「レオルモン、近い…」
「寒いんだから仕方ないだろ!」
ルルの言う通り、一人と一匹の顔の距離はほぼゼロ。レオルモンはいつもの肩ではなく、ルルの首に巻きついていた。
先頭を見ればゴマモンとガブモンが意気揚々としているのが見える。
デジモンによって寒暖の得手不得手があるのだろう。ルルはサバンナ地帯にいた時の生き生きとしたレオルモンを思い出した。
「寒いよ〜…」
「萎れちゃう…」
寒がっているのはレオルモンだけではない。前を歩くタケルとパルモンが身震いしている。同じ様にパタモンもミミも寒さで震えていた。
子供達が歩けば歩くほど、どんどん気温が下がっていく。寒冷地に向かっている様だ。
寒さで気分が落ち込んでいる一行に息を吹き返させたのは太一だった。
「雪が降ったら雪合戦できるぜ!」
その一言からどんどん楽しみが広がる。カマクラを作ろう、雪合戦で勝負しよう、様々な妄想が広がる中、丈は一人深刻な表情だった。
「ルル!雪合戦一緒にやろうね!」
「うん、雪だるまも作る?」
「もちろん!」
太刀川姉妹が楽しそうに話していると、レオルモンは嫌そうな顔をする。
「雪なんかに触ったら寒くなるだろ…」
小さく呟いたつもりだったがミミには聞こえていたらしい。嫌味ったらしくニヤリと笑う。
「じゃあレオルモンは一人で震えていればー?」
「なにおー?!」
少し前の喧嘩が尾を引いているのか、未だ両者険悪ムード。ルルとパルモンは同時にため息を吐いた。
そうこうしている間に本当に雪原地帯に来てしまった。後ろはムゲンマウンテン、前は雪原。
進路方向に皆が悩んでいる中、ミミ、タケル、パルモン、パタモンは真っ白な雪の上へ駆け出す。もちろん、ミミに腕を引かれたルルも一緒だ。レオルモンはというとルルの肩から落ちない様、必死にすがりついている。何が何でも雪に触りたくないらしい。
「ちょっと待って…なんか変な匂いが…」
ふと、アグモンが異臭に気がついた。他の者も鼻をヒクつかせる。異臭の元をいち早く突き止めたのは光子郎だった。2番目に気づいたのはピヨモン。
「あ!あれだ!」
「煙が出てる!」
異臭と煙で導き出された答えは…
「そうか!この匂いは…」
「温泉だ!」
温泉、その響きにミミ達はピタリと動きを止めた。急に止まったため、引っ張られていたルルはミミの肩に鼻をぶつけてしまう。
「いたた…」
「「温泉?!」」
皆歓声をあげ、異臭の元に走り出した。ミミは我先に行こうとルルの手を離す。ルルはようやく解放され、肩を回した。その手で落ちそうなレオルモンを抱えやる。
「温泉ってなんだ?!」
「簡単に言えばお湯かな」
「あったかいのか?」
「そうだね」
ルルは置いていかれない様、最後尾を走りながら答えた。するとレオルモンも先ほどのミミ達の如く動きを止める。次の瞬間にはキラキラと目を輝かせた。
「本当か!なら急げルル!」
「もう、人使い荒いんだから…」
「おーねーがーいー!」
「はいはい…」
たどり着くと、そこは温泉とはとても呼べそうにない所だった。なんと沸騰していたのだ。人が入ればユデダコ状態になってしまうこと間違いない。
ただ子供達の期待は裏切られたが、雪原より暖かく過ごしやすい場所であることは確かだ。
しかも冷蔵庫まで完備されている。丈は「非常識だ!」と豪語するが、多数決でその冷蔵庫の中にあった卵が夕飯がわりになった。
「「いただきまーす!」」
「いただきます…」
子供達の元気な声に続いて覇気のない声が続く。ルルは元気のない丈を横目で見るが、何事もなかった様に目玉焼きを頬張った。
「うん!上手い!こんなマトモな飯、久しぶりだよ!」
「これで白いご飯があれば言うことなしだな!」
「ほかほかご飯にゆで卵ー!」
「良いわねえ」
楽しそうに食事をするみんなに比べ、箸が進まない丈。隣にいたゴマモンがそれに気がついた。
「なんだ、丈、食べないのか?」
「ああ…うちに帰ればこんな苦労しなくていいんだなと思ってさ…」
何気なしに呟かれた言葉は子供達に突き刺さる。
「あたしお家に帰りたい…」
「お姉ちゃん…」
ミミから本音が漏れた。ルルが寄り添うが表情は晴れない。
タケル、光子郎と学年が低い子から不安そうな声が次々上がる。
「皆んなどうしてるかな…」
「あれからもう四日も経ってるんですよね…」
丈はようやくこの空気を作ってしまったのが自分だと理解した。
暗い雰囲気になりかけたが、空が機転を利かせ、別の話題を持ちかける。
「ねえ皆んな、目玉焼きには何かけて食べる?」
丈は塩コショウ。太一は醤油。ヤマトはマヨネーズ。空はソース。光子郎はポン酢。
光子郎の珍しい答えに皆引き気味だったが更にドン引きする答えが待っていた。
「え〜…皆んな変よ!ねえルル?」
「う、うん」
ルルは珍しく歯切れが悪い。その上目が泳いでいる。
「やっぱり目玉焼きっていったらお砂糖よね!あたしその上に納豆のっけたのもだーい好き!」
想像しただけでも恐ろしい組み合わせに一同愕然とした。
「納豆…」
「それ変すぎだよ…」
「…ルルもそうなのか…?」
空とタケルが非難の声を上げる。ヤマトは恐る恐る、少しの希望を持って問いかけた。隣の太一も固唾を飲んで見守る。
「まあ、そうですね…」
ルルは申し訳なく答えた。
実際はミミや両親に「これの方が絶対美味しい!」と押し切られその組み合わせで食べるしか選択肢がないだけなのだが。
そうとは知らないヤマト達は引きつった笑いを浮かべるしかなかった。