憧れ

 彼は由緒あるツェペリ家の長男で、俺はしがない商人の次男。
 彼の父がとても厳格な人物だということは、恐らくこの街では有名だろう。医者として何度か診てもらったことがある。

「なあジャイロ、俺とつるんでていいわけ?」
「ん〜?」

 彼は鉄球を手の中で弄んでいた。とてもつまらなさそうに。

「いや……別に誰とだって、ダメだって言うだろうな」

 声には諦めが混じっている。それは運命が決めたことで、もう自分にはどうも変えられないことであると言うように。

「ん、それは一理あるかも」
「だったら"感傷"が存在しようと、俺は俺の納得した人と居る、って決めてんだ」

 シュル、といとも簡単に鉄球は回りだす。
 俺も触らせてもらったことがあるが、あれはそもそも重く、決して簡単に回せるようなものではない。
 それだけではない、ジャイロの技術はその回転を使い、何でも出来てしまう。

「"感傷"……ねえ」

 最近彼は、俺の部屋に入り浸っていた。俺は一人暮らしだから全く困らないし寧ろ寂しくなくなって有り難いのだが、如何せん彼の家は厳しい。

「ツェペリ家に生まれたことは、後悔してねェんだけどな……」

 独り言のように彼は言う。鉄球の回転はもう止まっていた。
 その瞳が俺を捉えて、どきりと鳴った心臓の音が、聞こえてしまった気がした。

「[#da=1#]と一緒になれないのが、ちょっと残念かも。」
「、」

 はあ、と溜息と共に吐き出される言葉は尋常じゃなく軽いくせに、簡単に聞き流すことができなくて、俺は言葉に詰まる。

「……本気だぜ?」
「はあ?」

 ベッドから立ち上がったジャイロに、そう返すのが精一杯だった。

「[#da=1#]を俺のモンにしてェなー、ってな。ま、こんなこと言ったらぶん殴られるだろうから言えねーけどな」
「……親父さんに?」
「他に誰がいるんだよ?」

 俺の意思は、ないのか。

「[#da=1#]は別に、嫌だとか言わねェだろ。今更俺が、お前が欲しいとかっつったって」

 ばれてる、と思って目を逸らす。何でも知っているような目が今は恐ろしい。
 それが肯定になると知っていても、まっすぐに見ることはもう出来ない。

「――なあ、ジャイロ」

 彼は優秀な男だ。優秀ゆえに、敷かれたレールの上を走るのだろう、次男で才能もなく後を継げない俺と違って。

「お前、馬鹿だよな。」
「はああ?」

 本心は告げない方がいいだろう。例え彼が全てお見通しだったとしても。




2016.05.02
(手が届くものは欲しくない。)
(手が届かないから、憧れるのだ。)