ご指名入りました
「………は?」
耳を疑う内容に思わず間抜けな声が出た。火影様の隣に居るシズネさんとサクラも気まずそうな表情だ。
「レイちゃんも困るだろうと思って他にも色々紹介したんですけどね……」
「向こうさんがどうしてもレイが良いと言って聞かんのだ」
火影様が項垂れて深く吐息する。日々の業務も大変だというのに私のために尽力して下さったのだろう。疲れ切ったその姿に心が痛んだ。
「分かりました、行かせてください」
「行ってくれるか」
「火影様の顔を汚すことにならぬよう精一杯やらせていただきます」
暗部の面を取って跪く。
「すまんな…今回のこの任務は暗部ではなく一忍びである水無月レイとして受けてくれ」
「承知しました」
深く頭を下げた私は気づいていなかった。
綱手様が疲れていたのは昨日賭け事で大負けしただけということに。そして外でアスマ先生が聞いていたということに。
風で捲き上った砂がゴーグルに勢いよくぶつかる。見渡す限り砂の大地。里の入り口には三兄弟が待ち構えていた。
「相変わらず速いな」
テマリが目を細める。私はゴーグルを外して三人の前に立った。ちなみにこのゴーグルは彼女に貰ったものだ。
「何故推薦なんてしたんだ、他にもっと適任がいただろう」
里に続く道を連れ立って歩きながら苦言を漏らす。前を歩く三人は顔を見合わせた。
「剣術といえばお前じゃん?」
「移動に時間もかからないし砂の里にも慣れている」
「レイ以上の適任なんていないだろ」
当たり前のことを聞くなと言わんばかりの真顔。
「……この里に慣れたのはお前たちがしょっちゅう指名するからだ」
せめてもの反抗を試みるが全く効果がなさそうだ。テマリは私の頭を力強くかき乱した。
「そう言うなって」
「私はただの暗部だぞ」
「今は木の葉の水無月レイ、なんだろう?」
我愛羅が振り返る。この無表情の中に色んな感情が宿っていると気づいたのはいつからだろう。今は自信満々といったところか。
「人に教えたことなんかないんだ…どうなっても知らないからな」
再び一矢報いようとするがそれも無駄に終わった。
この度の任務は砂の忍者育成機関で剣術の講師を一日して欲しいというもの。そりゃあ同期の中で私が一番剣術に時間を費やした。しかしそれは同期の中での話であって木の葉や砂の忍び全体としてはまだまだ若輩者に過ぎない。にも関わらず呼ばれたのが何より気に食わなかった。
目の前に座る子供たちと出来る限り目を合わせないよう気をつける。目が合ってしまったら最後、キラキラしたその瞳から逃れられそうにない。
私の言葉をじっと待っているその姿はいじらしい。しかし。もともと人見知りである私が人前で話すなんて柄じゃない。
逃げたくなるのをぐっと堪えて子供たちの後ろに立っている彼らを見る。ただ無言で頷かれた。いや、そうじゃない。
空は青く雲ひとつない。雲は良いなと思わせる隙すら与えないということか。案外生きづらい世の中だ。ただ空を眺めてばかりもいられない。覚悟を決めた私は大きく息を吸った。
「……まず、授業を始める前に剣術について質問を受け付ける。何かあれば挙手してくれ」
言い方が堅苦しかったのだろう、テマリが「笑え」と口パクをしている。カンクロウは呆れているし我愛羅は何故が少し嬉しそうだ。
そんな中、一つの手が上がった。
「あの……ぶっちゃけ剣術って古くさいしダサくないですか?」
心から切に思う。木の葉に帰りたい。更に欲を言うならシカマルに会いたい。
授業が終わり子供たちが帰った後。どっと疲れが押し寄せた。地面に腰を下ろし一息つく。
「なんとかなったじゃん」
「最後は生徒たちも楽しそうだったしな」
カンクロウとテマリはどこか嬉しそうだった。
一時はどうなるかも思われた剣術の特別授業だったが、子供たちは徐々に慣れてくれて最後は「レイ先生!」と呼んでくれるほど。教師の醍醐味とやらを少し味わえた気がする。ただ妙な達成感がむず痒かった。
ふと、我愛羅が地面に落ちていた刀を拾い上げる。そしてそのまま構えた。もしや、と思い顔が引きつる。
「オレも…レイ先生にご教授願いたいものだな」
我愛羅が珍しくニヤリと笑った。嫌な予感しかしない。途端にカンクロウやテマリも嬉々として刀を拾い始める。対する私は段々と気分が落ち込んでいった。
「名案じゃん」
「面白そうだな。私も混ぜろ」
「………勘弁してくれ…」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる三兄弟。私はがっくりと項垂れる他なかった。
「刀すら人並み以上に使えるなんて聞いてないぞ」
肩で息をする三人を見下ろして吐息する。あと少し私が疲れていたらバッサリやられていたかもしれない。それほど三人は剣術を使いこなしていた。
「……嫌味か」
「三人連続で相手して息乱さないあんたに言われたくない」
「……バケモンじゃん」
この特別授業は評判が良かったため度々頼まれる事になるのだが、この時の私が知るよしもない。
木の葉に帰ると火影室で第10班の面々が待ち構えていた。
「レイ!お見合いしたってホント?!私を差し置いて何やってんのよ!」
「お見合いで美味しいもの食べれた?」
「おいレイ、怒らねェから全部話せ、今すぐにだ」
鬼気迫る表情を浮かべる三人。話が全く見えない。どういうことかとアスマ先生を見るが困ったように頬を掻いて見せた。
「……待て、何か勘違いしてないか?」
「誤魔化すんじゃないわよ!レイが結婚だなんて許さないからね?!いーい?だいたいねぇ」
クドクドと話し始めるイノを横目に火影様に視線を送る。これは私が何を言っても聞き入れてもらえそうにない。シカマルは無言で影真似まで使って私を拘束している。頼りのチョウジすら心配そうに私を見ていた。もちろんポテチ片手に。
火影様が深く深くため息を吐いた。