「ヒロト…?」


鈴のなるような綺麗な声がヒロトの名前を呼んだ。
振り返ると帽子を深く被り、パーカーを着てる、声からして女の人が。

この場にいるのは、俺と彼女だけ、ヒロトはいない。

一瞬、声の優しさや感じ方が何となく俺のことを呼んだのかと思ったけど、俺の名前はヒロトじゃない。


「あの、俺はヒロトではないです」

「…そう、だったね、ごめん」


口元が見えて微笑んでいるのがわかるが、おそらく目元は困った表情をしているのだろう。
俺は何もしていないのに、彼女に何だか悪い事をしたような罪悪感が残る。


「ヒロトに何か用ですか?」

「ううん、何でも。人間違いなうえに、練習の邪魔してごめんなさい」


深く謝罪をするためか、帽子を取り頭を下げた。気にしないで下さい、という直前に顔を上げた彼女を見て、髪型は違えど、見覚えのある顔に目を奪われた。

一年前、FFで唯一の女子選手であった彼女のプレーに目を奪われた俺が間違えるはずがない。
雷門中サッカー部が強化委員として派遣される中、彼女だけが行方をくらませたと噂になっていた。

そっと俺に背を向けて歩き出した彼女に向かって声を上げていた。


「っきみは!どうしてここにいるんですか…!」

「…気まぐれ、かな。みんなには内緒だよ」


振り返り、少し切なそうに笑った彼女を引き止めることはできなかった。

敬語のヒロト…、タツヤに心が締め付けられた。







なぜか俺は、この時だけ自分の名前に違和感を感じた

こうして私は、現実を突きつけられた


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