あわゆきの知らせ



その年の夏は地球全体がおかしかった。東南アジアでは全く雨が降らず水田が枯れ、中東では大雨による洪水が発生。アメリカでは記録的な冷夏となった。

「あぁ…!」

先ほどまでご機嫌で花を眺めていたミミが突然声を上げた。近くの木陰で見守りつつ、ついうとうとしていたルルは顔を上げる。

「虫でもいた?」
「ううん、空から雪が降ってきたの!」
「雪?」

空を仰いで見るものの雲一つなく、サンサンと照り続ける太陽しか見当たらない。しかしここで否定すればお姫様気質の我が姉が拗ねるのは目に見えているため、ルルは笑って答えた。

「たくさん降ったら雪合戦できるかもね」
「わあ!雪合戦!楽しそう!!」

きゃっきゃと騒ぐ姉にやれやれと苦笑したルルだったが、目の前を白い何かが通り過ぎた。思わず目を見開く。ふわふわしたそれは膝元に落ちると融けるように消えた。

再び空を見上げると次々に雪が降って来るのが見える。急に肌寒くなってきた上にだんだん風も強くなってきた。
ルルはミミの元に急いで走り、腰に巻いていたパーカーを肩にかけてやる。

「さむーい!これじゃ雪合戦できないじゃない!」
「風がやんだらできるよ。だから風邪ひく前にどこかに避難しよ?」
「絶対?」
「絶対」

その言葉が効いたのか、ミミは「わかった、ルルに着いてく」と小さく呟いた。ルルはそれをしっかり確認するとミミの手を引いて走り出した。

「ちょ!ルル!走るなんて聞いてない!走るのイヤ!!」
「急がないとお姉ちゃんが風邪ひくから!風邪ひいたら遊べないよ?いいの?」
「それもイヤー!」
「じゃあ少し我慢して。直ぐそこに祠があったからそこで休もう」

次第に雪は吹雪となり、視界が狭まり息が苦しくなってくる。やっと祠に着いた頃には二人とも疲労困憊だった。

祠の引き戸を開けると中には見知った先輩や同級生がいたため、一安心して中に入り後ろ手で引き戸を閉めた。

▽▲▽


サマーキャンプ引率の先生が子供たちを非難させている中、祠に取り残された8人は静かに吹雪が止むのをひたすら待っていた。

しばらく経つとガタガタ鳴っていた引き戸の音も止み、外の音も聞こえなくなった。

「止んだのかしら…?」という空の声に反応して皆一斉に顔を上げた。

いち早く動き出したのは太一だった。ガラッと勢いよく引き戸を開けると目の前に広がるのは一面銀世界。

「やっと止んだみたいだな!」

その声を皮切りに次々と子供たちは祠を飛び出していく。ミミも目をキラキラさせて立ち上がった。

「ルル行こっ!!」

ミミはルルと繋いでいた手をするりと抜き、丈の脇を通り過け、銀世界に飛び出して行った。

ルルは「しょうがないなあ」と苦笑しゆっくり立ち上がる。
祠に残されたのはルルとパソコンを広げている光子郎のみ。

「光子郎くん、先行くね」
「あ!はい!」

祠を出るとミミは見慣れない男の子と一緒に雪の上を駆け回っていた。さっきまで「お家に帰りたい!」と泣きそうになっていたのはどこの誰だっけ。

祠の屋根の下でミミの様子を見守っていると太一達が歓声を上げミミ達も足を止めた。ルルも何事かと見上げるとそこには空を横切るように揺らめく自然のカーテン、オーロラの姿があった。一度はテレビや本で見た事はあるものの、直接観るのは誰しも初めてだ。

「光子郎!早く来いよー!」

太一が叫ぶ。祠から慌てて飛び出してきた光子郎の後に続いてルルもミミのもとに歩き出した。

「うわあ!綺麗!見て見てルル!ロマンチックぅ!」
「良かったね、お姉ちゃん」
「うん!あ!そうだ!後でルルも一緒に雪ダルマつくろっ!」
「いいよ、折角だしね」

隣に並びあって呑気に笑い合う二人の脇ではオーロラ現象のおかしさについて問われたり、キャンプ場に戻ろうという提案がなされていたのだが、二人は知る由もない。

その時、オーロラの向こうに何か見つけた太一は唐突に声を上げた。

「おい!あれ…!!」

次の瞬間、オーロラの奥にあった黄緑色の渦から隕石の様に何かがいくつも8人に降り注いだ。

「みんな!怪我はない!?」
「なんとかな…」

空の呼びかけにヤマトが答えた。どうやら怪我をした人はいないようだ。
ミミを庇ったルルはそっと彼女の上から退いた。ミミを起こしてやり、テンガロンハットに乗っていた雪を払う。

「びっくりしたぁ…」
「怪我ない?」
「大丈夫!ルルが守ってくれたから!」
「なら良かった」

元気そうな姉の姿にほっと息を吐く。
好奇心旺盛な光子郎は隕石らしき物が埋まっている穴を覗きこんだ。

「隕石…?…えっ!?」

すると光り輝く物体がその穴から浮かびあがって来た。しかも人数分、それぞれの手元に。
太一に続いて皆思い切ってつかみ取れば光は収まり手に収まったのは小型の機械。

「何?これ…」
「ポケベルでも、携帯でもないし…」

空と光子郎の言葉に皆心の中で同意した次の瞬間、手元の機械の画面が緑色に波打ちだすと子供たちの前に突然緑色の波が現れた。

近くに海などないのにどうして…と思った時には皆叫び声や悲鳴と共にその波に呑まれ、波の狭間に深く落ちていったのだった。

ルルはミミの手を離してしまったのを激しく後悔しながら意識が遠のいていくのを感じ目を閉じた。

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