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煉獄さんとメイド服



※煉獄さんがメイド服を着せられるネタです。閲覧注意です!


「何でもしてくれるって言ったじゃない……」

ぐずぐずと鼻をすすりながら泣く深月に、杏寿郎は眉間に皺を寄せて冷や汗を流す。

普段は強気な彼女は、今現在高熱を出していて、かなり気が弱っている。

杏寿郎が彼女から連絡を受け、レトルトのおかゆやらゼリーやらスポーツドリンクやら、色々買って駆け付けたのが十五分程前のこと。

普段と違って、甘えてくる深月がいつにも増して可愛くて、「熱が下がるまで側に居てやる。何でもしてやる」と杏寿郎は言った。

そして、それを聞いた彼女は「じゃあこれ着て看病して」と、あるものを取り出した。

杏寿郎はどうしてもそれを着るわけにはいかず、拒否したのだが、弱っている深月はぐずり始めたのだ。

絶対にそれを着てほしい深月と、絶対にそれを着たくない杏寿郎の攻防がかれこれ十分程続いているわけだが、杏寿郎は心が折れそうになっていた。

今まで、どんなに喧嘩をしたって、こんなに弱気な彼女は見たことがない。

先程、「何でもしてやる」と言ったのは本心だ。いつも以上に深月を守りたいと思ったのだ。

ただ、彼女が鼻を啜りながら持っているそれは、何故か男性サイズのメイド服で。

何度も目を疑ったが、何回見ても、目を凝らしても、紛うことなきメイド服だった。

杏寿郎は、こんなものどこで買ったんだ、と思いつつ、さらには彼女の趣味を疑ってしまう。

「なあ、他のことにしてくれ……ほら、別の物なら着るぞ! 以前、お揃いのパジャマを着てみたいと言っていただろう!」

その時は、なんだか気恥ずかしくて断ったが、メイド服と比べればはるかにましだ。

「やだ! これがいいの!!」

しかしながら、深月は小さい子どものように駄々をこねる。
いや、小さい子どもはこんなに趣味の悪いことは言わないが。

「勘弁してくれ」

杏寿郎は困り果ててため息を吐き、片手で額を押さえながら項垂れる。
指の隙間から深月を見て、その姿にさらに心が折れそうになる。

要求は不可解だが、深月が弱っているのは事実で。
理由はともかく泣いている彼女をこれ以上見るのも耐えられなくて。

杏寿郎は腹を括った。

「わかった。今回だけだからな」

その言葉で、深月はぱあっと顔を明るくさせ、嬉しそうに頷いた。

その顔を見れるなら、自分の恥など些末なことか、と杏寿郎は困ったように笑いながら、小さく溜め息を吐いた。


*****


しかし、杏寿郎は自分の決断をあっという間に後悔した。

(なんだ、この服は……!?)

深月が用意していたメイド服は、スカートの丈が短く、少し動くだけで中が見えてしまいそうだった。
胸元は大きく開いたデザインで、ご丁寧にカチューシャまでセットだ。しかも、どこもかしこもフリルたっぷりだ。

こんな服が男性サイズで販売されているなんて、日本の需要と供給はどうなっているんだ、と頭を抱える杏寿郎。

まあ、需要と供給が合致したから、深月がこの服を持っていたわけだが。

杏寿郎は一応着てみたメイド服を脱ごうとして、はた、と思い留まる。

やっぱり無理でした、は今の深月に通用しないだろう。
泣いて、喚いて、体調が悪化するかもしれない。

そんな姿を想像するだけで、胸が苦しくなった。

「深月のため、深月のため……」

杏寿郎はなんとか自分に言い聞かせて、深月の元へ戻った。

「きゃー! 杏寿郎、可愛い! 似合う!」

杏寿郎の姿を見るなり、深月は飛び起きてはしゃぎ始める。

どこがだ、と言いたいのをぐっと堪えて、杏寿郎は微笑みながら彼女を寝かせる。
今、そんなことを口にすれば、せっかく良くなった機嫌が一気に急降下する。
深月の泣き顔は、見ているだけで辛くて寿命が縮んでしまう。

「さて、何か食べられそうか?」

杏寿郎は心を殺して、深月の世話をする。

ゼリーを食べさせて、水分を摂らせて、薬を飲ませ氷枕を作って。

その間、深月は終始嬉しそうで、杏寿郎も羞恥心が麻痺してきた。
本来なら麻痺するべきではないが、嬉しそうな深月は可愛いし、彼女の体調はずっと心配だしで、それどころではなくなってきたのだ。

だが、しかし。

「杏寿郎、今日はパンツ黒いんだねえ」

深月のそんな一言に、杏寿郎の動きがギシッと固まる。

深月としては、見えたままを口にしただけで、見えたと言ってもほんの端っこだったが、杏寿郎の頬を赤く染めるには充分だった。

「見たのか!?」

杏寿郎は思わずスカートの裾を押さえる。

極稀に、深月の下着が見えた際、彼女もスカートの裾を押さえていた。
今までは、見えた後に何を今更、と思っていたが、体が勝手に同じ行動を取ってしまった。

「見えたの」

深月はへらっと笑ってから、枕元のスマホを取り、赤面する杏寿郎をカメラに収めた。

あまりに流れるような動作だったので、杏寿郎は何が起こったのか理解できなかった。

シャッター音が部屋に響いて、数秒後。

「何故撮った!? 消してくれ!」

状況を理解した杏寿郎は慌てて深月に飛び付く。
深月は楽しそうな悲鳴を上げながらも、スマホの電源ボタンを押してロック画面に戻してしまう。

全然楽しくないどころか、生き恥の証拠を残された杏寿郎は顔を青くする。
彼は、深月のスマホのパスワードを知らない。

「深月、ロックを解除しろ! 写真を消すんだ!」
「やだ、もったいない。杏寿郎可愛いんだもん」

深月は一向に写真を消す気配がない。
杏寿郎が本気で焦っていることにも気付かず、彼の背中に腕を回す。

「杏寿郎、あったかいね」

そして、彼で暖を取りつつ眠りについてしまった。

杏寿郎は勝手に見るのは悪いと思いつつ、なんとか指紋認証でスマホのロックを解除しようとしたが、深月は指紋を登録していないらしく、反応しない。

絶望しつつ、犯人の顔を見れば、穏やかに眠っていた。

その安心しきった寝顔を見ていると、一旦写真のことはどうでもよくなって、杏寿郎は深月の隣に寝転ぶ。

彼女の髪を撫で、布団を丁寧に掛けてやり、腹の辺りをぽんぽんと叩く。

写真は深月が目覚めてから消してもらえばいい、と思いつつ、目の前の愛しい女性を抱き締める。

今は彼女の体調が回復することが優先だ。


*****


深月はうっすら目を開けて、なんとなく布団がいつもより重いことに気付いた。

しっかり目を開ければ、杏寿郎の顔が真近にあって、心臓が跳ね上がる。

(なんで杏寿郎が居るんだっけ?)

痛む頭で考えながら、眠っているらしい彼の顔を眺め、あることに気付く。

杏寿郎が、フリフリのカチューシャを着けている。

それを見て、寝る前のことを思い出した。

「そっか。杏寿郎、私のワガママ聞いてくれたんだった……」

申し訳ないと思うと同時に、メイド服のまま眠っている杏寿郎が可愛くて、言っちゃ悪いが滑稽で、深月はくすくすと笑う。

少しして、杏寿郎の顔を改めて見ると、見慣れた色合いの瞳と目が合った。

杏寿郎も深月の笑い声で起きたのだ。

燃えているような色合いの瞳の中に、本当に燃えている感情が見えた気がして、深月はゆるゆると目を逸らす──が、力強い手によって、元の向きに戻される。

再度目が合って、深月は小さく悲鳴を上げる。

気のせいではなかった。
杏寿郎の瞳は、確かに燃えている。怒りによって。

そこで、彼の目がふっと柔らかく細められる。

それが、怒りが治まったわけではないことを、深月は知っている。

「楽しそうだな。深月」
「い、いえ、とんでもない……」

杏寿郎の声は静かなのに迫力があって、深月の声は上擦る。

「君にもお返ししなければな」

そう言う杏寿郎の笑顔がとても恐ろしいものに見えて、深月は涙目になりながら許しを乞うた。







 




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