芦戸はアタッシュケースからコスチュームを取り出すと目をキラキラと輝かせる。先程オールマイトから各々に渡されたコスチュームは入学時に提出した被服控除の書類通りに作られていた。
「ホントに書いた通りになってる!すっごいなーこれ!」
「実際に手にすると感動するな、これは」
芦戸と耳郎が早速着替え始め、他の者もそれに続いて制服を脱ぎ始める。そして一番最初に着替え終わったのは葉隠だった。
「着替え終わったー!」
「え?それだけ?」
「うん!個性を一番活かせる方法考えたらこうなった!」
葉隠が身につけているのは手袋とブーツのみ。しーんと更衣室内が静まり返った。当の本人は不思議そうに首を傾ける。
「もしかして……似合ってない?!」
「いや、似合うも何も……」
隣にいた耳郎が顔を明後日の方向に向けた。透明とはいえ見てはいけない気がするのは何故か。皆が言い淀んでいると明け透けに口を開いた勇者がいた。
「透ちゃん、手袋とブーツ以外何も着てないの?」
「「(梅雨ちゃんイッターーー!!!)」」
「うん!裸だよ!」
葉隠はぐっと握り拳を両手で作ってみせる。透明人間としては当然の事なのだろうけど女子としてはどうなのか。
「梅雨ちゃんのもダイバーみたいで可愛いね!」
「うん、緑がいい感じ」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」
葉隠とさらさに蛙吸ははにかんだ。
「ってヤオモモも凄いね!」
芦戸の言葉で着替え終わった八百万に全員の目線が移った。耳郎が羨むように呟く。
「発育の暴力……」
「響香ちゃんのもパンキッシュで素敵よ」
「クールだ!カッコイイ!」
「あ、ありがとう」
蛙吸と麗日の褒め言葉に耳郎が顔を赤くする。褒められるのが苦手なのか指で頬をかいてそっぽを向いた。
「思ったより布面積が多いですわ」
「それで?!?!結構パックリいってるよ?!」
納得のいかない表情を浮かべる八百万に対して麗日が驚いて目を見開いた。八百万の個性上、仕方ないのだろうがこちらもこちらでどこを見たらいいのか分からない。
「麗日さんのは宇宙服のようなデザインで素敵ですわ」
「書類にちゃんと書かなかったんだけど何か上手く作ってくれたみたい……パツパツだけど」
麗日は照れくさそうに頭に手を置いた。彼女の着替えを手伝っていた蛙吸も「可愛いわ」と褒める。
「アタシのはどうどう?!可愛くない?!」
芦戸が無邪気にその場でくるりと一回転するとビシッとポーズを決める。
「可愛いというか……派手」
「三奈ちゃんぽくてイイと思うわ」
「靴が機能的で素晴らしいですわ」
耳郎、蛙吸、八百万の言葉に芦戸は「でしょーっ?!」と言って再びくるりと一回転して見せる。
「それに比べて……地味だね」
「地味すぎ!」
耳郎と芦戸はさらさを見ながらキッパリ言い放った。二人の言う通り、さらさが身につけているのはゴーグル、黒のブーツ、黒のワンピース型レインコートのみ。ほぼ全身黒の出で立ちはまさに地味。
「でもこのゴーグルカッコいいよ!」
「うんうん!ゴツい感じがイケてるよ!」
「あれ…?これ、もしかして裏表じゃないかしら?」
麗日や葉隠と一緒にさらさのコスチュームをマジマジと見ていた蛙吸がポツリと呟く。さらさはレインコートの裾をめくった。
「……逆だ」
「おいおいマジか」
「もう!仕方がありませんね!ほら遊砂さん!着たままでは無理ですから一度脱いでくださいませ!」
「はーい」
「……はい、これで大丈夫ですわ」
「ヤオモモって何だかんだ面倒見良いよねー」
芦戸の言葉に皆が頷く。八百万によってひっくり返されたレインコートは空を彷彿とさせる綺麗な青だった。
午後からは皆待ちに待ったヒーロー基礎学。オールマイトの指示でA組の面々はコスチュームに着替え、グラウンドβに集まった。
初めて間近で見るオールマイトに生徒たちは皆興奮気味である。勿論、表面上では分かりにくいがさらさも例外ではない。
そんな憧れの彼からその場で基礎訓練なしの屋内対人戦闘訓練を行うことが伝えられた。戸惑う生徒たちを構うことなくオールマイトによってクジでグループに分けられる。
さらさが最後余ってしまったが、それもクジで芦戸と青山のEグループに加わることに。
「らっきー!三人じゃん!」
「僕のマント凄くない?」
「これなら楽勝っぽくない?!相手誰かなー」
「………」
「僕のマントの輝き、凄くない?」
第1戦、第2戦と授業は順調に進行していく。丁度第3戦が始まる所で葉隠と尾白がさらさの元へ帰ってきた。
「いやー!負けちゃったよー!轟くんめっちゃ強かった!」
「あっという間で何も出来なかったよ、葉隠さん、不甲斐なくてごめん」
「尾白くんは悪くないって!」
頭を下げる尾白に対し葉隠は両手を大きく振って否定する。そんな二人に挟まれた状態のさらさはぽそりと呟いた。
「一緒だったら勝てた」
「え?」
「氷は分解できるし……あんなの敵じゃない」
葉隠と尾白にしか聞こえないほどの声量で淡々とそう言うさらさの目はモニターに固定されたままだ。
「さらさちゃんカッコ良すぎるよー!たしかにさらさちゃんの個性なら轟くんでもへっちゃらだね!」
キャッキャと騒ぐ葉隠と対照的に尾白は顔面蒼白状態。
「(轟が物凄い目でこっち見てるよ……遊砂さんも葉隠さんも何で気づかないんだ…!この前も爆豪に平気で喧嘩売ってたし…!)」
3回戦、4回戦が終わりついに最終の5回戦。さらさたちの相手は口田と砂藤のFグループになった。
開始5分前。ビルの前で待機する三人。
「作戦とかどうするー?」
芦戸の問いに誰も何も答えない。青山は仕切りにマントやコスチュームを気にしているし、さらさはこくりこくりと船を漕ぎ始めていた。芦戸はバシッと彼女の後頭部を叩いて話を戻す。
「いっそさらさがこのビル全部ドバーッて砂にしちゃえばいいんじゃない?」
「でも……ビル壊すのは良くないって言ってなかったっけ」
「ビルを壊すのはスマートじゃないね!」
「うーん…ま、いっか!とりま突撃ってことで!」
笑う芦戸にさらさはこくりと頷く。青山はようやくコスチュームの支度が整ったのかマントをバサリと広げてフッと笑った。
『それでは!Eグループ対Fグループによる最終訓練、スタート!』
オールマイトのアナウンスと同時に三人はビルに向かって駆け出した。芦戸は足から個性の溶解液を出し滑るように進んでいく。
ーーーピチャリ
その溶解液が青山の長ったらしいマントに跳ねてしまった。大きくショックを受ける青山に芦戸は「ごめたんごめたん」と苦笑いを浮かべる。隣でちゃっかり避けていたさらさは無言で拝んだ。