10
温かい。寒くない。
だが、頭は熱っぽいまま。むしろひどくなっている。
熱に浮かされたジュリアがうっすらと目を開ける。
首すら動かすのが怠く、目だけ動かして周囲を確認する。
どうやら、客室のベッドに寝かされているらしい。
倒れたジュリアを発見して悲鳴を上げた侍女には、悪いことをした。
ふと、見覚えのある黒髪が視界に入り、乾いた唇を動かす。
「ガイアス……?」
名前呼び。今までは『王様』と呼んでいたのに。
ガイアスは一瞬固まるが、すぐにジュリアの額に手を置く。
「まだ熱が高い。寝ていろ」
ジュリアは素直に目を閉じ、うーんと唸る。
苦しいのか、とガイアスが思っていたら、また口を開く。
「患者さん、最後まで看れなかった……元気になったかなあ。あんまり食事、摂れてなかったけど……私ぐらいの娘さんがいるって人も居たの……」
ガイアスに聞こえるかどうかの、小さい声だった。
ガイアスは黙って話を聞く。
「……私が、最後の感染者だったらいいなあ」
えへ、と笑う顔は、年相応の少女のものだった。
「大丈夫だ。側にいるから、もう寝ろ」
「うん……ガイアス、なんだかお父さんみたい」
特に年齢にこだわりは無いが、『お父さん』はさすがに聞き捨てならなかった。
「俺はお前の親のような歳ではない」
「あれ、何歳だっけ……?」
本気で知らないという顔。
「ジュリアの十個上だ」
「じゃあ、お兄ちゃんだね」
ジュリアはまた笑ってから、眠りについた。
*****
鳥の鳴き声に目が覚める。
何時間、いや、何日寝ていたのだろう。
喉が渇いて張り付き、身体はひどく重い。
ジュリアはゆっくり部屋を見回し、王城の客室であることを確認する。
「……え!?」
ある一点を見て、思わず声をあげた。
「お、王様!? どうして居るんですか!?」
飛び起きて、その勢いで額に乗っていた布が落ちる。
ガイアスだ。いつもの鎧ではなく、私服で、ベッド脇の椅子に座っていた。
「ガイアスでいい。敬語も要らん」
「え?」
文脈が理解できず、ジュリアは混乱する。
ガイアスは落ちた布を拾ってから、ジュリアを寝かせて、布を水に浸して彼女の額に乗せた。
「医師を呼んでくる」
それ以上は何も言わず、部屋を出て行った。
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