heroine

「はー寒いね」

 隣の男の子は息を吐いてそう言う。僕はそれを一瞥し、何事もなかったかのように前に目線を向けた。

「無視? テツヤくん」
「当たり前のことを言うので同意をする気にもならないだけです」
「まあ、寒いもんね」

 答えるために息を吸う。それだけで喉の奥まで冷たい空気が満たされて、余計寒くなる。
 とはいえ生きるために僕たちは呼吸する。それを暑いだとか寒いだとか、文句を付けていいのだろうか。

「どう? どこか寄っていかない?」
「寒いのに?」
「寒いからだよ」
「どこかに行けば帰りが遅くなって、余計に寒くなりますが」
「テツヤくんのそういうとこ嫌いじゃない」

 笑っているのだろう。見なくてもわかる。

「いいでしょ? もう少し余計な時間をテツヤくんと過ごしたい」

 そんなの友人に言う言葉じゃない。気になっている人とか、恋人に言えばいい。
 そう思うのに僕の口から否定の言葉は出てこない。

「……仕方ないですね」
「うん」

 嫌いじゃない、じゃなくて好きって言えよ、とは思う。思うけど。
 やっぱり僕でいいですか、なんて言う勇気はないので、マフラーに顔の半分を埋める。