名字名前様
この度は、貴方様が存じているはずの世界にお送りすることが出来ず、申し訳ありませんでした。
お詫びと言ってはなんですが、過去現在未来、好きな時代を選んで頂き、少しの間その場を体験出来るように手配致します。
そこで出会った人は存在しておりますゆえ、貴方様のことは記憶に残ってしまいますのでご注意下さい。
さて、それではどうぞ有意義な時間を過ごしくださいませ。
***
とりあえず、イケメンと絡んでみる?と願ったら、目の前が真っ白に光り輝いた瞬間、私は身に覚えのない公園のベンチに座っていた。
さらに幼稚園か小学校かそのぐらいの境目の見た目ほど小さくなっていて、おそらく過去なのだろう。
何かわけもわからずに願ってみたけど、これちゃんと元いた時間に戻れるのかな、戻らなかったらどうしよ、とベンチの上で三角座りしながら考えていると一人の男の子が走ってきてブランコに乗った。そのまま漕ぐこともなく、顔をうつ伏せたままだが、ここからでも手にすごく力が入っているのがわかった。
その少年をジッと見つめていると、視線を感じたのか伏せていた顔が上げられ、私と目が合う。合ったまま逸らすべきか向こうが逸らすのを待つべきか考えていたが、よく見ると少年の膝に擦り傷ができ、血が出ていることに気付き思わず立ち上がり近付いてしまった。
近くまで走ってきた私に驚いたのか、目をまん丸にして、でもその目は逸らすことはなく。近くで見るとやっぱり転んだのか、膝から血は流れ出たままで、急いで彼の手を引いた。さっき走っていたから歩けないことはないだろう。
「な、んだよ、お前!」
「いいからこっち」
急な行動に焦っているのか、でも向かってる先が水道と知ると抵抗をやめた。そのまま靴と靴下を脱いで傷口を洗い流すと、汚れが取れ傷口がリアルに見えた。汚れが大きく付いていただけで、そこまで大きな怪我じゃなかったみたい、良かった。
タオルとか持っていなかったので、ポケットのハンカチで傷口周りと濡れた足を拭く。絆創膏持ってたらよかったけど、そこまで用意周到で過去に来たわけではないし、ハンカチで傷口を塞いでしまうと、乾いて引っ付いてしまったら剥がす時にまた出血してしまう。
「絆創膏持ってないの、ごめんね」
「なんでお前が謝んだよ」
「え?、持ってたら君の痛みが少しでも楽になったのになあて思って」
「初対面なのに変な奴だな」
「君こそ初対面の人に変って失礼だね。そこは素直にありがとうでしょ!」
「…別に頼んでねーし」
「あ、それもそうね」
「やっぱ変な奴だ」
手を引っ張ってからむっすーとしていた顔だったけど、少し可笑しそうに笑った少年がちょっとだけ輝いて見えた。
水道の横のベンチに二人で腰をかけて、この時間に少年がいることを素直に聞いて見た。
「もうすぐ日が暮れるけど、今から公園に遊びに来たの?」
「んなわけねーだろ」
「お家帰らなくて大丈夫?」
「…べつに、俺の事なんて気にしてねーだろうし」
可笑しそうに笑った、あの顔とは真逆の、悲しそうな顔。でもこの顔は、親が怖い、虐待を受けている、とかじゃなくて、自分を見てくれていない寂しい嫉妬の顔に私には見えた。
「…そんなことないよ」
「はぁ?お前が何を知ってんだ」
「君のことは何も知らないけど、自分の子どもをどうでもいいなんて思う親はいないよ」
「何でそんな事言えんだよ」
「だって君、ちゃんと生きてるよ。綺麗な服を着て、自由に動ける体があるじゃない。どうでもいい子には親は何もしてくれないよ」
「親じゃねーよ、親は孤児の奴らばっかで…、屋敷の者が適当に俺の世話してるだけだ」
「…それでも、面倒を見るように気をかけてるじゃない。表面上だけじゃなくて、信じてあげて」
「信じる…、お前やっぱ、変な奴だよ」
「そんなことないよ、君がちょっと捻くれてるだけ」
「うるせーよ」
横に座ってる少年は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。子どもらしい拗ね方に思わずくすくす笑ってしまった。それにさらに機嫌を損ねてしまったようだ。
「拗ねないでよ少年」
「拗ねてねーし、つか少年とか言うなよ」
「だって君の名前知らないし」
「…吉良ヒロト」
「き、ら…」
ヒロト…?
いや、でも同姓同名だってあり得る。親が孤児院を経営してるのだって同一人物じゃないかもしれないじゃない。
それにあの世界の吉良ヒロトは基山ヒロトと瓜二つなんでしょ?それならこの吉良ヒロトは違う、はず。
「ヒロトでいい」
「あ、私は名字名前。名前でいいよ、ヒロト」
「名前かー、お前は家帰らなくていいのかよ」
「うーん、たぶん大丈夫。それより、ヒロトってもしかしたサッカーしたりする?」
「サッカー?してるけど、名前もしてんのか?」
ああ、これはきっと、この世界の吉良ヒロトなんだ。ヒロトが生きているから、エイリア学園が襲撃してこなくて、そのまま世界にいってしまったんだ。
一つ違うだけで、全てが私の知ってる物語とかけ離れていく。
「名前?」
「え!うん!サッカー好きよ」
「まじか!女でサッカー好きなんて珍しいな!」
「そう?サッカー楽しいもん」
ボールを蹴る感覚、奪われるときの悔しさ、シュートを決めたときの達成感、仲間と勝利を手にしたときの感動、全てが私にとって宝物以上のもので。
それを考えていたからか、でへへとだらしない笑みを浮かべてしまったが、ヒロトは気にしてないようで、嬉しそうに笑った。
「今度俺と勝負だ!」
「いいね、負けないよ」
シュートの一本勝負でも、ドリブルでも、キープ率でも、絶対負けない。
いつか、一緒にサッカーできたらいいな。
サッカーの話題から話が弾んで、気がつけば日が暮れる直前まで時間が経っていた。
それに、私の体も元の時代に帰りたいのか、ドクンドクンと体の中が熱くなってきている。
「そろそろ戻らなきゃ」
「俺も、何も言わねーで出てきたからな」
ベンチから腰を上げて、お尻についた土を軽く払う。ヒロトも立ち上がった。
「…もし、誰も、ヒロトの思いを知らなくても、私がちゃんと知ってるから」
「はあ?俺の思いってなんだよ」
「お父さんが大好きなことも、サッカーで努力してることも」
「んな!!好きじゃねえし!」
「ふふ、そういうことにしといてあげるね」
ツンデレか、この世界の人は素直になれない人が多いんだから。
頬を赤く染めて、プンスカ怒るヒロトは少年らしくて、やっぱり可愛いと感じてしまう。
ドクン、と一段と大きく心臓が跳ねたので、慌ててこの場から、ヒロトの前から姿を消さなきゃと思い歩き出す。
「またね」
「…っ、名前!!」
ヒロトの私の名を呼ぶ声に駆け出した足を止めて、振り返る。
「その、ありがと、な。…俺、お前が好きだ!!」
「…はぇ?」
「絶対会いにいくからな!!」
「う、うん?約束!」
好き?え、これは告白?いやでも待つのよ名前。
この幼少期の告白は可愛いものだ、話しが合うから好きだよー!て意味だろう。本気じゃない。こんなあって間も無いのに本気で好きになるわけない。何だろ、自分で納得させるために言ってるのに悲しくなってきた。
パタパタとヒロトも私とは違う方向、家の方だろう、に向かって走り出したので、私も人気が少ない道に入る。
その瞬間、体が熱くなり目の前が真っ白になった。
「…俺、親父って言ったっけ?」
空色のハンカチが風でなびいた。
気付いた時には私の家の布団で、おそらく手紙を読んだであろう正剛くんがいた。
「おかえり」
「うん、ただいま」
「どこ行ってたんだ」
「ちょっと夢の中へ、えへへ」
「…そうか」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
心配かけてごめんなさい、あとお手伝いもサボっちゃって。
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