犬猿の仲
煙管に火をつけ立ち昇る煙を眺める。少し甘い匂いに身を委ねた。
この喫煙所は滅多に人と居合わせた事がない。他の煙に邪魔されることがなくて気に入っている場所の一つだ。
「レイ、お前さんにはちょっと早ェぞ?」
上から伸びて来た分厚い手にひょいっと煙管を奪われる。上を見るとアスマ先生がニヤリと笑っていた。
「ただ火を付けただけですよ」
「あぁ、噎せてたもんな」
何故それを。少し前にどんなものかと吸ってみようとしたのを見られていたというのか。軽く睨むものの効力はなさそうだ。
「悪趣味です」
「気づかねェレイが悪ィ」
正論に対し言葉が詰まる。ただ新米暗部に対しベテラン上忍が本気を出すのは如何なものか。
アスマ先生は吸殻をすっかり落として煙管を返してくれた。受け取った煙管はまだ暖かい。
彼が煙草を加えこちらに「ん」と示してくる。これは火をつけろと言う事なのだろう。持っていたマッチで火を付けてあげた。
煙草の煙がアスマ先生の口から一気に吐き出される。今度は少し苦い煙が辺りを包んだ。
「どうだ、暗部は。カカシの後輩とは上手くやってんのか」
「テンゾウ先輩ですか?」
「あーだったか?」
「教える事がないと言われてしまって…最近は他の人と組んでます」
暗部入りたての頃、教育係としてテンゾウ先輩とよく組んだ。彼は両親とも顔見知りだったらしく良くしてくれた。時折見せる厳しさを除けば温和な先輩だ。
「ほう?今度はどんなヤツだ、上手くやれそうか?」
そいつの顔を思い出すだけで気分が急降下する。顔をしかめた私を見て、アスマ先生は面白いものを見たかのように笑みを浮かべた。
「はっはっ、その顔だと上手くいってねェみてーだなぁ」
「ええ、まあ…任務はちゃんとこなしてます」
「レイにそこまでの顔をさせるなんてとんだツワモノだなそいつ」
ツワモノも何もただの最低野郎だ。任務遂行を何より重んじ、任務のためならたとえ子どもだろうと利用する。チームだというのに私が危ない場面でも素知らぬ顔、挙句何故か私が気にくわないらしく追撃してくる時さえある。デリカシーの欠片もない。そんな奴を最低野郎と言わずになんというのか。
依然笑い声を上げているアスマ先生を横目に吐息した。
任務が無事遂行され、報告のために火影室に駆け込む。扉の向こうには火影様とシズネさん、そしてソイツがいた。
「随分遅いね、ウンコでもしてた?」
無駄に爽やかな声が勘に触る。米神がピクリと動いた。相変わらずデリカシーのない奴だ。その仮面の下でどんな表情をしているのやら。
「敵を押し付けた奴の言う言葉じゃないな」
「山賊程度、敵とは言わないよ」
「お前の仕込み罠に手こずっただけだ」
「ボクがやったって決めつけないで欲しいな」
「ならこの墨はどう説明してくれるんだ」
巻物を開き術式を解放する。墨で描かれた鼠や鳥が彼の元に戻って行った。
「律儀に全部捕まえたんだ」
「……隠す気毛頭ないだろ」
「それは隙だらけの君が悪いんじゃないかな」
「お前の刃がかすった事は一度もないがな」
「悪運が強いんだね」
この胡散臭い笑みが何より嫌いだ。殺意を込めて睨みつける。
一ヶ月前、綱手様から極秘任務を言い渡された。内容は根であるコイツの監視。ツーマンセルを組むことになった理由にダンゾウが関わっていると聞いたが詳しいことは分からない。大人たちの間で何かが起こっているのかも知れないが、どうでも良いというのが本音。
しかし…いかんせんウマが合わない。
「お前ら!良い加減にしろ!」
突然の怒声に思わず口を噤む。ここが火影室なのをすっかり忘れていた。恐る恐る声の主を見ると相当お怒りの様子。即座に跪き頭を下げる。
「ったく…そろそろもう少し上手くやれんのか」
「無理です」
「無理ですね」
跪いたまま隣を盗み見ると目線が合ってしまった。舌打ちしそうになるのを何とか思いとどまり、思いっきり顔を逸らす。火影様の深いため息が聞こえた。
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