ヘラヘラと笑ったまま頭を下げる芦戸、マントを広げて項垂れる青山、目を閉じたまま拝んでいるさらさ。
「何やってんだ、アイツら」
「前途多難だな……」
上鳴と常闇が呆れ半分にそう呟いた。その言葉に誰一人として反論できない。
「芦戸と青山二人だけでも連携ヤバそうだってのにそこに遊砂だもんな……」
「アイツ今日話してみて思ったけどなんかボケーッとしてるよなぁ、爆豪に喧嘩吹っかけてた奴とは思えねーよ」
「それに戦闘五分前に居眠りできるって逆にすげーよな」
上鳴、切島、瀬呂が口々に言う。“居眠り”という言葉に反応した飯田が「居眠り?!また遊砂さんは授業中に居眠りをしていたのか!全く!彼女は雄英生としての自覚が…」云々と凄い声量で言い出したので全員が耳を塞いだ。
そんな最中、轟はモニターを見ながら先ほど言われたさらさの言葉を思い返していた。彼の口角がわずかに上がる。
「(上等じゃねェか)」
その後、芦戸による野生の勘でビル内を進み、偽核兵器と敵がいるフロアにたどり着いた。しかしそこからはなかなか進展せず。さらさたちは苦戦を強いられていた。
初っ端のマント事件で意気消沈してしまった青山はただ呆然と突っ立っている。そんな彼の相手は青山の心配をしつつ様子を伺っている口田。戦闘が始まりそうな兆しが全く感じられない空間が出来上がっていた。
砂藤と対峙する芦戸は体格差のせいで拳があと一歩届かない。砂藤は逆にリーチを生かして芦戸の溶解液を避けながらテンポ良く攻撃してくる。
さらさは近くに転がっていた瓦礫を分解し、芦戸のサポートをしていた。しかしこのままでは拉致があかない。手っ取り早く敵役二人か核兵器を砂で捕まえてしまいたいのだが圧倒的な砂量不足。ここにきて“ビルを壊してはいけない”というルールに苦しめられていた。
残り2分を切った頃。砂藤が一旦攻撃をやめ、糖分補給をし始めた。きちんと核兵器の側に戻っているあたり考えなしではないらしい。それをチャンスと捉えた芦戸は駆け出そうと一歩踏み出すが、それを砂の壁が阻んだ。
「ちょっと!今イイトコなのに!」
「今行ったら核兵器持って逃げられる」
「ならどうすんの!時間もないよ!青山は使いもんにならないし!」
砂で防御壁を作りつつ芦戸との距離を縮める。砂藤の様子に気を配るのも忘れない。
「30秒……30秒後にアイツを核兵器から離れさせてほしい」
芦戸は口を開いたものの、直ぐ閉口した。目の前にいる普段はポケッとしている友人が今は有無を言わさせないほど強い瞳をしていたからだ。
「分かった、やってみるよ」
芦戸が頷くと目の前の砂が晴れていく。芦戸の視界がはっきりと砂藤を捉えた。砂藤も糖分補給が終わったらしく戦闘態勢に入っている。
さらさはもう一度核兵器の位置を確認してから走りだした。向かう先は階段。砂藤が追おうとするがそれをすかさず芦戸が引き止める。
この時『敵前逃亡か』とか『男らしくねーぞ!』とモニタールームで野次が飛んでいたんだとか。
勢いよく階段を駆け下り、一つ下のフロアにたどり着くと一点に向かって走り出した。そこは天井からサラサラと溢れる砂が降り積もっている。これはさっき見た時に核兵器の床の一部を分解した時のもの。そこを支点にして分解を進めていく。
残り10秒、5秒、4、3、2、1。
「さらさーーーーっっ!!!いっけぇええ!!.」
芦戸の叫び声と共に目を見開いた。分解したコンクリートを操作して蟻地獄のように核兵器を回収する。ポンとそれにタッチしたその時、タイムアップのベルが鳴った。
モニタールームに戻ると休む間もなく、さっそく講評が始まった。八百万によって各々の反省点が告げられる。またしてもオールマイトの出番はほぼなかった。
青山の役立たずっぷり。口田の優しすぎる気遣い。砂藤は時間ギリギリの油断。さらさは他の敵がいない前提のズサンな作戦を指摘され……
そして野生的勘でチームを敵の元へ導いたこと、果敢に挑んで行ったことなどを評価された芦戸はベストと称された。
酷評された四人はズーンと落ち込み、評価された芦戸は「やったあー!」と飛び跳ね回る。
こうして初めてのヒーロー基礎学、屋内対人戦闘訓練は幕を閉じたのだった。
保健室に運ばれた緑谷以外のA組の面々は着替えを済ませ午後の訓練を受け終えると、教室で帰り支度を始めた。
「遊砂」
早々と支度を終え、ウトウトしていたら斜め右前から声がした。視線を走らせると轟がこちらに体を向けて座っていた。今度は何を言われるのだろうかと少し身構える。
「お前、どこか調子でも悪ィのか」
パチクリ。予想外の言葉にもう一度瞬きをした。
何故そんなことを彼が聞いてきたのか。不思議に思いながらもふるふると首を振る。
「そうか」
轟はそれだけ言うと前に向き直った。一体全体なんだというのか。首を傾げているとそこへ相澤が教室に入ってきた。
前に向き直った轟は相澤の言葉を聞きながら考えに耽った。
彼の脳裏に蘇るのは室内対人戦闘訓練の際に個性を使うたび怯えの色を帯びる彼女の瞳。あれは個性を使うのを怖がっているのか、はたまた個性を使うのが本意ではないのか。
轟は己の左手に視線を移す。個性のあれこれは立ち入った話になる場合が多い。己自身もそうであるように。ただ……自分と重ねてしまい、轟にはさらさの抱えている何かがどうも他人事には思えなかった。
HR後、切島らが「反省会をしようぜ!」などと盛り上がる中、さらさは一直線に葉隠の元に向かった。
「あれ?さらさちゃん、そんなに慌ててどうしたの?もしや意外と反省会やる気満々……」
「行こう」
「え?」
戸惑う彼女を他所に腕を掴んで歩き出す。クラスメイトが引き止める間も無くピシャリと扉が閉まった。教室内にいた一同はあっけに取られ、一瞬の間が空く。
「なんだあれ、連れションか?」
「まあカバンあるから戻ってくるでしょ」
上鳴は耳郎の言葉に「それもそうだな!」と大いに頷いた。
さらさが有無を言わさず葉隠を連れて行ったのは保健室。扉の前でようやく掴んでいた腕を離した。
「………さらさちゃんよく気がついたね、私透明なのに」
「いつもより歩くスピードが遅かったから」
葉隠にがしりと両手を掴まれるとブンブンと振り回される。
「すごい!凄すぎるよ!さらさちゃんカッコ良すぎるよ!彼氏みたい!」
何故か興奮気味の彼女に気圧されてしまうが、ほんのりと温かい気持ちが心を侵食していく。
その後、「何を入り口でごちゃごちゃやってるんだい!さっさと入りんさい!」と保険医であるリカバリーガールに怒られたのだった。