バイバイエドラス

うそ、もう夜?そんなに時間経ってたの。
お城から出ると、外は暗く、どうやら街中が大騒ぎになっている。


「陛下が、ドロマ・アニム使ってこの戦いに勝つつもりです」
『どろまあにむ?』
「はい。竜騎士、ドラゴンの強化装甲です。それにナツ様、ウェンディ様、ガジル様が対抗しております」
『…それなら、大丈夫だね』
「なぜ、」
『ナツたちなら、滅竜魔導士なら、倒せるよ』


滅竜魔法はドラゴンを倒すための魔法。あの三人にしか、倒せない。
え?てかガジル?ああ、そうか、ミストガンが言ってた、アースランドには滅竜魔導士のみ残されたってことは、ガジルもミストガンの力でこっちに来たのかな。

あとはティアたちは、それに、ルーシィはどうなったの、


「アースランドのルーシィ様でしたら、エクシードにより処刑は逃れました」
『ほんと!?よかった…』


とりあえず、ルーシィと合流しよう。
ナツたちが闘っているなら、ルーシィはきっと一人でどこかにいるはずだから。
でも、どうやって、うーんと悩んでいたら、レオンが何か差し出した。


「…私の魔法道具で」
『レオンの?』
「はい、思い浮かべた一人だけをサーチできる魔法です」


レオンに丸いコンパスのようなものを手渡された。使ったことないけど、ルーシィを強く思えばいいのかな。
ぎゅっと握り、頭の中にルーシィを思い浮かべる。すると手に持っていた魔道具が淡く光、一筋の線が。


『わっ、何これ』
「この先にルーシィ様がいます。いきましょう」
『…ううん、ここからはあたしが一人で行く。これ借りてもいい?』
「それはかまいませんが、しかし、」
『レオンはエドラスのあたしについててあげて』
「…本当に、ありがとうございます」
『あたしこそ、ずっと逃げてた魔法と向き合うことができた、ほんとありがと!』


レオンとわかれ、光指す方に走る。
だんだんと大きく聞こえる音、あちこちで闘っている人たち。
街中から少し離れた荒野に、ルーシィはいた。
それに、ルーシィだけじゃなくて、エドラスの妖精の尻尾のメンバーが、王国軍と闘っている。

いや、待て、なんか上半身裸の脱ぎ癖がある氷の造形魔導士さんもいるぞ?

走ってみんなの近くに行き、加勢しようとしたら、突如大地が震え出した。
と言うよりは、浮いている島が全部落ち出したのだ。

そして、今度は大地から光の魔粒子が上空に向かって吸い込まれるように流れる。
エドラスのみんなが持っていた武器も光の粒子となり、上空へ消えていった。

それより、浮遊していた島がいっぱい落ちてきてるし、その一つ、大きい島がルーシィたちのいてるところに落ちようとしている。


『召喚!…いけ!』


あたしの相棒でもある大鎌を取り出して魔力を込めて、数回振るう。
刃先から出た魔力の軌道がその島を粉々に砕くことに成功した。


『あっぶな〜!』

「アリス!!」


星霊の鍵を持ち、迫り来る島に対抗しようとしていたルーシィと、同じく造形魔法を使おうとしていたグレイがこっちを見る。


『ルーシィ!無事でよかった!』
「それはこっちのセリフよ!ずっと、アリスとだけ会えなかったんだから…」
『ちょっとお城に閉じ込められててね』

「アリス!!!」
『うお!』


涙を浮かべるルーシィに申し訳ない気持ちになっていたら、正面からあたしのことをガバリと抱きしめたグレイ。珍しい。


『つーか!なんでグレイここにいるの!?滅竜魔導士だったの!?』
「あほか。ガジルが魔水晶から戻してくれたんだ」
『ガジル?』


抱きしめられたまま、簡単に今までの話を聞く。
王都で見た魔水晶はエルザとグレイだったらしく、ガジルの滅竜魔法で二人は元に戻ることができたらしい。
滅竜魔法があれば、魔水晶を元に戻せるから、その力で戻そうとしたが、王国軍に阻害され、今こうして全面戦争が起こっているみたい。


『じゃあ、エルザは?』
「エドラスのエルザと戦っているはずよ」
『エドラスのエルザと…』


お城で別れた後に、そんなことが起こってたのか。伝えてあげたい、エドラスのアリスを救うことができたって。


『グレイとエルザが来てくれてよかった』
「アリス、おまえ、王国軍に何もされてねえか?」
『うーん?…特になにも、閉じ込められてたぐらい?』
「はあ、ルーシィからアリスが連れていかれたって聞いて、、ヒヤヒヤさせんなよな」
『んー、ごめんね』


ぎゅうっと抱きしめるグレイの背中をポンポン叩くと、ゆっくり離れて、ニカッと笑った。


「アリスちゃん、」
『!ティア!』


ずっと会えてなかったあたしの親友。
ちらちらこちらの様子を伺いながら少し離れた位置に。


『無事でよかった』
「ティア、ティアね、、」
『ん?…ティアはティアじゃん。はやくあたしたちのギルドに帰ろ!』
「う、うぅ、アリスちゃあん!」


翼を出して飛んできたティアを受け止める。魔法もちゃんと使えてるし、何があったかわかんないけど、この子達も乗り越えたんだ。

今起きている、この現象はエドラスから魔力が消え去ろうとしているっぽい。
それを悟り、絶望するエドラスの妖精の尻尾の人たち。たしかに、今まであったものが完全に無くなるのは、気持ちが追いつけないかもしれない。


「みんな落ち着いてっ!」
「落ち着いていられるかよ!この世界から、魔力がなくなるんだぞ!」
「おわった、僕たちは戦いには勝ったけど、この世界には負けたんだ」

『…魔法が使えなくても、仲間がそばにいるじゃん』


あたしの言葉に、みんながこっちを向く。


「でもよ!」
『たしかに、魔導士ギルドとして成り立ってるから、魔法は不可欠なのかもしれない。じゃあ魔法使えなかったら、みんなはバラバラになるの?仲間じゃなくなるの?』
「それは、」
『…エドラスのあたしは、この世界から魔力を消そうとしてるよ』
「な、アリス様、無事だったのか、!」
「どうして、そんなことを…」
『魔力にとらわれて、争う世界よりも、大好きな人と一緒に過ごせる、それだけで幸せって言ってたよ』


あたしの言葉に、妖精の尻尾メンバーが目を見開き、驚く。


『魔法が争いを生むなら、この世界の足枷になるなら、いっそのこと無くして、一から始めればいいじゃん』


少し、キツイ言葉かもしれない。
でもそれぐらいのことをしなくちゃ、この世界は永遠にこのままだ。

みんなに背を向けて足を進める。


「アリス!どこに、」
『王都に行く!この状況を知ってる人がいるかもしれないし』
「よし、とりあえず行ってみよう」


ルーシィ、グレイ、そしてティアたちとともに、王都に向かって走る。

エドラスの民はパニックになっているのか、みんな避難しようと走り回っている。
グレイとルーシィとも走っていたが、途中ではぐれたのか、あたし一人になっていた。

そして騒ぎの中心に向かっていくと、見慣れたシルエットが三つ。
ナツ、ウェンディ、ガジルの三人がマントをつけて何かをしている。
主にナツが屋根に立ち、悪役っぽいセリフを吐いている。


「我が名は大魔王ドラグニル!」

『何してんのあいつら』


この状況の中で、こんな意味わかんないことをする人じゃない。特にウェンディは。
考えろ、何が目的か、今何が起こってるか、

魔力がアニマに吸い込まれてアースランドに戻ろうとしている。
でもそれは、魔水晶だけじゃなくてこの世界から。
そこでナツが暴れたら魔法の凄さがわかってしまう、みんながやっぱり魔法が欲しい…てなっちゃう。
じゃあそれを翻すには、、
魔力のない人間が魔導士を倒せばいい。英雄になれば、魔法がなくても生きていけると証明できる。

なるほど。

ただ、誰がその英雄になる?
みんな怖いから戦いに行けない、倒せる人がいるのか…?


あたしの考えがまとまり、新たな疑問が生み出された間にも、ナツとガジルが街を破壊していく。
誰が、、エドラスのあたしは…?


「よせー!!ナツー!!!」


お城から聞こえてきた声。
これは、ミストガン…?


「オレ様は大魔王ドラグニルだ…、ファイアー!!」


ナツと呼ばれたことを否定し、城下町への破壊を続けるナツ。


「よせ!!」
「おまえにオレ様が止められるかな、エドラスの王子さんよォ?」


…なるほど。
これで役者が揃ったわけだ。

ナツの発言にエドラスの民は混乱している。そりゃそうだ、ミストガンはずっとアースランドに居て、ずっと行方をくらませていたのだから。簡単に王子とは信じられないだろう。


「来いよ、来ねえとこの街を跡形もなく消してやる」
「ナツ!そこを動くな!」
「ナツではない。大魔王ドラグニルだ」


それにしてもナツの顔…
すっごい悪役に成り切れてる。ここまでの適役いないでしょ。
そしてミストガンが城から走ってこっちに向かってくる。
その途中に魔法で眠らせようとしたが、アニマが開いている今、所持系の魔力は全部吸収されてしまう。
それを見てナツが魔法を使い街を破壊する。それに怯える民衆。

これで、強大な魔力を持つ悪に、魔力を持たない英雄が立ち向かう構図になる。

ここまで辿り着いたミストガン。
それからはナツから始まった、魔法なしの肉弾戦だ。
ナツがやられると、民衆はミストガンに声援を送る。これで王子という立場もみんなに知らしめることができる。


「これはオレ流の妖精の尻尾式壮行会だ」


___ ああ、本当に、お別れなんだ、


「妖精の尻尾を抜ける者には三つの掟を伝えなきゃならねえ」


あたしも妖精の尻尾に入った時、マスターに教えてもらった。

一つ、妖精の尻尾の不利益になる情報は生涯他言してはならない
二つ、過去の依頼者に濫りに接触し個人的な利益を生んではならない
三つ、たとえ道は違えど強く力のかぎり生きなければならない。決して自らの命を小さなものとしてみてはならない。愛した友の事を生涯忘れてはならない

言い終えると互いに拳を顔面に入れる。


「届いたか?ギルドの精神があればできねえ事なんかねえ…!また会えるといいな、ミストガン」
「ナツ…」


ナツが倒れ、ミストガンが踏ん張ると、湧き上がる声。
あんなに強い魔法を使う相手に勝利を収めたミストガンは、紛れもなく英雄になったのだ。
そしてそのタイミングで、光出したナツの体。いや、ナツだけじゃなくてあたしたち魔力を体に宿してる人も。


『これって…』

「この世界からすべての魔力を消し去ろうとしているのです」
『あ、エドラスのあたしとレオン』


簡素なワンピースを着たあたしとレオンが、その場には居た。この現象を起こしたのが、エドラスのあたしとミストガンだという事を話してくれた。


「アースランドの私には、本当に感謝してもしきれません」
『この世界をやり直すには、きっとあなたとミストガンの力が必要になるよ』
「ミストガン…?ああ、お兄様のそちらでのお名前ですね」
「こちらではジェラール様でございます」


あ、そっか。エドラスのあたしとミストガンは兄妹になるもんね。やっぱり名前はジェラールだったんだ。そりゃそうだよね。


『元気でね、アリス』
「ええ、アリスも、」
『あ、そうだレオン!こっちのエルザに、約束守ったよ、て伝えといてくれない?』
「かしこまりました」


頭を下げるレオンと、手を振るエドラスのあたし。光り輝いてるあたしの体もアースランドに帰ろうと吸い込まれる力が働くが、なんとか踏ん張り、ミストガンのところまで。


『ミストガン』
「アリス、妹から話は聞いた、色々ありがとう」
『ミストガンがあたしを見る目はずっと、エドラスのあたしと重ねてたんだね、だからあんなに優しかったんだ』
「、それだけではないが、」
『ん?』
「いや、そうだな…、どの世界でもアリスはアリスだ」



『ジェラール…?』
「(しまった!この世界の私のことを知っている人が…)!アリス?」
『そう!アリスだよ!ジェラール!あたし会いたかったの!ずっと一人で、ずっと、』
「…私も、会いたかった」
『ジェラール?』
「すまない」

眠らせて、その時の記憶を消した。
だからその時、私と会ったことは覚えていないだろう。

ふわあっと浮き出したあたしの体。
最後に伝えなきゃ。


『ミストガン!…ううん、ジェラール!あなたならこの国を正しく導けるよ!なんせエドラスのあたしがついてるんだし!この先の未来、きっと辛いこともたくさんあるけど、妖精の尻尾で育ったんだもん、挫けないで!がんばって!』
「…ああ、ありがとう、アリス」
「アースランドの私、どうか信じていてください、私たちの未来を」
『…うん!!!』


そしてあたしたち魔力がある者は皆、アースランドに戻ったのだ。
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