甘いものと
「深月!甘露寺に西洋の菓子をもらった!千寿郎と一緒に食べよう!」
帰って来て、開口一番にそう言ったうちの旦那様は、何やら大きめの風呂敷を提げている。
「お帰りなさいませ。杏寿郎様。」
風呂敷を受け取りながら、杏寿郎様の様子を確認する。
そんなに大きな怪我は無いようだ。いくら強いとはいえ、無傷で帰って来れるとは限らない。
本当は心配なので、任務になど行かないでほしいと思う日もある。しかし、亡くなったお義母様の教えを守る杏寿郎様を、誇らしいと思う気持ちもあるので、私はこの家で、旦那様の帰りを待つのだ。
「すぐお茶にしますか?」
「うむ!いただこう!」
「では、千寿郎さんを呼んできますね。お部屋で待っていてください。」
そういえば、先日も甘露寺様から紅茶を頂いた。西洋の菓子に合うらしいので、今日は紅茶も用意してみよう。
千寿郎さんは、確か庭のお掃除をされていたから、先に呼びに行って、その後お茶の準備をしよう。
「甘いものは、お酒に合わないわよね……」
お義父様は、相変わらず、いつもお酒を召し上がっている。お茶に誘っても断られるだろうし、かといってお酒に合わない物をお出しするのも迷惑だろう。
考えているうちに、千寿郎さんを見つけたので、声を掛けると、彼は嬉しそうな笑顔になった。
すぐにこちらに来てくれたので、杏寿郎様とお部屋でお待ちいただくようお願いするが、彼は首を横に振る。
「いえ、僕もお手伝いします!」
「ありがとうございます。でも、先にお兄様とお話されてください。杏寿郎様も、千寿郎さんとお話されたいと思いますので。」
そう言うと、千寿郎さんは照れてしまったようで、顔を赤くして俯く。可愛い義弟に、私の頬は自然と緩んだ。
*****
お茶とお菓子を用意して、お部屋に行くと、杏寿郎様しか居なかった。
「あれ?千寿郎さんはどちらへ?」
「少し話をしたら、別の菓子も用意すると言って出ていったぞ」
「では、行き違いになったのでしょうね。」
私はここに来る途中で、お義父様のところへ寄って、お茶とお菓子を置いてきたから、その間にすれ違ってしまったのだろう。
「千寿郎さんをお待ちしましょうか。」
「そうしよう!すぐに戻ってくるだろうしな!ところで、深月」
机に三人分のお茶とお菓子を並べていると、杏寿郎様からちょいちょいと手招きされる。
何だろうとお側に寄ると、急に抱き締められた。
私はびっくりして一瞬固まるが、すぐに顔に熱が集まるのを感じる。
「あの、杏寿郎様!千寿郎さんが来ますから!」
「目が腫れているし、隈ができている。心配ばかり掛けてすまない。」
優しく私の背中を撫でてくれる杏寿郎様。
ばれていたのか。そうだ、杏寿郎様が任務に行かれ、昨夜は我慢できずに泣いてしまったのだ。そのまま泣き明かしてしまったので、実は寝不足である。
いつ大怪我をするかもわからず、死んでしまうかもしれない、大変なお仕事をされているので、心配で仕方ない日だってある。
炎柱の妻として、情けないので、杏寿郎様を見送る時は気丈に振る舞うよう心掛けてはいるのだが、旦那様の目は誤魔化せなかった。
「大丈夫だ。俺は一人でも多くの人を救って、この家に帰って来る!約束だ!」
背中を撫でてくれていた手は、私を安心させるように、とんとんと背中を叩き始めた。
「杏寿郎様がお強いのは分かっております。私は、お義父様と千寿郎様と一緒に、この家でお待ちしております。」
「うむ!ありがとう!」
とんとんと背中を叩き続ける手に安心して、私が眠りそうになった頃、襖が開いた。
「兄上、義姉上、今朝すいーとぽてとを作っていたのでご一緒に……」
一秒程固まる千寿郎さん。
「お邪魔しました!」
顔どころか耳や首まで真っ赤にして、襖を閉める千寿郎さん。
目が覚めた私は慌てて杏寿郎様の腕を抜け出し、千寿郎さんを追い掛けた。
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