孔雀草
強い鬼が出たという報告があった。
それだけでなく、その鬼のおこぼれに与ろうと、結構な数の雑魚鬼も集まっているらしい。
それらの討伐任務で、強い鬼の相手は俺が、雑魚鬼の相手は数名の隊士がすることになった。
雑魚鬼とはいえ、数が多い。俺以外の隊士の階級は、高くて
辛だ。少し厳しい戦いになるかもしれない──そう、思っていた。
しかし、隊士達の中で、一人だけ、際立って動きの良い少女がいた。
彼女のおかげで、俺は強い鬼にのみ集中でき、味方側の被害は小さく済んだ。
彼女の戦い振りは、完成された動きではないのに、目を奪われるような美しさだった。まだまだ動きに無駄があるが、鍛えればきっともっと強くなるだろう。
呼吸は違うようだが、継子になってはくれぬだろうか。
任務が終わり、彼女に声を掛ける。まずは自己紹介をしておかねばな。
「俺は煉󠄁獄杏寿郎だ!!」
彼女は、驚きを隠せない表情で一瞬固まったが、軽く会釈を返してくれた。
「私は雨宮深月と申します。炎柱様とご一緒できて、光栄でございました」
「そうか!怪我も無さそうでよかった!雨宮、これから稽古でもどうだ!!」
稽古で改めて実力を確認し、雨宮が良ければ継子に誘ってみようと思った。
*****
稽古はとても楽しく、有意義だった。
今まで、稽古をつけた隊士は、一刻程で音を上げる者ばかりだったが、雨宮は何時間も、全く音を上げなかった。
しかし、さすがに数時間も経てば、体力の限界が来たようで、彼女は汗を散らしながら床に這いつくばる。それでも竹刀を手離さないので、良い心意気だと思う。
「れ、煉󠄁獄様……大変申し訳ございませんが……休憩させていただけないでしょうか……」
そう言った彼女は、息も絶え絶えといった様子だった。
外を見ると、日が昇りきっており、腹も空いている気がしてきた。
「休憩するか!」
俺がそう言うと、雨宮は嬉しそうに涙を流していた。
*****
千寿郎に茶の用意を頼んで縁側に座ると、雨宮は何故か俺の後ろで正座をする。背筋をすっと伸ばし、隙が無いように見える。
休憩なのに、そのような体勢では落ち着かないだろう。外は風が吹いているから、汗も冷やしてくれる。
「何故そんなところに座っている?おいで」
声を掛け、自分の隣を軽く叩く。
雨宮は俯き加減で俺の隣に来て、縁側に腰掛ける。その動作ひとつひとつが丁寧で、育ちが良いのではないかと感じた。
継子の話をしようとすると、あろうことか、雨宮は襟を持って、自分を扇ぎ始めた。前後する稽古着から、彼女の胸元が垣間見え、言葉を失う。
彼女が手を止め、こちらを見てきたので、咄嗟に反対側を向いた。
「煉󠄁獄様?」
覗き込んでくる気配がするが、顔を合わせづらいので、体勢は戻さない。
彼女が諦めて戻ったところで、俺も前を向く。千寿郎が掃除してくれた庭は、今日もきれいだ。
そういえば、雨宮は俺のことを「煉󠄁獄様」と呼んでいる。なんとなくだが、そのように堅苦しい呼び方は嫌だと思った。
「……様付けでなくてよい!」
「では、煉󠄁獄さん?」
「俺には父も弟も居る!皆、煉󠄁獄さんになってしまうぞ!」
「……では、杏寿郎さん?」
「うむ!」
なんとなく満足だと感じた。
あと、先程のことは注意しておこう。
「それと、男の前で襟を動かすのは良くない!」
「え!?」
視界の端で、雨宮がオロオロと慌て始めた。
胸元を見てしまった後ろめたさから、彼女の方を向くことができないが、きっと可愛い表情をしているのだろう。
「申し訳ございません……あの、さっきのは、涼んでいただけで……」
怒っているわけではないので、そんな風に言い訳をせずともよいのだが。
「わかっている!しかし、深月は女性だろう!気を付けるべきだ!」
「えっと……はい……」
思わず名前で呼んでしまった。
彼女はそれに気付いてか、はたまた関係ないのか、何も言わなくなってしまった。
そろそろ継子の話をしようと、改めて思うが、どうにもしっくり来なかった。
継子になってほしいというのも本当だが、それ以上に、彼女に別の何かを求めている気がする。
何なのだろうと考えていると、千寿郎が茶と菓子を持ってきてくれたので、考えるのを止め、三人でお茶にすることにした。
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