rouged lips


「何だかんだ言いながら天音嬢は最善を尽くしてくれる、そういう所が」
「うるさい」
「はいはい…酒井なつきが昨日毒をインターネットで購入してる。おそらく今日使うためだろうな」

しばらくの沈黙が車内に訪れる。
ここから考えなくてはならないのはその毒をどうやって牧さんに摂取させるか。

「牧さんの目を盗んで水に混入させるのは?」
「それだとその水を誰かが貰って他の人が飲んでしまう可能性がある」

「差し入れに混入させておくのは?」
「そしたら犯人が一発でばれちゃうでしょ」

「牧さんが座る席にあらかじめ毒を塗っておく」
「あらかじめ座席は取ってあるけどどこに誰が座るかはまだ決めてない」

あーだこーだと意見を出し合うものの、らちが明かない。時間ばかり経ってしまう。
するとバ怪盗が突然耳元を抑えると「やべーぞ」と声を漏らした。

「…そろそろここに酒井さんと牧さんが来る」
「は?もしかしてこの車…」
「ご明察」

ニヤリと笑ったバ怪盗の顔をひっぱたきたくなった。寒気が走る。
つまりこの車は牧さんと酒井さんがメイクする車らしい。確かめるようにトランクを覗くとたくさんの化粧道具のボックスが並んでいた。

盗聴しているらしくバ怪盗はしきりにイヤホンを気にしだした。何かアイデアはないかと考えているとふと閃いた。

「あんたならどうやる?」

彼は少し考えてから答えた。

「オレならメイク道具に毒を仕込むだろーな」

あり得ない答えに僕は閉口した。
だって自分の商売道具、ましてや一番誇りを持っているものを凶器にするなんて理解できない。そんな事したら自分のすべてを否定する事と同等の意味を持つ。
でも…この目の前にいる彼は所詮犯罪者。犯罪者の心理がわかるのは僕より彼だ。

「分かった、メイク道具に絞ろう」
「なら皮膚が薄い場所に仕込むんじゃねーか?」
「なら目元か唇になるけど…」
「より摂取しやすい場所は唇…つまり」

「「口紅!」」

とんとん拍子に意見が一致し、急いで取り掛かる。やっぱりこいつとは思考回路が似ているみたいだ。
口紅のポーチを探し出し、バ怪盗がその場で用意した物にすり替える。その代用品はバ怪盗の手下が買い集めてきたらしい。人使いが荒いところも誰かさんにそっくりだ。
無事任務を終え、駐車場を出る。

「じゃ、また」
「せいぜい小さい探偵くんに捕まらないようにね」

胸に大きなつっかえが取れないままバ怪盗と別れた。