「ん……」
ぼんやりとした意識の中でルルは身じろいだ。地面に横になっているらしく少し背中が痛む。
「あっ!ルル!起きたか!?」
「うん…今起きるから待ってお姉ちゃん」
ゆっくり瞼を開けると光と共に目に飛び込んできたのは青い毛の何か。意識が覚醒していくにしたがって色々おかしい事に気づく。
お姉ちゃんはこんな声じゃない…それにこの目の前にある青い毛玉は何だ。ルルは勢いよく体を起こすと座ったまま後ずさった。
「な…な……!?」
「ボク待ちくたびれた、ルルのねぼすけ〜」
青い毛玉を良く見れば耳としっぽが生えており、猫のような風貌であることが分かった。野次るように口元が動いていることからさっきの声の主がコレであることは間違いない。
ルルはとりあえず深呼吸し、しっかり瞬きをしたものの変わらず青い毛玉がこちらを眺めていた。これが現実である事は変わりないらしい。
周りを見渡すと見たことのない植物ばかり。そしてこの近くにはミミの姿がない。もしやこの訳分からない場所に一人なのだろうか、と恐ろしくなり身震いした。
「ルルどうしたの?」
「何でもな…」
思わず得体のしれない物に答えそうになり口を閉じた。
耳をピョコピョコ、しっぽをユラユラさせ大きな黄色の瞳はまっすぐにこちらを見つめており、悪意や敵意は見えない。
「君は何者なの?」
「ボク、ワニャモン!ルルを待ってた!」
「待ってた…?ここで私を?」
「そうだ!」
以前会った事があったかと記憶を振り返って見るものの、こんな存在感ある生き物を忘れるわけない。
「会ったのは初めて…だよね?」
「そう!」
「じゃあ何で私の名前知ってるの?」
「さあ?」
分かんないと言われてしまえばどうしようもない。仕方なくこの件は保留にすることにした。
「じゃあここはどこ?」
「ファイル島だよ」
ワニャモンの口から出た地名は全く聞き覚えのない地名であった。それもそのはず、ここはデジタル世界なのだから。しかしそんなことをこの頃のルルが知るはずもない。
ルルは聞いたことのない地名に困惑した。いや私が知らないだけかもしれない、ただ日本じゃないのは確かだと結論付ける。
「君は何ていう生き物なの?猫?」
「何それー、ボクはデジタルモンスター!」
「デジタル…モンスター?」
また聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべる。ただモンスターというにはいささか可愛すぎるのではと密に思った。
「まとめると、ここはファイル島。君はデジタルモンスターのワニャモンで私の事を待っていた…そういう事?」
「そう!ルルにずっと会いたかったんだ!」
大きな目を細めて笑うワニャモンにルルは思わず手を伸ばし頭を撫でてしまう。ふわふわした毛並みは本物の猫のようで、撫でている手にすり寄って来る様も猫そのものだ。
「そっか…ワニャモン、こんな私をずっと待っててくれてありがとう」
「へへっ」
褒められたのがうれしかったのかさらにすり寄って来た。このままほのぼのしているわけにもいかず、ルルはワニャモンを抱き上げ立ち上がる。
「ルルどうした?」
「このあたりに他に人間はいなかった?」
「ニンゲン…?ルルみたいな?」
「うん」
「うーん…見てない!」
「そっか…」
望みは薄いかもしれないが捜してみる価値はある。それにこの世界に人間が私一人だとしてもこのワニャモンがいれば何でも乗り越えられる、そんな自信がどこからともなく湧いて来るから不思議だ。
ルルが歩き出そうとするとワニャモンはピョンと腕の中から飛び出した。
「ニンゲン探す?じゃあワニャモンに任せて!ボクすっごく耳が良いんだ」
ワニャモンは大きな耳を小刻みに動かし始めた。すると突然しっぽがピンと張りワニャモンが叫んだ。
「あっち!」
叫んだと思ったら飛び跳ねながら林の中に消えてしまった。あまりの速さにあっけに取られてしまったが慌てて追いかける。
「ワニャモン!待って!」
「ルルこっちだよー!」
「待って…速いってば……」
やっと追いついたと思えば、ワニャモンの奥にいるのは今一番会いたかった彼女だった。
「ルル!」
「お姉ちゃん!」
やっとの再会にしっかりお互い抱きしめ合う。ルルはミミの肩越しにワニャモンとはまた別の生き物がいることに気づいた。
「怪我ない?大丈夫だった?」
「うん…ルルがいてくれて良かったぁ…あ!」
ミミもワニャモンに気づいたのかルルから離れワニャモンに近寄った。
「あなたのお名前はー?」
「ボク、ワニャモン!」
「かわいいー!ふわふわしてるー!猫みたーい!」
相変わらずの自分の姉にルルは苦笑するものの、いつも通りの様子に少し頬が緩む。彼女の適応力の高さに舌を巻くのはいつものことだ。
「そっちの子は?」
「タネモンっていうの!可愛いでしょ!」
ミミに抱き上げられたタネモンは頭にある双葉を揺らして見せた。
「君もデジタルモンスターなの?」
「うん」
「デジタルモンスター…?なぁに?それ」
「お姉ちゃん…むしろこの生き物なんだと思ってたの…」
「いいじゃない!可愛いんだから!」
能天気な姉は堂々と言ってのける。それに対して、ルルは頭を抱えそうになったのだった。