ルルは姉にここがどこなのか、ワニャモンたちが何者なのか、今一度説明した。ミミは分かったような分かってないような微妙な顔をしていたがとりあえず納得はしたらしい。
「じゃあ…お家に帰れないの!?」
ミミはタネモンを抱きしめたまま涙目になった。両肩に手を置き、力強く瞳を見つめる。
「大丈夫…絶対私が…お姉ちゃんをお家に帰してあげる。約束するから泣かないで」
「絶対?」
「絶対」
しばらく二人の間に沈黙が訪れた。ミミの涙を拭ってやり顔を見合わせる。どちらともなく笑顔を浮かべた。
「二人で一緒に帰ろうね」
姉の言葉にルルは虚を突かれた様子で目を見開き固まる。何か言おうと口を開いたその時。
「来る!」
ワニャモンが空に向かって叫んだ。ただ事じゃない雰囲気に二人と二匹の間に緊張が走る。耳を澄ませば遠くから不気味な音が近づいて来た。
「この音…クワガーモンだ!ルル逃げよう!」
「くわがーもん……?」
「クワガーモンはすごく凶暴なデジモン!ミミ逃げなきゃ!」
二匹の慌てた様子にルルは冷静にミミの手を取った。
「お姉ちゃん逃げるよ!」
「う、うん!」
「ワニャモン、どっちに逃げればいい?」
「こっち!」
ワニャモンの後に続こうとしたその刹那。木々の倒れる音と共に上空に姿を現したのは大きな赤いクワガタのような生き物で、大きさはワニャモンやタネモンとは比にならない。
「きゃああああああああっ!!」
ミミが場を切り裂くような悲鳴を上げた。ルルは予想以上の禍々しさと大きさに呆気に取られていたが、直ぐに手を強く握り直し走りだす。タネモンはどうやら二人より早く動きだしていたのか二人の前を走っていた。
「ルル!こっちこっち!」
「分かったから!前見て走って!危ないでしょ!」
ルルはいつも自分の姉に注意するような事を言ってしまったがそんな事気にしている余裕もない。背後の音はどんどん近づいて来る。走っていく内に少し開けた場所に出た。
「もういやあっ!!」
「お姉ちゃん頑張って走って!」
必死にミミを鼓舞するものの、自分も限界が近かい。いざとなったら。そんな考えが頭を過ったその時。前方から聞きなれた声がした。
「ミミちゃん!」
「ミミ君!」
「ルル!」
「ルルさん!」
仲間の姿に一安心できたがそうも言っていられない。背後では再び木々の倒れる音と共にクワガーモンが姿を現した。
あと少しで皆の元に辿り着ける、というところでミミが膝から崩れ落ちた。座り込んでしまったミミにタネモンが近寄る。
「ミミ、大丈夫?」
「うん…タネモン…」
空が立ち止まってしまった二人と二匹のもとに駆けよって来た。
「しっかりして!」
「空さぁん…」
空の言葉にミミはまた泣きそうになった。しかし現実は待ってくれない。上空ではクワガーモンがこちらに狙いを定めていた。
「また来るぞ!」
「立って!」
「お姉ちゃん行くよ!」
太一の声に皆再び走り出した。空とルルもミミを無理やり立たせる。
しかし子供の足では限界があるためすぐに追いつかれてしまった。
「伏せろ!!」
最後尾を走っていたヤマトの掛け声で一斉に倒れ込む。その直後、子供たちの頭上スレスレをクワガーモンが通り抜けていった。
「いったいここはどういう所なんだぁ!?」
丈が悲痛な叫び声をあげる。しかしクワガーモンは再び戦闘態勢を整えこちらに向かってこようとしていた。
「「また来る!」」
気配に鋭いピョコモンと音に鋭いワニャモンの声が重なる。すると太一は立ち上がりクワガーモンがやって来るであろう方向に向かって叫んだ。
「くそぅ!あんな奴にやられてたまるか!」
「太一!無理よ!」
ルルと共にミミを起こしていた空が反論する。
「そうだ!俺たちには何の武器もないんだぞ!」
続いて反論したヤマトをタケルが不安そうに見上げる。
「ここは逃げるしか…」
光子郎も起き上りながら太一を説得する。
「そうだな…よし!皆こっちに逃げるぞ!」
太一は気持ちを切り替え、持ち前のリーダーシップで先導しながら走り出した。
ルルも再びミミの手を引く。今日だけで何度この手を引っ張っただろう。横目でデジモン達の様子を見ると、やはり疲れの色が見え始めていいた。
しばらく走っていると突然、妙に視界が開けた。
「「ああ!」」
目の前には道がない。絶望的な景色に誰しも言葉を失った。