年長さんになっても私とテツ君は常に一緒だった。
休みの日はめいちゃんの家かテツ君の家にお邪魔する事が多い。そう、つまりテツ君以外の友達はできませんでした。まあ幼稚園では天才を貫いたし、美少女だから仕方ない。
小学校からはチートモードに気をつけてほどほどにやるつもりだ。
それはひとまず置いといて。
今日はテツ君の家に遊びに来た。テツ君の家は一軒家で家族はご両親とテツ君と三つ離れた弟が一人。
この弟君、将司君といってとっても可愛い。今はワガママお姫様めいちゃんもこんな可愛い時代があったよなーと思う。月日の流れの速さを感じた。私、もうこの世界で5年目なのか。
お昼寝をしているマサ君(名前で呼んでいたらテツ君のお母さんが寂しそうにしていたのであだ名を付けました)から少し離れた所で、テツ君と何して遊ぼうか考える。
ふと目に入ったのは将棋盤。聞けばテツ君のお父さんが少しやるのだそう。
「テツ君、将棋やろう!」
「ルール分かんない…」
「教えるから!そしたらお父さんとも遊べるよ」
その瞬間、テツ君の綺麗な瞳が一層輝いた。彼の父親は厳格であまり子供と遊ぶようなタイプではない。けれどテツ君としてはやはり共に遊びたいのだろう。
簡単にルールを説明し、始めると直ぐ勝負が着いた。さすがに現役幼稚園児に負けるわけがない。
するとテツ君は不思議な表情をし始めた。初めて見るその表情に思わず戸惑う。
「もう一回…」
か細い声でテツ君はそう言った。
あー悔しかったのか。今度は圧勝しないようにしよう。
2局目は私の意図した通りの結果になった。それでもテツ君の表情は険しさを増すばかり。うん、これは負けてあげないと晴れないのかもしれない。
3局目。テツ君はようやく勝てたというのに嬉しそうではない。
「テツ君、どうしたの?嬉しくないの?」
「シロが…シロが手抜いたから」
私は衝撃を受けた。見抜かれていた事、己の未熟さを痛感する。彼は私に真剣勝負を申し込んでいるのだからそれに答えてやらるべきだった。
「…ごめん」
「次、手抜いたら怒る」
将棋の駒を並べ直しながら彼の怒った姿を想像してみる。うん、可愛いだけだな。
友達第一号に嫌われたらさすがに心が折れるので、真摯に向き合う事にした。結果、10戦10勝。まあ分かってましたとも。
さすがに勝ちすぎたかな、と俯いているテツ君の顔を覗き込む。すると彼は目に一杯の涙を溜めて盤上を睨みつけていた。私はギョッとして固まってしまう。
彼の涙目は今まで見たことがない。幼稚園児なのに全く泣かないのでどこかのワガママ姫に見習ってほしいと思ったくらいなのだから。
「テ…テツ君…?」
戸惑いながら声をかけても返事はない。しばらくして彼は顔を上げた。
「もう一回…おねがいします」
彼の頬に一筋の雫が伝う。瞳には力強く私を映していた。