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ジュリアがカン・バルクに来てから数週間。
流行り病の軽症者はともかく、重症者が増えることはなくなった。

その辺りから、カン・バルクの医療従事者のジュリアを見る目が変わってきた。

最初は攻撃的な視線ばかりだったが、最近は仲間として認められてきたようだ。

「ジュリアは若いのにすごいわね。ラ・シュガルは、学問をする場所として最適なのかしら?」
「そうですねえ……大きな医学校がある点は良いと思いますけど、身分と独裁の国でもありますからねえ」

何気ない話をする相手も増えた。
敵国とはいえ、他国の話は、カン・バルクの人間にとって物珍しいらしい。

「でも、夜域は綺麗ですよ。ずっと星空が見れて、街の灯りも神秘的で」
「夜域かあ。行ってみたいなあ」

そんな話をしているうちに、入院患者の診察の時間になる。

「すみません、もう行かなきゃ。これから重症患者さんに精霊術を掛けに行くんです」
「えっ! 貴女、昨日も一昨日もそう言って、まともに休憩取ってないじゃない! ごはん食べてるの?」

ジュリアは曖昧に笑って、「大丈夫です」とだけ答えた。

しかし、周りから見れば、ジュリアは全然大丈夫ではなかった。

休憩室の机で寝落ちすることがしばしば。
風呂は診療所代わりの家に備え付けのシャワーだけで済まし、濡れた髪のままこの雪国を奔走している。
ガイアスの王城に客室を与えられているのに、数週間戻っていない。
重症患者に一晩付きっきりで様子を見ていたこともあった。
毎日、膨大な量の精霊術を使っている。

その事を心配した医師が、ガイアスに陳情に向かったくらいだ。

ガイアスはガイアスで、「本人が辛いと言えば対応する。それまでは適度に休みを取らせるように」とだけ答えて、後は関与しない。

適度に休みを、と言われても、ジュリアは言っても休まない。
ガイアスはジュリアのことをさして心配していないようだった。使える物は使う主義なのだろうか。

医師は困ったまま、さらに数週間見過ごすこととなった。


*****


その日、ジュリアの顔色は目に見えて悪かった。

さすがに、医師がジュリアに休みを告げる。

「もう後は軽症者だけだし、精霊術を無理に掛けなくていい。君が感染者だったら、他の医師や看護師に感染する。迷惑だ」

冷たい言い方だったが、こうでも言わないとジュリアは休んでくれなかった。

もう何週間ぶりかわからないが、ジュリアはしぶしぶ城の客室へと戻る。

ドアを開けて、部屋に入った瞬間、限界が来た。

その場で膝をつき、倒れ込む。
ドアを閉めることすらできないまま。

(あれ? おかしいな……)

もっと元気なつもりだったのに、身体が動かない。
寒気がするのに、頭は熱っぽい。

(しまった……本当に感染してる……)

このまま王城に居れば、城の誰かに移してしまうかもしれない。
ジュリアは診療所として借りている家へ戻ろうとするが、身体は起き上がってくれない。
何だったら、かなり眠くもある。

「きゃあああ! ジュリア様、どうされたんですか!?」

遠のく意識の中、侍女らしき悲鳴が聞こえた気がした。










 




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