あの試合から二、三日目たって、私は優一さんのところに行くことにした。
この前の帰り際の態度を謝らないと。
ちなみに、あの試合の後、玲央くんにはこっぴどく叱られました。
『こんにちは〜、て』
優一さんいない。
検査かな?病室で待ってるのはなんだか気がひけるし、散歩でもしてようかなあ。
スライド式の扉を開けようとしたら、私が開ける前に開いた。
その人物は目を閉じてクールに入ってきたので、目の前の私とぶつかるわけです。
身長差があるし、剣城くんの方が私より鍛えてるわけで、胸元にぶつかり、そのまま尻餅をついてしまった、恥ずかしい。
「おまえ、なんでここに」
『うわわ、ごめんね剣城くん、大丈夫?怪我とかしてない?』
「いや、俺はべつになんとも(それよりお前の方が、)」
よかった…!
もし剣城くんに何かあったら私一生自分を許せなくなるわ。
尻餅をついたままの私に手を差し出してきた剣城くん。
なんだろ?
「いつまで座ってるんだ、ほら」
『あ、え、えと…』
「?立てないのか?」
『別の意味で立てないです』
「は?」
おっと、つい口から本音が。
まさか、剣城くんが手をかしてくれるなんて、やっぱり優しい人だ。
ドキドキしながらゆっくり手を乗せると、ぐいっと引っ張られた。
きゅんっ
いやいや!きゅんじゃないよ!!力強くて惚れ直したけど!!!
『あの、ありがと…。私、ゆ、優一さんに会いにきたんだけど、いなくて…』
「いない?」
『う、ん』
剣城くんは私の背後のベットを確認すると、心当たりがあるのか部屋を出て歩き出した。
え、まってまって、私もついてく。
後ろからついてくる私に気付いてるはずだけど、来るなとは言わない。
優一さんと面識あるからかな?
しばらく歩いてついたのは、運動ルームのプレートが貼っている部屋。
中の様子を見て、剣城くんは部屋に入ることなく止まった。
優一さん、足が治るのを信じてリハビリがんばっているんだ…
「もう一度サッカーやるんだろ?」
「っはい!」
倒れそうになっても、何度も何度もがんばる優一さんを見て、剣城くんは辛そうな顔をした。
「(やっぱり俺は、フィフスセクターには逆らえない、)」
『剣城くん、どうしたの、?』
「!いや、おまえには関係ないことだ」
『っ!』
これは、なかなか心に刺さるなあ、
たしかに、サッカーもしてないし、話したことだって全然ない、剣城くんからしたら関係ないけど、私には、私からしたら…
『剣城くん、サッカー好き?』
「?」
『優一さんはサッカーが好きだって。剣城くんと小さい頃にやっていたサッカーが』
「どういう意味だ」
『管理サッカーとか、シードとか私には確かに関係ないよ。でも、そのサッカーは優一さんが望んだものなの?』
「…たとえ望んでなくても、俺は兄さんのためにサッカーをする、それだけだ」
それだけ言うと、来た道を歩いて行ってしまった。
…て、私が見逃すわけないでしょ!!
後ろから走り剣城くんの背中に飛びつく。
勢いもあったため、剣城くんは前に倒れ、後ろに乗ってる私の方を向くために体勢を変えた。
周りから見たら、私が剣城くんを押し倒しているように見えるだろうが、気にしてられない。
「っ、おい!」
『剣城くん!!!』
「!!」
『剣城くんは優しすぎるんだよ!!全部一人で抱え込んで、自分を犠牲にしてまで!!そんなことして優一さんが喜ぶと思ってるの!?優一さんはそんな人なの!?優一さんの気持ちは剣城くんが一番知ってるはずでしょ!!!』
「っ、うるさい!!何も知らないやつが口を出すな!」
『たしかに知らない!!だから私、剣城くんのこともっと知りたい!!優しくて、不器用で、お兄様思いで、サッカーが大好きな剣城くんのこと!一人で抱え込むんじゃなくて、私は、ただ、頼って、ほしい、の…』
「……………」
や、やってしまった…。
途中で我を取り戻したけど、こんなのただの熱烈な告白じゃない。数回会った人にこんなこと言われるなんて、剣城くん、怒っちゃった。
目を見開いて、黙ったままな剣城くんと視線がぶつかり合う。
ああ、だめだ、こんなに見つめ合ったことなんてなかったから、心臓がもたない。
『ご、ごめんなさい』
「…ふっ」
『え、(わらった…)』
「真面目になったり、怒ったり、落ち込んだり、おまえほんと変なやつだな」
『うう、(は、恥ずかしい…)』
羞恥心よりも、剣城くんの笑顔に私のハートはズッキュンです。
ふっ、と笑う感じが似合う人ってそういないと思うんだよね。かっこいい。
ふと私は今の体勢を思い出し、顔に熱が集まるのを感じた。
『ご!ごめんなさいいい!!』
飛ぶ勢いで剣城くんの上からどいて、距離をとった。
剣城くんも起きあがり、私たちの間に妙な空気が流れる。
「あれ、京介に美羽ちゃん、きてたんだ」
「兄さん、」
『優一さん!優一さ〜ん!(ナイスタイミングです)』
車椅子に乗っている優一さんに抱きつきに行く。
私の癒しである優一さんは、どうやらリハビリを終えて、病室に向かう途中だったみたい。
剣城くんと二人きりは私には耐えられません。
「どうしたの美羽ちゃん、京介に何かされた?」
『とんでもないです!…むしろ私がやっちゃったてかんじで、』
「ん?」
『いえ!!何もないです!!!』
ボソッと口から出ていた呟きは聞こえていなかったみたい。よかった。
「二人で来るなんて珍しいね」
「いや、たまたま兄さんの病室で会ったんだ」
「俺の?何か用があったの?」
優一さんに言われて、私がここにきた本来の目的を思い出した。
『そうなんです!伝えたいことがあったんです!』
「伝えたいこと?」
『この前は急に帰っちゃってごめんなさい!!』
私が頭を下げて謝ると、優一さんはクスクス笑って、「気にしないで」と言って頭を撫でてくれた。
これ、落ち着く。
「また来てくれて嬉しいよ」
『ほ、ほんとですか?そんなこと言われちゃ、たくさん来ちゃいますよ?』
「歓迎するよ」
優一さん…、なんて素敵なお兄様なんですか。
うちのお兄様と交換したいです。
「…兄さん、俺、帰るな」
「もう帰るのか?」
「ああ」
剣城くん、帰っちゃうのか、
もしかして私が優一さんと話してたから気を使って?
私、悪いことしちゃったかな、
なんていろいろ考えてたら、優一さんは何か思いついたような顔をして、剣城くんに言った。
「じゃあ京介、もう遅いし美羽ちゃんを家までおくってあげたらどうだ?」
「は?俺が?」
『んんん!?そんな恐れ多い!!!私一人で帰れますよ!』
「気にしないで、京介もいいだろ?」
優一さんが剣城くんに微笑むと、優一さんに弱い剣城くんは、仕方ないとでも言いたそうにため息をついた。
ごめんなさい。