もある大きさのロボットたちが立ち憚る。
轟が氷結を繰り出し、1抜けするのに続こうとした人間を掴み、万癒は慌てて制した。


「なんだよ!? っえ!?」
「大馬鹿野郎。んな親切に道作るわきゃねぇだろ。そんなに死にてぇか?」
「……タ、タスカリマシタ」
「っても、下敷きになった奴らいんな。切島みてぇのだといいんだが」

目の前で崩れたロボットに、万癒に肩を掴まれた円場は冷や汗をかきながらお礼をいった。
万癒は気にした風もなく、すたすたとそちらに歩いていく。案の定切島は無事で、もう一人の方も切島と同じような個性だったため大事には至らなかった。


「個性ダダ被りかよ!! ただでさえ地味なのに!!」
「不幸中の幸いだな。個性被ってて何よりだ」
「良いなあいつら……潰される心配なく突破できる」
「あ? おまえも似たようなもんだろ」
「え!?」
「なんのための帯電だよ。あれロボだぞ。回線やっちまえば勝ち確だ」

そういって万癒が前を開け、剪刀を創造する。
切れ味抜群のそれで回線をぶった切るつもりらしかった。


「万癒さん……意外と運動神経いいんだよな……」
「なんか言ったか」
「なんも!!」


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