失望の中で
鬼の首を斬って、刀を鞘に収める。
死人は出さずに済んだが、私が駆けつけたときには、親子連れが鬼に襲われている最中だった。
父親が子供を庇い、右腕を飛ばされていた。
私がもっと早く到着していれば、父親は五体満足で助かっただろうに。
隠の治療を受けている父親に近付き、跪く。
「申し訳ございません。私がもっと早く駆けつけていれば、貴方の腕は失くならなかった」
深々と頭を下げて、精一杯の謝罪をする。
謝罪したところで、彼の腕は戻ってこないが、それでも、謝りたかった。
母親と子供は「そんなことない」と、「貴女のおかげで家族の命が救われた」と御礼を言ってくれた。
しかし、父親は残っている左手で、砂や石を掴み、私に投げつけてきた。
「命が助かったって、利き腕が無けりゃ家族を養えねえ!やっと一人前になれた仕事もできねえ!どうして、もっと早く来てくれなかったんだ!!」
何度も、何度も、砂や石を被った。その度に、私には謝罪することしかできなかった。
きっと、この家族の生活はお館様が保障してくださるだろうが、彼は仕事に誇りを持っていたようで、お金の問題ではないのだろう。
隠の皆が、「傷に障るから」と父親を宥めてくれた後、父親は歯を食い縛りながら、静かに泣いていた。
その涙は、私を責めているのだと思った。
*****
この任務の話は、お館様から柱の皆様に伝わったようで、面識のある柱の方々が、会う度に慰めてくれるようになった。
「お気持ちは分かりますが、仕方ないこともあります」
しのぶさんは、優しく笑って、飼っている綺麗な金魚を見せてくれた。
「深月ちゃんは頑張ってると思うの!きっと美味しい物を食べたら元気が出るわ!」
蜜璃さんは、ハイカラなご飯をたくさんご馳走してくれた。
「情けない。それでも鬼殺隊の剣士か」
義勇さんにだけは、厳しく叱責された。
同じ水の呼吸の使い手で、同じく鱗滝さんを師としているからということもあるだろうが、この人はもともと厳しい人だ。
私は言い返す言葉もなかった。救った人が四肢欠損になっては、救った意味がない。
今の今まで我慢していた涙が、溢れてきた。
私は多分、誰かに責めてほしかったのだ。優しく慰めてもらっても、心は晴れなかった。
あの父親の顔と飛んでいった右腕が、頭から離れなかった。彼のように、寸でのところで誰かに取り返しのつかない怪我をさせるのが怖くて、「お前に剣士は向いていない」と再起不能になるまで責めてほしかったのだ。
「泣くな。泣いても誰も救えない。もっと鍛練を積め」
そう言われても、私の涙は止まってくれない。
なんでもっと責めてくれないの。お前が悪いって、辞めてしまえって言ってくれないの。私は誰もまともに救えた試しが無いのに。
私があまりにもボロボロと泣くものだから、義勇さんは袖でゴシゴシと私の顔を拭いてきた。とても痛い。
「泣くなと言っている。たまになら、鍛練に付き合ってやるから」
最後に、背中を強く叩かれた。鱗滝さんが腹を叩くときと力加減が同じなので、なんだか懐かしくなった。
私は、この人や鱗滝さんの名前に、これ以上泥を塗るわけにはいかないのだ。心は完全に晴れていないが、前を向くことにする。
「深月。今日、時間はあるか?」
何回も頷いてから義勇さんの方を見ると、基本的に無表情な彼が、少しだけ笑っているように見えた。
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