探偵危うきを寄せつける
次の日。蘭と新一の三人でトロピカルランドに来た。
「ほらほら二人とも!ミステリーコースター空いてるよ!行こうっ!」
「……パース」
「ん、なんだ?おめぇ、幽霊とかこえーのか?」
新一がニヤけた面で私の顔を覗き込んできた。折角二人きりにしてあげようとしてんのにこのバカは……。呆れて何も言えない。
「……いいからいいから。二人仲良くいってらっしゃい」
「あ、ちょっと!!天音!」
引き止める蘭にはにっこり笑って、新一にはブーイングサインを見せてから手を振る。二人の視線が遮られたのを確認してから小さく溜息をついた。
さっきから感じてる得体のしれないこの不気味さはなんだろう。たかがジェットコースターだし神経質になる必要はないはずなんだけど。
アイスティーを片手にミステリーコースターの目の前のベンチに腰を下ろした。口の中にはキャラメル。本でも持ってくれば良かったと少し後悔した。
ぼんやり行き交う人々を眺めていると、一人の外人に目に止まる。長い綺麗な金髪、グラサン、黒のスーツ。……これで怪しまないわけがない。目で追っていたら彼女は人ごみに紛れてしまった。
空箱になったキャラメルの箱を握りつぶす。そのまま勢いよくゴミ箱に投げ入れた。
「ねえ聞いた?殺人事件だって」
「うっそぉ!こわっ!」
「それどこで?」
「ミステリーコースターらしいよ」
「良かった乗らなくて!」
ふと聞こえてきた女の子たちの会話。思わず大きく舌打ちをする。
あのトラブルメーカー……また事件か……。嫌な予感ほど当たるもんだ。
こんなテーマパークでの人殺しなんて悪趣味にもほどがある。客にもテーマパーク側にも迷惑がかかる。そもそもこんな所で事件なんて起きたら、テーマパークが売れなくなるのは確実。下手したら潰れるだろうけどそれが目的なら万々歳か。
ミステリーコースターの付近には早くも人だかりができていた。新一はともかく蘭が心配。あの推理オタクは推理に夢中で周りが見えなくなるだろうし。
一息ついてから顔に笑顔を張り付けて人ごみを掻き分ける。あーしんど。
やっと現場に着くと蘭が駆け寄って来た。
「天音!」
「その様子だと怪我はないみたいだね」
「う、ううぅ……天音……」
涙をハンカチで拭うけど次々とあふれてきて拭いきれない。「怖かったねーよしよし」なんて子供みたいに甘やかして抱きしめた。蘭の肩越しに推理オタクを睨み付ける。こんなになるまでほっとくなアホ。
蘭を抱きしめたままぐるりと見渡す。燦々たる現場。普通なら吐き気を催すだろうこの臭い。改めて見ると酷い有様だ。
そんな異質な空間の中、更に異質な物があった。黒ずくめの男二人だ。
さっき見かけた金髪の女性と同じような雰囲気を醸し出している。格好はそこまで異質ではない。異質なのはこの現場で顔色を変えず全く動じていない事だ。
蘭を落ち着かせることに専念していたら推理バカによる推理ショーは始まっていた。蘭も落ち着いてきたのか私の手を握ったままそれを見つめている。
私は男二人を見た。一人は長身で長髪の銀髪。もう一人は背が低く、少し太り気味。
ベンチで見かけた金髪の女性の仲間なのか。あるいは赤の他人なのか。憶測を立てたところで動いてみないとなんとも言えない。
ただ……なーんか金髪女性の後ろ姿というかスタイルというか…どこかで見た気がするのは気のせいだろうか。
男二人は容疑者に視線が集まっているのを良いことに少しずつ隅に寄っている。おそらく事件解決と同時に人ゴミに紛れるつもりなんだろう。
追うなら事件解決と共にスタートを切らないと、いくら分かりやすい格好であるとはいえ見失ってしまう。さっきみたく。
ちらりと隣の蘭を見た。さっきまで泣いていたせいで目元が赤く、震える指先は私の手を頼りなく握っている。
この可愛い友人をこのまま一人置いて行く事はできない。いくら空手が強くたって、所詮女の子。こんな血なまぐさい事件はイレギュラーだろうし心細くもなるだろう。
こういう時にはやっぱり支えが必要だ。まあ……その支えはただの友人より好きな人の方がよっぽど効果あるだろうけど。
「おいおい、蘭。泣いてたのか?つか天音!推理に参加しろよ!オレ一人で全部やっちまったじゃねーか」
「し、新一…」
あらかた片付いたのか新一がポケットに手を突っ込んだままやって来た。
男二人はもうこの場にいない。
「う、うぅ…新一のばかぁ……」
「え!?えぇっ!?」
蘭の目からは再び涙があふれ、愛しの騎士様に飛びついた。新一は真っ赤になりあたふたしている。ゆでダコみたいで滑稽だ。
「じゃあ、騎士さまも帰ってきたことだし…一般市民は退散しますかね」
「はぁ?」
「もう疲れたし帰るね、あとはよろしくー」
「オメーこの事件なんもしてねェだろ!!」
「代わりに姫様を守ってましたよー」なんて言い返すのも億劫。新一の言葉を最後まで聞かずに背を向けた。