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温かい。寒くない。
だが、頭は熱っぽいまま。むしろひどくなっている。

熱に浮かされたジュリアがうっすらと目を開ける。
首すら動かすのが怠く、目だけ動かして周囲を確認する。
どうやら、客室のベッドに寝かされているらしい。

倒れたジュリアを発見して悲鳴を上げた侍女には、悪いことをした。

ふと、見覚えのある黒髪が視界に入り、乾いた唇を動かす。

「ガイアス……?」

名前呼び。今までは『王様』と呼んでいたのに。

ガイアスは一瞬固まるが、すぐにジュリアの額に手を置く。

「まだ熱が高い。寝ていろ」

ジュリアは素直に目を閉じ、うーんと唸る。

苦しいのか、とガイアスが思っていたら、また口を開く。

「患者さん、最後まで看れなかった……元気になったかなあ。あんまり食事、摂れてなかったけど……私ぐらいの娘さんがいるって人も居たの……」

ガイアスに聞こえるかどうかの、小さい声だった。
ガイアスは黙って話を聞く。

「……私が、最後の感染者だったらいいなあ」

えへ、と笑う顔は、年相応の少女のものだった。

「大丈夫だ。側にいるから、もう寝ろ」
「うん……ガイアス、なんだかお父さんみたい」

特に年齢にこだわりは無いが、『お父さん』はさすがに聞き捨てならなかった。

「俺はお前の親のような歳ではない」
「あれ、何歳だっけ……?」

本気で知らないという顔。

「ジュリアの十個上だ」
「じゃあ、お兄ちゃんだね」

ジュリアはまた笑ってから、眠りについた。


*****


鳥の鳴き声に目が覚める。
何時間、いや、何日寝ていたのだろう。

喉が渇いて張り付き、身体はひどく重い。

ジュリアはゆっくり部屋を見回し、王城の客室であることを確認する。

「……え!?」

ある一点を見て、思わず声をあげた。

「お、王様!? どうして居るんですか!?」

飛び起きて、その勢いで額に乗っていた布が落ちる。

ガイアスだ。いつもの鎧ではなく、私服で、ベッド脇の椅子に座っていた。

「ガイアスでいい。敬語も要らん」
「え?」

文脈が理解できず、ジュリアは混乱する。

ガイアスは落ちた布を拾ってから、ジュリアを寝かせて、布を水に浸して彼女の額に乗せた。

「医師を呼んでくる」

それ以上は何も言わず、部屋を出て行った。










 




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